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もくじ

ー 124ラリー 初の試乗テスト
ー 中身はまったくの別物
ー いざ、走らせてみると…
ー 2265万円 高い? 安い?

124ラリー 初の試乗テスト

宙に浮いた2本のタイヤに怖気づいてしまう。確実なハンドブレーキ捌きで、きつい左コーナーをターンしていく。

いま目の当たりにしているのは、バロッコにあるフィアット社の開発施設に設けられてたスペシャルステージを飛ばすアバルト124ラリーで、それを幾度となくジャンプさせているのは、テストドライバーであり、世界ラリー選手権(WRC)に参戦してきたアレックス・フィオリオだ。

この興奮する体験を純粋に楽しめない理由は、このバロッコのスペシャルステージで短い時間ながら、わたしが部外者初のドライバーとなるからだ。

この複雑に曲がりくねったターマックセクションを頭の中で追いかける。ステアリング操作やブレーキングをしながら、ふたつの車輪が宙に浮くことが全く想像できないでいた。

そしてこのクルマは、アバルト124ラリーの最初のプロトタイプだ。「このクルマが大好きです。初めての子だからね」と技術開発チーフのマウリチオ・コンサルヴォが言う。

なんてことだ。

脈が速くなるもうひとつの理由は124ラリーのメカニカルな部分にあり、このクルマは標準仕様とは全く異なる。

中身はまったくの別物

エンジンは170psと25.4kg-mから300psと61.4kg-mに強化され、リア駆動される車体重量はわずか1050kg。この出力はアルファ・ロメオ4Cに搭載される1800ccターボエンジンによるもので、素早く向きを変えるラリーカーにとって理想的な50:50の重量配分を作りだすために、1400ccの標準仕様より車両後方にマウントされている。

トランスミッションはパドルシフト付きのドグリング式シーケンシャルで、変速時に瞬間的にトルクを断絶させることでシンクロナイザーを省く一方、変速時にズシンと満足感のある感触がある。カーボンファイバー製の2対の大きなパドルで操作するのだが、始動時用にクラッチペダルも備わる。

ステアリングホイールはシフトインジケータやホーンだけでなく、ヘッドライトやワイパー、ウオッシャー、エンジンスタート、ローンチコントロールのスイッチまで、アバルトのほとんどの操作系を担っている。このステアリングホイールで最も興味をそそるのが、「ALB」と「TC」と表示されたふたつの小さなダイアルだ。

ひとつ目の「ALB」ダイアルには5つのポジションがあり、砂利や雪など低摩擦路面での応答性を図りながらスロットルのレスポンスを調整する一方で、攻め込めるターマックでは熱いアタックを可能とするものだ。

もうひとつのトラクションコントロール(TC)は、機械式リミテッドスリップデフと組み合わせてその効果を高めている。これにも5段階の設定があり、徐々に激しいドリフトアウトが可能となるほか、最後の1段階は完全にオフとなる。

コンサルヴォによれば、「制御のパラメータ自体はロードカーと大きな違いはないですよ」とのことだが「より素早く積極的に、経験豊富なドライバーによる操作が必要です」とのこと。

テールスライドも幅広いギアで可能。ヘアピンなどで回頭性が不足している際は、シート間にそびえる巨大なバーを引きハンドブレーキを効かせることができる。

クルマに乗り込む前にこのスペシャルステージについて記憶しなければならない。

いざ、走らせてみると…

特徴のない数多くの180度ヘアピンに幾つかの短い直線、ジャンプポイント、助手席側のタイヤが浮き上がる箇所。

コンサルヴォはステアリングのふたつのダイアルの効果をデモしながら、ハンドブレーキを効かせ、コーナーでクルマを横に向けながら下草に乗り上げ、深い溝を越え、尊敬できるほど巧みに操る。

恐怖にしびれるだけで、ほとんど何も感じられなかった。自分の心拍数も、ザベルト製の深いバケットシートで身体が固定されており、測ることができない。

一番マイルドなスロットルマッピングに設定しても、エンジンは頼もしいサウンドを発し、あっという間にリミッターに当たりLEDのシフトインジケーターが点灯する。不慣れなスタートに失敗して再始動したときも同様だ。むせび泣く排気音とロードノイズ、興奮が集中力を削ぎ、方向感覚を掴みにくいスペシャルステージは混沌とする。

しかし小ぶりなボディサイズと、近年のクルマの割には立ち上がった視界の良いウインドスクリーンと、懐の深い挙動のおかげで、クルマとコースに次第に慣れてくる。比較的低い着座位置が優れた重心位置を作るとともに、荒れた路面をアクセル全開で駆け抜ける時など、自分の真下で何が起きているのかが非常につかみやすいのだ。

アバルトの軽量、素直で許容範囲の広いシャシーセッティングにより、思ったより簡単にペースを上げていける。フィオリオがクルマを浮かせていた、きついコーナーを攻める。理想的な体重配分によって「アンダーステアを排除できる」というフィオリオの主張の通り、危険そうな急コーナーでも自然に、直ちに方向を変えていくことが可能だ。

乗り心地も素晴らしく、大きな起伏もショックアブソーバーがいなし、不安定さはない。プログレッシブで剛性感のあるブレーキに大きなパドル、パワートレインの味付け、アバルトの荒々しい性格が、最高のエンターテイメントを生みだしている。この124ラリーは多くのラリーカーより運転は簡単なことは間違いないが、意のままに操るには十分な練習が不可欠だ。

2265万円 高い? 安い?

コンサルヴォによれば、FIA R-GTクラスのラリーへ出場可能なように設計しており、「新しい世代と古くからのラリーカー好きの情熱を引きだす」ことも同時に目指しているそうだ。

2シーターで2輪駆動のR-GTクラスは2011年に導入されたが該当車両がなく、2015年のFIA R-GT Cupではポルシェ997 GT3が優勝している。このクラスは2016年に休止していたが、2017年にアバルトが復活させた。

2017年はR-GTクラスに4チームのみの参戦で、車両全てがアバルト124ラリーなため不人気にもみえる。しかし恐ろしく高額となったWRCマシンと比較すると、アバルトにとってもラリードライバーにとっても、非常によく仕上がった魅力的なマシンでラリーに挑戦できる絶好の機会となり得る。開発途中の124ラリーをファクトリーで8台見かけたが、次シーズンに参戦するはずだ。コンサルヴォもライバルとの競争を望んでいる。

とはいえ、現実世界でアバルトのモータースポーツの体験をより身近にしてくれる124ではあるが、コンサルヴォが言う「ジェントルマンレーサー」、ファクトリーで仕上げられた124ラリーを手に入れるには大きな財布が必要だ。いくらかかるのか……。税別で€14万。今のレートではおよそ£155,000(2265万円)で、ファクトリー仕様の124ラリーが手に入る。

かなり高額にも聞こえるが、完成されたラリーカーとしては悪くない。ノイズとエアコンレス、内装の簡素さなどに目をつむれば、ロードカーとしても悪くはないモデルではある。

アバルトは現在、このモデルの公道仕様は考えていないようだ。コンサルヴォもメカニカルパッケージを単体で発売するとは話さなかったが、この124ラリーのサスペンションは、標準モデルと同じシャシーの固定位置に装着されている点には触れていた。

本気度の高いチューニングパーツをサソリのマークの木箱に入れて販売するアバルトの伝統を考えれば、われわれへ届けられることも期待できそうだ。