相手DFに自由を与えてもらえず、思うようなプレーができなかったルーニー。天を仰ぐベテランFWは一体、何を思ったか……。 (C) Getty Images

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 この夏、「心のクラブ」への「夢の移籍」を叶えるため、マンチェスター・ユナイテッドを退団したウェイン・ルーニー。しかし、エバートンのFWとして舞い戻った9月17日のオールド・トラフォードで彼を待ち受けていたのは、大敗(0-4)という悪夢だった。
 
 昨シーズンまで14年間慣れ親しんだホームで、ルーニーはクラブ史上最多253得点を記録したマンチェスター・Uの「レジェンド」として、それに相応しい表敬と歓待を受けた。
 
 両チームの入場時、アウェーチームの先発メンバーの後ろから5番目で入場したベテランFWには、四方のスタンドから拍手が送られ、さらに82分にピッチを後にする際には、マンチェスター・Uのファンからもスタンティングオベーションと「ルーニー!」というコールで見送られた。
 
 だが、プレーとは関係のないこの2つの場面が、この試合におけるルーニーのハイライトだった。
 
 かつては自身も付けたキャプテンマークを巻いていた、同年代のアントニオ・バレンシアに鮮やかな先制のボレーを叩き込まれ、事実上、勝敗の行方が決した2失点目は、82分に自身がベンチに下がって無力な立場となってから1分後に決められた。
 
 そして、ルーニーに代わるストライカーとして、今夏にエバートンからマンチェスター・Uへと移籍したロメル・ルカクに3点目を奪われ、息の根を止められる。彼には、2点目のアシストも許した。
 
 さらに後半アディショナルタイム、4点目をアントニー・マルシアルを決められた時、テレビカメラは、瞬きもせずにピッチを見つめるルーニーを捉えた。
 
 彼の胸中にあったのは、「俺が決めていれば……」という自責の念か? 当人が、昨シーズンの多くをベンチで過ごした古巣との初対決で、健在ぶりをアピールすることを狙っていたのは想像に難くない。
 
 それにも増してエバートンは、直前のヨーロッパリーグを含めて公式戦では計8失点を喫して3連敗中という苦境に陥っており、ルーニーも今節を前に、ロナルド・クーマン監督との緊急ミーティングに呼ばれていた。
 
 この試合、ルーニーに全くチャンスがなかったわけではない。先制点を許したあとには、2度も決定機が訪れている。
 
 立ち上がりから前線で孤立し、後方からパスを受けてもすぐ2、3人の相手DFに囲まれていたルーニーだったが、20分にカウンターのチャンスと見るや、右サイドにボールを預けて駆け上がり、折り返しにダイレクトシュートを試みた。しかし、渾身のシュートはペナルティーエリアの淵からファーポストの外へと転がっていった。
 
 また、後半早々の46分には、やはり右サイドから背後に来たボールを足で引っ掛けるようにして進行方向に転がし、スライディングで奪い合いにも勝ってゴールを狙った。だが、咄嗟の左足シュートは、ニアポストで構える相手守護神ダビド・デ・ヘアの正面をついた。
 いずれも簡単なチャンスではなかったが、オールド・トラフォードの「レジェンド」としては、ミスショットと見られても仕方ないのかもしれない。

 しかし、ルーニーはマンチェスター・Uの「偉人」であっても、エバートンの「超人」ではない。自滅したチームを独力で救うことなど至難の技だ。
 
 慎重というよりは、弱気という言葉が相応しいラインの低さは何よりも改善すべき点。開始から5分も経たない時点で失点を喫した時点で、1トップを除く10人がほぼ自軍ペナルティーエリア内に戻っただったほどだ……。致命傷となった2失点目は、3バック中央のアシュリー・ウィリアムズのパスミスが原因でもあった。
 
 まだ移籍1年目で、23歳の若きGKジョーダン・ピックフォードが、ラインの押し上げ要求など周囲に檄を飛ばしにくいのであれば、キャプテンである35歳のCBフィル・ジャギエルカあたりが手綱を引くべきではないだろうか?
 
 幸い、プレミアリーグ2節からマンチェスター・シティ、チェルシー、トッテナム、そしてマンチェスター・Uと続いた、今シーズンの優勝候補との連戦も終了した。
 
 勝点1しか奪えなかったトップ6との連戦で悪夢を見たルーニーの「心のチーム」には今、守備陣の一念発起こそが求められている。
 
文:山中忍
 
【著者プロフィール】
やまなか・しのぶ/1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、ファンでもあるチェルシーの事情に明るい。