社内の派閥争いにどう向き合えばいいのでしょうか(写真:tomos / PIXTA)

結婚・出産で大きく変化する女子の人生は、右にも左にも選択肢だらけ。20代はもちろん、30代になっても迷いは増すばかり。いったいどの道を選べば幸せに近づけるのか? 元リクルート“最強の母”堂薗稚子さんがお答えします。
※お悩み相談はこちらのアドレス(onnaーsodan@toyokeizai.co.jp)まで
【ご相談】
社内派閥について相談させてください。着任して1年になる今の上司は、前任の上司とすごく仲が悪くて有名です。今の上司は情に厚いタイプ、前の上司は頭が切れるドライなタイプ、と真逆の性格ですが、不仲の原因はわかりません。私は前の上司をとても尊敬していて、今でも食事に行ったり仕事上のアドバイスしてもらったり、かわいがってもらっていると思います。一方、今の上司とも仕事上の信頼関係が築けていると思っていました。
ところが先日、今の上司から、「君は○○(前の上司)派だからな」「その件は○○にアドバイスをもらったら?」と嫌味を言われて、びっくりしました。そんなふうに思われていたのがショックで先輩に相談したところ、「周りからも○○派だと思われていると思うよ」と言われてさらに衝撃を受けました。私はそんなつもりはなかったのですが……。今の上司とも前の上司とも、うまくやっていきたいのが本音です。そんなに都合よくはいかないものでしょうか。どういうふうに社内の派閥争いに向き合えばよいのか、すごく戸惑っています。

まるで恋人の嫉妬問題?!


この連載の一覧はこちら

まるで、恋人の嫉妬問題のようじゃないですか!

社内派閥じゃなくて、社内恋愛の相談かと思ってしまいそうになりますが、あなたは、今の上司と前の上司の板挟みで困っていらっしゃるのですね。突然、そんなことを言われたら、誰でもびっくりしてしまうでしょう。自覚がなかったのだからなおさらです。

それにしても、あなたの上司も大人げないですねぇ。普通は仮にそう思っていたとしても、かっこ悪くてなかなか言えないことです。よほど腹に据えかねたのでしょうか。今は、その発言を後悔し、「あんなこと言わなければよかった」と凹んでいると思いますよ、きっと。

「派閥」というと普通は集団のことを言いますね。そして、「派閥」という言葉には、政治的な利害関係を真ん中にした集団、という意味が含まれていることが多いと思います。つまり、力のある誰かの「派閥」に属することで、自分も「得をする」といった意味合い、または、誰かと志と行動を共にするといった意味合いがあるでしょう。

ご相談文だけでは判断しかねますが、今の上司と前の上司はそれぞれに、自分を取り巻くグループを作っている、ということなのでしょうか。だと仮定して話をしますが、経験から言うと、その2つの派閥のどちらに属しても、あなたに大きな得はないでしょうね。

派閥の前提は、あくまで「組織に影響力のある人」を中心にした集団です。今の上司は、おそらく部下を家族のように愛し守るという意識が強く、一方で支配的なにおいもぷんぷんします。家族以外の人と接するときに、いちいち目を光らせて、「誰と何を話したか」「自分の下からいなくならないか」を疑り深くチェックするような、面倒な親みたいなタイプの上司は、ほとんどの場合は仕事ができない、と思ったほうがよいと思います。

本来は、部下の強みや個性にあわせて、多くの人とかかわらせて仕事の経験を積ませるべきところです。それなのに、自分の下に囲ったままにしようとした揚げ句に、外の人と接したことを責めるなんて! 人としての器も小さいし、自分自身も頑なな仕事ぶりで評価を下げてしまっているに違いない。

きっと、愛情深くて人間味にあふれる人なのだとは察しますが、その人についていっても、その人が自分を超えて部下が成長していくことを喜び、支援するとは考えにくい。部下はその人以上の存在にはなれないと思ったほうがよいでしょう。

前の上司はどうか

それでは、前の上司はどうか、というと、私には彼も今イチに見えます。前いた部署の部下をかわいがり続けるのであれば、普通は今の上司にそれなりに気を遣うものです。部下が職場で居心地が悪くなったらかわいそうだし、今の上司とは違う判断やアドバイスをして、うっかり否定してしまうことにだってつながりかねませんから

心ある人だったら、抽象的な話にとどめたり、今の上司へつなぐアドバイスをしたり、あるいは本人に言いにくい指摘をして励ましたり、その人が今の職場で活躍できることを支援するものだと思います。そして、これまで見てきた、私の心ある元上司たちは、必ずといっていいほど裏で現上司にフィードバックしていたと思われます。

若い頃は、「話が筒抜けで嫌だなぁ」と思ったりしたものでしたが、変なフィードバックなどはしていませんでした。私の成長を支援するための情報を提供している、というか、そういったことだったのではないかなと思います。

それを聞いた上司がちゃかすように、「○○さんと飲んで、ずいぶんくだを巻いたらしいじゃない?」「オレがしかられたじゃん、勘弁してよ」などと伝えてきて、「すごく真剣に相談したのに!」「それであなたはどう思ったのさ?」と腹立たしいような悲しいような気持ちになったこともありましたが。

あなたの前の上司は、頭がよくてドライなタイプとのことですが、人の気持ちの動きをつかんで仕事をしていないようにも感じられます。誰だって1人だけでは仕事はできないのだし、人の気持ちに敏感な人でなければ、大きな仕事なんて成し遂げられません。あなたのことを評価してはいても、あなたが評価されるようにどう動けばよいか、までは考えていないかもしれない。つまり、前の上司についていっても、あなたが得するように指導してくれるかどうかは微妙だということです。

まぁ、そもそも、その上司同士、いくら仲が悪かったとしても、不仲だと有名になるような行動をとり続けるなんて、とても派閥を持ち、組織に強い影響力を発揮するリーダーとしての度量があるとは思えません。これは「社内派閥」ではなくて、ただの上司同士の「不仲」。「社内派閥争い」に巻き込まれたとか、それに属するかどうかとか、というような大げさな話からは遠いでしょう。

どちらかを選ぶ必要も悩む必要もない

話はそれてしまうかもしれないですが、私はこれまで、「派閥」に誘ってもらったことも属したいと思ったこともないのです。それは、私は仕事ができない部下だったこともあるだろうし、損得にやや鈍感だったこともあると思います。でも、社内で影響のある、力のある人たちで、個人的に慕いまくっていた人はたくさんいました。

その経験から思うことは、「○○さん派」は、その人が作ろうと思って作られるものではなくて、その人を慕う人たちが勝手に集ってきてできてしまうものだということ。私が尊敬してつきまとっていた人たちは、同じメンツで頻繁に集まっているときは、スポーツとか食べ物とか、真ん中に「好きな遊び」「趣味」があって、仕事人ではなく友人同士の顔をしているように見えていました。仕事の話をしている雰囲気はまったくなかったので、「趣味が同じ」でなければ、その中に交じろうと思ったことはありません。

ただ、会うたびに新鮮な学びを得られる人、人として前向きなパワーを与えてくれる人とは、組織を超えて教えを請いたいし、相談してしまうし、個人的なことでも何かあれば力になりたいと思ってしまうものですよね。だから、私はその人とマンツーマンの「師弟関係」は結びたいと強く願いました。だからこそ、「派閥」が仮にあったとしても、それが私には見えなかったのかもしれない、と今になって思います。

あなたも、「派閥」なんて大げさな話ではなくても、今の上司、前の上司のそれぞれのよさを知っていて、刺激を受けることが多く、もっと教えを請いたいと思うのであれば、それぞれをそれぞれのポイントで、思い切り慕ってしまえばいいのではないでしょうか。

わざわざ、どちらかを選ぶ必要も悩む必要もありません。先輩が「○○派だと思われている」と言うのは、「前の上司を慕っているよね」くらいの意味にとらえておいて、ただ、今の上司にはもう少しだけ気遣いをするようにしてみたらどうでしょう。

上司同士、仲が悪いということですから、2人の仲を取り持つ必要なんてないし、あなたにできることは限られています。お互いのところで、相手の愚痴や悪口を言わないようにする。そして、前の上司と個人的に会うときはこそこそしないで、「○○さんに活入れてもらってきます!」などと明るく、今の仕事にかかわる相談なんてしていないよ、という雰囲気を出す。

その後も「○○さんにも、ここがダメだと指摘されてしまいました」などとごく普通にフィードバックしてみるようにしましょう。最低限、前の上司に吹き込まれて異なる意見を言ったり、今の上司をないしがろにしているわけではない、と思ってもらえるような態度でいる。警戒心の強い、心の狭そうな人ですから、「さすがです!」「頼りにしています」と尊敬の言葉はいちいちに口にして安心してもらうといいかも。

それでも大人げない態度をとるようなら、最終手段として、上司の上司に対応を相談して、しかってもらうしかないかもしれません。今の上司にとっては裏切られ感があるでしょうが、ここまで努力してわかってもらえない忠誠心なんて、どこまでいっても理解してもらえないし、信頼関係ももうなくなっているでしょうから。

とはいえ、本来は、こそこそすると警戒心を強くさせてしまうので、のほほんとしたコミュニケーションを心掛けていれば、大きな損はしない気がしますよ。

学ぶべき人のパイが減ってしまうのはもったい

社内政治や損得だけのために、学ぶべき人のパイが減ってしまうのは、なんだかとてももったいないことです。「社内派閥」なんて、恐ろしげな言葉に振り回されず、よいところをたくさん持った先輩たちと明るく「師弟関係」を結んでみてはどうでしょう。

上司も完璧ではありません。よいところ、今イチなところ、いろいろあるから面白いし、学ぶことも多い。今の環境もどうか楽しんで、もっと成長していってもらえたらと思います!