安倍首相は、果たして解散に踏み切るのか。自民党の重鎮・山崎拓氏は 「解散するとしたら、安倍総理自身のためでしかない」と批判する(撮影:今井康一) 

秋の臨時国会召集が28日に迫った。一時急低下した安倍晋三内閣の支持率は、北朝鮮情勢と野党第1党である民進党の支持率低迷にも助けられ回復中。臨時国会冒頭での解散も取りざたされる。安倍首相は依然として憲法改正に意欲を見せる。一方、民進党の弱体化は誰の目にも明らかだ。今後の政治はどうなるのか。解散総選挙、憲法改正の行方、小池百合子東京都知事やその関係勢力を軸とする政界再編などについて、自民党の重鎮である山崎拓・元副総裁に聞いた。

安倍首相に対する国民の不信感は簡単には消えない

――8月の内閣改造で、内閣支持率の低下には歯止めがかかったようです。支持率がさらに回復する可能性はあるでしょうか。

今後の政権運営にもよるだろう。ただ安倍総理に対する国民の不信感はそう簡単に消えない。今までの国会答弁などで居丈高に振る舞ったり、丁寧に説明すると言っておきながら、肝心なところを外して答えるなど、誠実でない総理のイメージが定着してしまったからだ。

内閣支持率の低下は、人間で言えば、体温の低下と同じだ。主要メディアの世論調査によれば、今回の改造で支持率は40%台へと浮上したが、なお不支持率と拮抗しており、総理にとっては依然厳しい。ただ北朝鮮情勢という安全保障面での緊張状態と、野党第1党である民進党の体たらくによって、助かっている。

――安倍内閣の経済政策についても、金融緩和を中心とする「アベノミクス」についても賛否が分かれています。金融緩和は一定の効果を上げたものの、たとえば中曽根康弘首相のときに実施された国鉄や電電公社の民営化実施などと比べると、構造改革についても踏み込み不足ではないでしょうか。

アベノミクスによって、失業率改善などの成果が見られ、株価も上昇したことは確かだが、金融緩和の効果については説得力のある数字で検証するのが難しく、功罪相半ばしている側面もある。さらに構造改革についても、国家戦略特区構想を武器に大々的に標榜した割には、中曽根内閣のときほどのスケール感には程遠い。逆に「森友・加計学園」問題でつまずくなど、実績が出ているとは言いがたい。

――安倍首相の自民党総裁としての任期は来年9月までで、同12月末には衆議院も任期満了になります。民進党の低迷に加え、小池百合子東京都知事とも関係が深い「日本ファーストの会」が国政政党として次期衆議院選に向け態勢を整える前に、首相が解散に打って出るといううわさが、永田町では流れています。9月末から開催される臨時国会開催中の解散の可能性はあるのでしょうか。

安倍総理は、自民党総裁選で3選を果たして引き続き政権維持をするためにも、どこかで解散をしたいと狙っているだろう。だが、本来は、この秋の解散は2つの意味でありえない。一つは内閣支持率の低さと憲法改正問題だ。今の内閣支持率は人間にたとえれば、いわゆる平熱に達していない。平熱は支持率では50%超に相当する。もし、平熱にないような状態で選挙をやって、今よりも議席数を減らしたら、責任問題になるし、総理の悲願である憲法改正ができなくなってしまう。

衆議院は自民・公明の与党で、参議院は改憲勢力でそれぞれ3分の2超の議席を有しているが、仮にいま解散、衆議院選挙となったら改憲勢力で3分の2未満になり、憲法改正の発議ができなくなる。総理がそんなリスクを冒すかどうかだ。

もう一つは北朝鮮情勢だ。解散・総選挙なら約40日間も政治上の空白ができることになるため、今の状況ではできるはずもない。もし、解散総選挙があるとしたら、(北朝鮮への対応や規制緩和改革などを推進するなどという)大義名分をつけるのかもしれないが、来年9月に任期が切れる安倍総理個人のためにほかならない。

安倍首相が憲法改正に踏み込む可能性はあるのか

――支持率の低下で、事実上憲法改正も難しくなったという声も多くあります。

現在、自民党は憲法改正推進本部の体制を拡充(幹部会の人数を9人から21人へ)し、事実上、保岡興治本部長と新たに幹部会のメンバーとなった高村正彦副総裁の2人が中心となって、年内の憲法改正案作成に向け、準備を進めている。提案は(1)憲法9条への自衛隊の根拠規定の追加(2)大学などの高等教育を含む教育無償化(3)緊急事態条項、の3つに絞るとされている。

もし、連立を組んでいる公明党を説得できれば、来年憲法改正の発議は可能になるだろうが、すでに公明党は、憲法9条の2つの項目(第1項=戦争放棄、第2項=戦力の不保持)に、第3項として自衛隊を明記する意味での「加憲」は事実上「NO」と言って、牽制球を投げてきている。

9条の第3項案には、憲法学者の95%が違憲なので反対するといわれている。第2項の「陸海空軍その他の戦力の不保持」とどう整合性をつけるのか、私に教えてほしい。第3項ではなく、「9条の2」として独立させて、「9条の1項と2項は自衛隊の設置を妨げない」などの文言を使い、自衛隊を明記するなどの方法も検討されているが、同じことだ。

それでも、安倍総理は憲法改正に政治生命を懸けていると言っているわけだから、総理がやれと言えば、高村・保岡の2人は必ずやる。自民党の中を取りまとめ、公明党とも調整し、来年の通常国会の衆参両院憲法審査会に提示する意向を持っているはずだ。

私は、最終的に憲法改正の発議と国民投票はやったほうがいいと思う。ハッキリ言って、今の自民党の憲法改正推進本部が検討している憲法改正案では国民の理解は得られないと思うが、国民投票は総選挙と同時にやったらいい。そのほうが、結論がはっきり出るからだ。

「日本ファーストの会」は早くビジョンを示せ

――小池百合子東京都知事や「都民ファーストの会」は、もし政界再編があるとしたら、その核になれるでしょうか? 小池氏は2003年から小泉純一郎内閣時代に環境大臣を務めましたが、2007年の第1次安倍晋三内閣時代には防衛大臣に就任直後に防衛事務次官人事をめぐり紛糾。結局、その後の内閣改造もあり、在任55日間で防衛省を去りました。「政界渡り鳥」として、一国の宰相候補としての器に疑問を呈する向きもあります。

2007年の防衛大臣就任時は、当時の事務次官にも問題があったとはいえ、慣例の人事手続きを完全に無視したため、自民党の安全保障調査会や国防部会からも事実上袋だたきに遭い、辞めさせられたに等しかった。ただ、あれは今回の稲田朋美前防衛大臣と同じで、小池氏に防衛大臣を任せた安倍首相のミスキャストだろう。

7月の東京都議選直後ほどではないにせよ、小池氏が今、風に乗っているのは間違いないし、やり方によってはあと2〜3年力を保つ可能性もある。東京都知事として2020年7月末までの任期まで都知事の職を全うすると言っているが、それはわからない。将来は、小池氏と近い若狭勝・衆議院議員が代表を務める「日本ファーストの会」の政党版の党首となるかもしれない。

――そうなった場合、民進党の一部の議員などが合流して保守中道の勢力を作る可能性はありますが、自民党の中で安倍首相に批判的な勢力まで、そこに合流するほどの力はあるでしょうか? 小池都知事はともかく、その周辺には、現段階でそこまでの風を起こす力は不足しているのでは?

自民党から離党者が出る可能性はゼロではないだろう。そもそも、風は選挙のときにしか吹かない。選挙に出ること自体が風になる。将来的に、小池氏が国政政党の党首として出れば、風が吹くのは間違いない。現時点では、小池氏には風を起こす力がある。

ただ、「都民ファースト」は東京都の都政改革についての最低限のビジョンを掲げたものの、「日本ファーストの会」は現時点では政党として、この国をどうするのかのビジョンを出していない。「日本ファーストの会」という看板だって変わる可能性もある。これから国会議員が集まってくるのだろうが、風を起こせる可能性があるかどうかは、「日本ファーストの会」のビジョンを見てからでないと、何とも言えない。