ヘイト本ブームがもたらす経済面への影響――今後の日本経済全体に大きなマイナスが…

写真拡大

 今、書店をのぞけば、「世界情勢」や「東アジア」といったコーナーや、ベストセラーのコーナーを埋め尽くす本がある。異様に長いタイトル、帯文が特徴の「ヘイト本」だ。一時は沈静化したが、再び隆盛の兆しを見せている。

◆ブームは思わぬ方向へ。経済面への影響も

 長期衰退傾向にあえぐ出版業界にとっては、ヘイト本の第2次ブームは、まさに干天の慈雨。だが、ここで潤うのは出版業界と関連産業だけだ。ヘイト本に頭を染められた日本人が増えることで、日本経済全体で見れば今後大きなマイナスがやってくると、経済学者の平川均氏は警鐘を鳴らす。

 日本や中国、韓国を含む東アジア諸国は、今や経済的相互依存の関係にある。それを端的に表す貿易額にフォーカスしてみよう。財務省の統計によると、’16年に日本が中国と取引した輸出入総額は約30兆円、韓国は約8兆円だった。いずれも日本にしてみれば、1番目と3番目(2番目はアメリカ)の貿易相手国にあたる。

「日中韓にASEAN諸国を加えた東アジア域内は、事実上の経済統合が実現されています。’60〜’80年代にかけて、多国籍企業は、安価な人件費を求めて発展途上の各国に現地法人をつくり工場を建設していきました。その結果、国境を越えて企業の生産ラインが構築され、工作機械や原材料、部品などが取引されるようになり、域内数か国を経由して組み上げられた完成品を欧米などに向けて輸出する構造が出来上がっているのです」

 さらに、日本にとって中国や韓国は、今や生産拠点という役割だけでなく、マーケットとしても重要度を増しているという。

「東アジア域内全体のGDPは、NAFTA(北米自由貿易協定)やEU(欧州連合)経済圏を抜き世界一の市場となっています。中国の自動車市場が世界最大に成長した現実を見れば、日本がどれだけ東アジア経済に支えられているかがわかると思います」

 現在、日本は少子高齢化問題を抱えており、国立社会保障・人口問題研究所によれば、日本の人口は2053年に1億人を切り、2065年には8800万人まで減少するという。今後の日本経済の縮小は避けられず、いかに東アジア諸国の経済力を取り入れていくかが日本の勝機の分かれ目となる。

 そのために平川氏は、早急に貿易や投資の自由化・円滑化、知的財産権の保護、観光促進などを包括する経済連携協定(EPA)締結の必要性を訴える。

「この構想が実現すれば、日本は東アジアという巨大なマーケットをフル活用できるようになり、日本のGDPは1.4%増加するでしょう。現在、日中韓はそれぞれがASEANと個別にEPA・FTA(自由貿易協定)を締結しており、中韓間もすでに発効済み。しかし日中間、日韓間だけが協定を結べていません。その原因は、主に歴史認識が尾を引いており、近年のヘイト本ブームに見られる煽動的商業主義は、相互不信を積み重ねるだけです」

 安直なヘイト言論に共感する読者と、日々の運転資金のためにヘイト言論で稼ぐ著者と出版社。国家経済という視点からは、出版界の罪は大きいのかもしれない。

【平川 均氏】
経済学者。名古屋大学名誉教授。現在は国士舘大学の教授を務める。近年の共著に『新・アジア経済論』(文眞堂)などがある

― なぜ[ヘイト本]は売れ続けるのか? ―