9月18日、安倍首相は羽田空港で記者団の取材に応じ、衆議院の解散・総選挙についてはニューヨークから帰国後の22日以降に判断するとした(写真:共同)

敬老の日を含む9月3連休を襲った台風18号の列島縦断に合わせたように、永田町の解散風がそよ風からつむじ風に変わった。大手メディアが一斉に、安倍晋三首相が28日の臨時国会召集日に「伝家の宝刀」を抜くという、いわゆる「冒頭解散」を報じたからだ。

首相はすでに二階俊博自民党幹事長や山口那津男公明党代表らに臨時国会で解散する意向を伝え、ニューヨークでの国連総会から帰国する22日にも最終決断する考えである。与党内は「今しかない」(自民幹部)と臨戦態勢に入るが、虚を突かれた野党陣営は「自己保身だ」(前原誠司民進党代表)、「大義がない」(小池晃共産党書記局長)と反発しながら選挙準備に大わらわだ。国政参加を狙う「小池新党」も月内旗揚げを視野に候補者選びを急ぐ構えで、永田町は一気に選挙モードに突入した。

民進党の混乱や小池新党の準備不足を突く

衆院議員の任期満了(2018年12月)まで15カ月を切り、過去の解散史からみれば「いつあってもおかしくない」(自民幹部)のは事実。ただ、通常国会閉幕以降も「森友・加計学園疑惑」の解明は進まず、首相が8月3日に発足させた「仕事人内閣」にもまだ目立った成果はない。離党ドミノが収まらない民進党の混乱や、新たな政権の受け皿を目指す「小池新党」の準備不足を見透かしての解散戦略だ。

それだけに、北朝鮮危機に直面する政府与党が体制固めの「出直し解散」をアピールする一方、野党や一部マスコミは首相と自民党の個利個略・党利党略優先による「モリカケ隠し解散」と厳しく批判する構えだ。「国政選挙は勝てば官軍」(首相経験者)だが、結果が自民大幅議席減ともなれば首相の目指す「総裁3選」や「憲法改正」にも赤信号が灯りかねないだけに、"安倍1強"が揺らぐ中での首相の"大博打"でもある。

行楽シーズンたけなわの3連休に大手メディアが一斉に「解散報道」に走ったのは、首相が9月10日以降に麻生太郎副総理兼財務相ら政府与党首脳と相次いで会談した際、「臨時国会で解散したい」との意向を伝えたとの情報をキャッチしたからだ。「首相はウソを言ってもいい」とされる解散については事実の確認より憶測が先行するが、メディアの報道は「首相が年内解散を検討」から瞬く間に「首相、臨時国会冒頭の解散を決断」にまで突き進んだ。

自民党の塩谷立選対委員長は予想される解散日程について、(1)臨時国会冒頭、(2)臨時国会後半、(3)来年通常国会冒頭、(4)来年春の予算成立後、(5)通常国会会期末、が首相の選択肢だと解説していた。「解散風はいったん吹き出したら止まらない」という永田町の法則に従えば、政局運営上も首相の冒頭解散断行が「最も合理的」(側近)ともみえる。

ただ、国民に信を問うからには、有権者を納得させられる大義名分も不可欠だ。

安倍政権としては「北朝鮮危機やアベノミクスなど内外の重要な課題にしっかり対応するためには、改めて国民の支持を得ての体制強化が必要」との立場だが、相次ぐ弾道ミサイル発射や水爆実験で米朝軍事衝突も想定される時期にあえて解散することへの疑念も拭えない。しかも、これまでの事前調査結果では「自民議席減」が確実視されてきただけに、衆院での自民絶対安定多数が崩壊するリスクも大きい。政府・与党内には「この時期の政治空白は危険だ」(防衛相経験者)との指摘もあり、最近の各種世論調査でも早期解散を支持する声は少数派だった。

現行憲法下での衆院解散の歴史をひも解くと、国会召集時の解散は1966年の佐藤栄作内閣での「黒い霧解散」、1986年の中曽根康弘内閣での「死んだふり解散」、1996年の橋本龍太郎内閣での「新選挙制度解散」などがあるが、21世紀になってからは例がない。首相は第2次政権発足から2年後の2014年11月に増税の是非を問う「アベノミクス解散」を断行して圧勝したが、その後は繰り返し解散風を吹かせながらも決断しないまま現在に至っている。 

トランプ大統領の初来日も絡み、日程は綱渡り

秋以降の政治・外交日程をみると、北朝鮮危機への対応を除いても、「解散断行は日程的にも極めて窮屈」(官邸筋)だ。まず、冒頭解散がない場合の衆院青森4区、新潟5区、愛媛3区での「トリプル補選」は10月10日告示・22日投開票が決まっている。また、外交でも11月上旬(4〜6日)にトランプ米大統領の初来日が予定され、続いてAPEC首脳会議(ベトナム、10〜11日)、ASEAN首脳会議(フィリピン、中旬)など重要日程が目白押しだ。

トリプル補選は投票日前に解散すれば消滅するが、選挙期間中に米大統領を迎えるというのは外交儀礼にも反する。過去の事例から解散から衆院選投票までの期間は最短で20日間だが、選挙後の特別国会召集と首相指名選挙を受けての新政権(第4次安倍政権)の組閣も考えると「最低でも約1カ月間の政治空白」(総務省)は避けようがない。

このため、臨時国会召集日(28日)の冒頭解散でも投開票日は補選と同じ10月22日か1週間後の29日に限定され、「論戦抜き」との批判をかわすための首相所信表明演説とこれに対する各党代表質問を経ての解散となれば投票日は29日にせざるを得ない。

一方、米大統領初来日時には今年2月のフロリダに続く、東京近辺での「日米首脳ゴルフ会談」の企画もあるだけに、新政権発足後のほうが首相が余裕をもって接遇できる。となれば特別国会の召集手続きも踏まえて、9月28日解散・10月22日投開票が本命となるが、その間の北朝鮮危機への対応も含め、政治的にもまさに綱渡りの日程だ。

党内の冒頭解散慎重論もこうした状況を踏まえてのもので、「変に小細工せず、臨時国会で堂々と与野党論戦に臨み、トリプル補選の結果を見てから、解散日程を決めるのが王道だ」(党長老)との指摘も的外れとは言えない。

3補選はいずれも自民現職の死去によるもので「過去の弔い選挙では負けたことがない」(自民選対)ことに加え、離党ドミノによる党内混乱で党支持率が低迷する民進党の窮状をみても、「よほどのことがなければ全勝」(同)とみられているからだ。そうなれば政治・外交日程にも余裕が出るうえ、解散の大義名分も立てやすい。

第2次安倍政権発足以降、政局の節目ごとに首相との与党党首会談を重ねてきた公明党の山口代表は、夏前までは「来年秋の自民党総裁選後の解散が『相場観』だ」と繰り返してきた。1強を誇り「総裁3選」が既定路線化していた首相にとって「国会での早期改憲発議も狙うなら解散は来年秋まで引っ張るはず」(公明党幹部)と判断していたからだ。

山口代表は改憲発議先送りを狙い宗旨替え?

しかし、森友・加計疑惑や通常国会終盤での強引な国会運営への批判に加え、自民議員の相次ぐスキャンダルもあって、東京都議選(7月2日)で自民党が歴史的惨敗を喫したことから、山口氏は「政治は常在戦場だ」と早期解散説に宗旨替えした。併せて、首相の目指す早期改憲発議についても「国民が真っ二つに割れている現状では政権を失うリスクも大きい」として改憲発議が絡む時期の解散には反対する考えを明確にした。

解散に備えて自民党などが独自に実施してきた選挙情勢調査では一貫して「自民は30〜50議席減」との結果が出ていたとされる。全国の小選挙区で共産党も含めた野党統一候補が擁立されるという前提ではあるが、内閣支持率が3割以下に落ち込んだ夏の時点では「解散すれば衆院での改憲勢力3分の2の維持は困難」(自民選対)との見方が定着していた。

このため、首相が年内解散に踏み切るのは「20年改正憲法施行という『安倍改憲』のスケジュールを断念した場合」(自民幹部)とみられていた。山口代表の改憲発議先送り論は、連立与党の党首として「改憲を争点としない年内解散」を首相に促したともとれる。

これに対し、野党陣営は事態の急変を受けての選挙準備で大わらわだ。17日には民進、自由、社民の野党3党首会談で衆院選での選挙共闘と臨時国会での統一会派結成を協議する予定だったが、見送りを余儀なくされた。民進党の前原代表は衆院選での共産党との選挙共闘に慎重な立場を崩していないため、自民候補打倒のための各小選挙区での「4野党統一候補」擁立は困難との見方が広がる。

一方、次期衆院選の"台風の目”は「小池新党」の参戦とみられている。小池都知事側近で先に、地域政党「都民ファーストの会」の国政版の「日本ファーストの会」を結成した若狭勝衆院議員(無所属)は、16日に衆院選の候補者選定の場ともなる政治塾「輝照塾」の初会合を開催し、約200人の塾生が結集した。

講師として登壇した小池氏は「東京に続いて日本も大改革を」と檄を飛ばした。小池氏に国政進出を任された若狭氏は、民進党を離党して「新たな保守の受け皿づくり」を目指す細野豪志元環境相らとも会談を重ねており、同氏に追随する形で離党した3人の民進党議員も加えて、政党要件の「国会議員5人以上」を満たした「小池新党」を解散前後にも立ち上げる考えとされる。

ただ、若狭氏は「新党名に『ファースト』は使わない」と語っている上、「小池氏が代表でない新党では有権者の支持は得にくい」(選挙アナリスト)との見方が大勢だ。しかも、急ごしらえの新党では選挙のための組織、資金の手当ても極めて困難とみられる。候補者が「寄せ集め」となる可能性も含めて「小池新党」の前途にも高いハードルが並ぶ。

政治的に大正解の大博打だが「反安倍」拡大も

こうしてみると、首相が冒頭解散を決断するのは「政治的には大正解」(自民幹部)ともみえる。解散のネーミングは結果的に「北朝鮮危機対応」や「アベノミクス完遂」などのための「出直し解散」と、森友・加計疑惑を説明抜きで払拭するための「モリカケ隠し解散」が絡み合うとの見方が多い。

内閣支持率低下の主因となった「首相が信頼できない」が有権者の間で拡大すれば、"弱体野党"に「反安倍の追い風」(自由党幹部)が吹く可能性も否定できない。「選挙はふたを開けるまで分からない」というのが永田町の慣用句。総裁3選による史上最長政権と任期中の改憲実現を賭けた首相の大博打が「大当たり」となるかどうかはまだまだ予断を許さない。