鉄道会社の役員の”実態”はどうなっているのか(撮影:今井康一)

鉄道会社の役員はどこの大学を出て、報酬をいくらもらっているのか。2016年10月24日付記事「鉄道役員『報酬と出身大学』はこうなっている」に続き、最新版をお届けする。

まず、役員報酬から見ていこう。調査対象企業は株式を上場している鉄道会社25社および東京地下鉄(東京メトロ)の計26社。データは2017年3月期末の有価証券報告書に基づく。

1位はJR東海、2位は西武HD

ここでいう”役員“の定義は社外取締役を除く取締役で、監査役は含まない。1人当たり役員報酬は、有価証券報告書に記載された役員報酬の総額を役員数で割って算出した。使用人兼務役員がいて、その報酬額が開示されている場合は、使用人兼務役員の報酬額を役員報酬に含めている。なお、役員報酬の総額には退職する役員の退職慰労金も含まれるため、役員数が少ない企業で退職する役員がいる場合は、1人当たり役員報酬が多めに出ることもある。

こうした要因を考慮したうえで、1人当たり役員報酬額が高い順に会社をランキングした。結果は表のとおりだ。

1位はJR東海(東海旅客鉄道)の5821万円。昨年に引き続き全鉄道会社中トップとなった。2位は西武ホールディングス(HD)の4783万円、3位は京阪ホールディングスの4580万円で、持ち株会社が2〜3位を占めた。4位の西日本鉄道は昨年6月に監査等委員会設置会社に移行した後の数字である。実質9カ月分であり、年度を通しての数字であればもっと増えているかもしれない。


ランキングは上位をJRや大手私鉄が占め、下位を中小私鉄が占めている。阪急阪神ホールディングスが24位にランクされ、1人当たり役員報酬が900万円というのは一見少ないように思える。

だが、同社の角和夫会長、杉山健博社長はそれぞれ阪急電鉄の会長、社長を兼務しており、秦雅夫副社長は阪神電気鉄道の社長でもある。このように持ち株会社の役員が子会社の役員を兼務している場合、子会社の役員報酬のほうが高額になっている場合もある。ちなみに阪急電鉄の1人当たり役員報酬は3457万円、阪神電鉄は3060万円だ。

JR東海の役員と従業員の報酬格差は7.9倍

さて、世間では高額の役員報酬を得る社長が話題になっている、たとえば『役員四季報2018年版』(小社刊)によれば、現職の役員ではソフトバンクグループの孫正義会長兼社長がトップ。配当収入を含めると103億円もの役員報酬を得ている。

有価証券報告書では連結報酬の総額が1億円以上の役員の個別開示が義務づけられている。ただ、26社中で名前の開示があったのは、西武HDの後藤高志社長の1億0700万円のみだった。昨年が1億0100万円だったので600万円増加したことになる。

有価証券報告書には従業員の平均年収も記載されているので、役員報酬と従業員年収の格差を知ることもできる。

役員報酬が高額のJR東海では、格差は7.9倍。一方で、神戸電鉄は1.7倍、秩父鉄道は1.5倍となっており、役員報酬と従業員給与にそれほど大きな隔たりはない。

ちなみに鉄道会社26社の役員報酬を合計し全役員数で割って算出した1人当たり役員報酬の平均額は2666万円だった。同様の方法で求めた従業員年収の平均は686万円。鉄道会社全体における役員と従業員の年収格差は3.9倍という結果になった。

続いて、鉄道会社役員の出身大学について見ていこう。基となる資料は『役員四季報2018年版』。役員の出身校を人数の多い順に表示している。JR東日本(東日本旅客鉄道)など役員の出身大学を開示していない会社については記載していないほか、一部の役員のみの開示にとどまっている会社もある。

JR西日本:東大7、一橋大2、早大2、京大2、立命大1、同大1、阪大1
JR東海:東大16、電機大1、京大1、慶大1、一橋大1
JR九州:九大7、東大6、早大2、慶大2、京大1、横国大1、福岡大1
東武鉄道:東大3、早大3、武蔵大2、日大2、慶大2、東工大1、成城大1
東急電鉄:早大3、慶大2、東大1
京王電鉄:早大6、慶大5、立大3、東大2、国学院大1、京大1、法大1
小田急電鉄:早大4、慶大3、東大3、都立大2、明大2、中大2、立大1
京浜急行:東大4、中大2、早大2、一橋大1、東北大1、日大1、法大1
京成電鉄:中大5、東大4、早大3、武蔵大1、日大1、青学大1、慶大1
西武HD:早大5、東大4、成城大2、中大2、東北大1、横国大1、日大1
相鉄HD:慶大4、神奈川大1、立大1、学習院大1
近鉄HD:京大4、東大3、関西学大2、阪市大2、慶大2、早大1、阪大1
南海電鉄:京大3、東大3、慶大2、神戸大2、和歌大2、立命大1、阪大1
京阪HD:阪市大2、東北大1、早大1、関西学大1、慶大1、北大1
名古屋鉄道:早大7、慶大4、京大2、明大2、名大2、東大2、一橋大1
西日本鉄道:慶大2、九大2、早大2、青学大1、一橋大1、東工大1
新京成電鉄:慶大3、早大2、日大2、中大2、駒沢大1、東海大1、専大1
京福電鉄:神戸大3、阪大1、福井大1、阪府大1、金沢大1、東大1
神戸電鉄:関西学大4、京大2、阪大1、阪市大1、神戸大1、同大1
山陽電鉄:関大6、同大2、京大2、神戸大1、阪府大1、早大1
広島電鉄:広島大2、明大2、早大2、神商科大1、関大1、立命大1

こうして見ると首都圏の鉄道会社では首都圏の大学出身者が多く、関西の鉄道会社では関西の大学出身者が多いというように地域性が浮かび上がる。JR九州(九州旅客鉄道)も九州大学出身者が最も多い。

慶応大が東京大、早稲田大よりも下

では、これらのデータを総合するとどのような結果になるか。

大学別に合計してみたところ1位が東京大学の59人、2位早稲田大学46人、3位慶応義塾大学34人、4位京都大学18人、5位中央大学13人という結果になった。

『役員四季報』によると、全上場企業役員の出身大学ランキングは1位慶応大、2位東京大、3位早稲田大、4位京都大、5位中央大となっている。そう考えると、鉄道会社役員の出身大については、1〜5位の大学の顔ぶれは全体と変わらないものの、慶応大の順位が東京大や早稲田大を下回っているということになる。鉄道会社を志望する慶応大出身者はほかの業界よりも少ないのだろうか。データで見えた「鉄道業界の不思議」ともいえる。