市内唯一の百貨店だが、「閉店のうわさは何年も前からあった」(周辺住民)(写真:編集部)

たった一つの店舗の存続問題に、自治体が揺れに揺れている。

舞台は千葉県松戸市。JR松戸駅から5分ほど歩いたところに、伊勢丹松戸店がある。1974年に開業した、市内唯一の百貨店だ。

都内の競合百貨店や郊外の大型商業施設に押され、売り上げは低迷。ちょうど今夏に賃貸借契約の更新を迎えることもあり、その動向が注目されていた。

10年間で約21億円の家賃支払い

8月29日に始まった松戸市の9月定例議会。ここで市が提案したのが、同店の4階に市の施設を整備し、伊勢丹に10年間で約21億円の家賃を支払うというものだ。地下1階から11階まで展開していた伊勢丹は、地下1階から4階までに大幅縮小して存続を図る。

この提案に議会側が猛反発。9月7日に開かれた市議会の常務委員会は、全会一致で市の支払いを認めなかった。本会議での議決はこれからだが、このままの案では議会を通る可能性はほとんどない。

この問題を議会で取り上げた松戸市議会の山中啓之議員(無所属)は「市が甘く見られている。なぜ伊勢丹の存続のために、ここまで手厚い支援をしなければならないのか」と憤る。

伊勢丹を運営する三越伊勢丹ホールディングスは「さまざまな可能性を検討している」(広報)。ただ市に対し、売り場面積の縮小と市の施設導入を存続の条件に挙げ、9月中にまとまらなければ来春以降に閉鎖すると通告しているもようだ。

行政支援を店舗存続の条件にすること自体は、珍しくはない。今回特殊なのは10年間で21億円という額の多さに加え、「重要議案にもかかわらず、(市の説明が定例会の直前に)突然出てきた」(山中議員)ことだ。

社長交代で「ガラリと変わった」

市と三越伊勢丹は昨秋から店舗存続に向けた協議を進めてきたが、「社長交代を機に、三越伊勢丹の雰囲気がガラリと変わった」(小林邦博・松戸市総合政策部長)。実はこれまで同社から提示されていたのは、11階までの売り場を維持しつつ、9階以上の一部に市の施設を入れる案だった。現計画が示されたのは5月下旬という。

3月、三越伊勢丹では大西洋・前社長が電撃辞任した。後を受けた杉江俊彦社長は企画畑出身で、「成長より構造改革に軸足を置く」と公言、それが計画変更につながったようだ。


とはいえ、同社内も一枚岩ではない。営業出身の役員は松戸店存続を主張しており、企画系の役員と意思統一が図られていない。そこに杉江社長のリーダーシップは感じられず、結果として市に“高い球”を投げているようにも映る。

「周辺市に比べ、松戸は中心市街地のにぎわいや雇用創出で劣る」(小林部長)。市は家賃などの条件を見直し、修正案を提出したい考え。ただ定例議会の会期は9月25日まで。残された時間はほとんどない。