22試合を終えて暫定首位に立った沼津。来季のJ2ライセンス取得の見込みはないが、躍進を続ける。(C) J.LEAGUE PHOTOS

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 J3に『下からの風』が巻き起こっている。23節を前にして、17チーム中の首位はブラウブリッツ秋田で、2位がアスルクラロ沼津。いずれも2018シーズンのJ2ライセンスを取得する見込みが立っていないクラブだ。J3からJ2への自動昇格枠は『2』だが、両クラブがこのまま走れば昇降格枠は『0』になる。

 
 沼津は2014年に地域リーグからまずJFLに入会。J3発足によってクラブが抜け、JFLの枠が空いたことによる昇格だった。昨季のJFLで年間3位の成績を収めて昇格し、今季はJ3初年度を迎えている。とはいえチームを取り巻く状況は吉田謙監督が「Jリーグ全体の中でも下位の下位の下位の悪環境」と語るレベルだ。午前中にボールを蹴り、午後は仕事に向かうというサイクルで、選手たちは生活している。
 
 17日の23節、沼津は愛鷹広域公園多目的競技場にカターレ富山を迎えた。富山は沼津から勝点5差の4位。こちらにとっても4年ぶりのJ2復帰に向けて、上位を叩かねばならないという大一番だった。
 
 台風18号の影響でスタジアムには強烈な風が吹き荒れており、ピッチサイドの看板はすべて撤去。バックスタンドと両ゴール裏の芝生席は入場禁止で、チームフラッグも掲揚されていなかった。
 
 風上を取った沼津が、試合の立ち上がりからラッシュをかける。沼津の先制点は開始45秒。相手のパスを中盤で奪って右サイドに運び、白石智之がクロスボールを送る。上手く裏を取った青木翔太が、ボレーを合わせた。
 
 吉田監督の妙手が先制点につながった。クロスを上げた白石智之は「左で出るはずだったけれど、相手が(中村)亮太の対策をしてきたので右サイド(MF)に入った」と振り返る。空中戦の強い中村に対して、富山は左SBに柳下大樹を起用する対策を採っていた。その裏を突いた試合直前の『サイド入替』が先制点につながった。
 
 後半は逆に強い向かい風を受けることになったが、押し込まれつつ隙を見せない試合運びで逃げ切った。経営規模や「J2で6年戦ったクラブを倒した」という事実を見ればジャイアントキリングかもしれないが、沼津が戦術と内容の両面で上回った2-0の完勝だった。
 殊勲の白石はチームメイトの薗田卓馬とともに『富士山ドリームビレッジ』という企業に勤務している。「放課後のデイサービスで学校まで迎えに行って、障害児に勉強を教えたり、一緒にサッカーをしたりしている」という大卒2年目の選手だ。
 
 彼は残る10試合に向けて、優勝への思いをこう口にしていた。「2位と優勝は違う。優勝して東部の皆さんに夢を与えて、J2・J1にこのチームで行きたいと思っている。まずは昇格圏内で終わって名を轟かせたい」
 
 繰り返しになるが沼津には昇格の資格がない。ただ群馬県出身、前橋育英高OBの白石にとっては、こんな『モチベーション』もある。彼は苦笑気味にこんなことを明かしてくれた。
 
「僕はザスパを毎試合見ていますが、今調子が悪くて落ちそうという中で、もし沼津と秋田が1位2位でフィニッシュしたら降格はなくなる。少しモチベーションにもなっています。僕はザスパのことばかり言っているので、すごくみんなにいじられるんですよ」
 
 もちろんザスパクサツ群馬が自力で順位を上げれば何の問題もないのだが、J2の降格圏内にいるクラブの関係者やサポーターにとって、沼津と秋田の奮闘は決して小さくない後押しだろう。
 
 それにしても沼津はなぜそんな環境で勝てるのか、戦えるのか――。それを問うた記者に対して、吉田監督はこう語り始めた。
 
「悪環境の中で反骨心がすごく強くて、向上心も持っている。こちらが言わなくても上を目指すんだ、優勝するんだという思いがある。それがプレーに直結している」