前回はドライアイに目薬を常用することのリスクについてご説明しました。

血管収縮剤でダメージがあるケースも

最近、私が気になっているのは、目が赤く充血しているのを嫌って、目薬をさす女性が増えていることです。たとえばデートの前に「白目が充血していると恥ずかしい」「目が赤いと疲れて見えるからいや」という理由ですね。白目は白ければ白いほどキレイ、という美的判断もあるようです。このニーズをとらえて、「白目をきれいにする」を特性にした目薬も市販されています。

しかし、目が充血するのには理由があります。目が疲れているのです。だから瞳にたくさん酸素や栄養分を送ろうとして血流が増え、そのために血管が広がり、白目が赤く見えるのです。お疲れの目が疲労回復をはかっている時に、目薬をさすとどうなるでしょうか?

血管収縮剤の作用によって血管が細くなり、見かけは確かに白くなります。しかし、もともとの疲労が取れたわけではありません。したがって、疲れた目は疲れたまま、血流による酸素補給は不十分になり、さらに疲れることになります。ですから血管収縮剤の効果が終わると、また充血します。充血のリバウンドです。

市販の目薬のすべてに血管収縮剤が入っているわけではありません。主な血管収縮剤は、塩酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸フェニレフリンなどです。成分表をよく確かめてください。

市販の目薬にはなにげなく血管収縮剤が入っていて、使う人もなにげなく「充血止め」に使っていることが多いのですが、決して使いつづけても問題ない成分ではないことを知っておいてくださいね。

特に結膜炎などの感染症にかかっている場合は、血管収縮剤を使うと大きなダメージになりかねません。目が充血して、具合がふだんと違うと思ったら、眼科を受診しましょう。

キターッ!の爽快感成分の薬効は?

市販の目薬に入っていて、眼科で処方される目薬には入っていない成分をご存知ですか?あの、スーッとする成分、メントールです。成分表には、l-メントールと表記されています。この成分には薬理効果はありません。だから病院で処方される目薬には入っていないのです。

メントールのクール感。キターッ!という爽快感。これによって確かに目はスキッとするでしょう。気持ちもスキッとするかもしれませんね。目の疲れが吹き飛んだ気がするわけです。でも、疲れは取れていませんね。まさにプラセボ効果。目薬が効いた気がする、その最たる効果を発揮するのが、l-メントールなのです。

疲れ目が解消した気がしても、目は疲れたままです。そこで「さぁ、もうひとがんばりね!」というのは、疲れ目にムチ打っているようなものです。爽快感の強い目薬を「眠気覚ましに使っています」という人がいますが、それはそもそもの使い方がNG。目薬を眠気覚ましに使うのはやめましょう。

高ければ効くいいというものではない

ドラッグストアには200円ぐらいのものから、高いものでは1500円以上の目薬が並んでいます。この価格差はいったい何から来ているのか?といえば、成分の違いです。

もっとも基本的な目薬の成分は「生理食塩水」と同じ、塩化ナトリウムと塩化カリウムといえます。生理食塩水は体液とほぼ同じ組成です。しかし、これしか入っていない市販の目薬はごくわずかです。

最近の疲れ目市場に合わせて、目薬に配合される成分も増えています。有効成分がたくさん入っているほど、価格は高くなります。たとえば目のかゆみを止める成分、中でもクロモグリク酸ナトリウムが入っていると高価になる傾向が見られます。そのほか、目のピント機能を調整するネオスチグミンメチル硫酸塩、目の栄養分としてのタウリン、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム、Lアスパラギン酸カリウム、ビタミン(A、B類、E)、お肌の美容液でよく見るヒアルロン酸などなど。これに加えて当然、品質保存剤も入っています。

中には「水分が補給できればいいので、ドラッグストアに行っていちばん安い目薬を買っています」という人もいます。一般的に有効成分が少ないほど安価になる傾向はあるので、その考え方は間違っていません。しかし、安いからといって気軽にさしていると、先述したように涙がますます出にくくなってしまいます。

手軽に使える薬ほど、手放しにくくなります。目の疲れ、ドライアイは目薬ではなく、目を休息させることで改善できます。「カジュアルさし」が習慣になっている人は、休息を意識して、点眼回数を減らしていきましょう。

「白目は白く」の美意識はわかりますが、目薬をさしてまで白くするのはやりすぎです。



■賢人のまとめ
白目が赤く充血する理由は目が疲れて酸素を欲しているからです。そのため瞳の血流が増えて充血するのです。血管収縮剤を含んだ目薬をさすと血管が収縮して充血は消えます。でも目の疲れが消えるわけではありません。薬効が切れると充血がリバウンドし、目の疲れもいっそうたまった状態になります。白目の充血は目が疲れているサイン。目を休ませるのが一番の良策です。

■プロフィール

薬の賢人 宇多川久美子

薬剤師、栄養学博士。(一社)国際感食協会理事長。明治薬科大学を卒業後、薬剤師として総合病院に勤務。46歳のときデューク更家の弟子に入り、ウォーキングをマスター。今は、オリジナルの「ハッピーウォーク」の主宰、栄養学と運動生理学の知識を取り入れた五感で食べる「感食」、オリジナルエクササイズ「ベジタサイズ」などを通じて薬に頼らない生き方を提案中。「食を断つことが最大の治療」と考え、ファスティング断食合宿も定期開催。著書に『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)など。