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text:Richard Bremner(リチャード・ブレムナー)

もくじ

ー スケッチがいつもそばに
ー エンスージァストの働き場
ー つねに情熱的であること
ー クルマ好きの原体験をつくる

スケッチがいつもそばに

アバルトの運営責任者、マリオ・アルヴィシの机上には何かしらのデザインスケッチが置いてある。今日のスケッチは、現行フィアット500のチーフデザイナー、ロベルト・ジオリットからのものだった。描かれていたのは、魅力的な小ぶりのアバルト・クーペだった。

「ビアルベッロ750」とタイトルが付けられたそれは、明らかに1950年代のコンパクトなモデル、フィアット・アバルト750GTザガートの影響を濃く受けていた。

エンスージァストの働き場

アルヴィシのオフィスは、チューニングとレストアができる巨大な専用ワークショップを併設した本社にある。

スタイリッシュなホワイエ周辺には、現行モデルと歴代のアバルトが展示されていた。創業者のカルロ・アバルトのオフィスを再現した場所もあり、オリジナルの机と椅子が配置され、壁には当時の写真が飾られている。クルマ好きなら、入った途端、その場所に夢中になるだろう。

その本社奥にはフィアット・クライスラー・オートモービル社(FCA)のヨーロッパブランドを担当するデザインスタジオがあり、アルヴィシの机上にデザインスケッチがよく置かれるのはそのため。活気あふれるこのブランドの新しい提案が次々に生みだされている。

彼はアルファ・ロメオから(それ以前はドゥカティにいた)異動して数週間の内に、すっかりこのブランドの虜になってしまったそうだ。

彼もまたエンスージァストで、オフィスのキャビネットは記念品やミニチュアモデルで埋め尽くされていた(その中には、父親の愛車だったアバルトとアルファ・スッドも含まれていた)。アバルトが復活してからの10年間と、今後アバルトがどのように進んでいくのか、ここで聞きだしてみたいと思う。

つねに情熱的であること

アバルトの口火を切ったのは2007年のフィアット・グランデ・プントで、その1年後にアバルト500がリリースされた。フィアット社の兄弟モデル同様に、アバルト500にも、コンバーチブルや高出力化が図られたもの、多くのトリムバリエーション、限定車などの派生モデルが誕生した。

少なくとも、これらは2016年10月に登場したアバルト124スパイダーと同じくらい刺激的なものだった。

FCA社CEOのセルジオ・マルキオンネがマツダMX-5をフィアットの新しい2シーターオープンのベース車両とすることを決めたことで、サソリも偶然に2シーターモデルの機会を得たのだ。フィアットがクルマを手に入れ、アバルトは利益を作ることとなる。

この決定がなければ、アバルト124スパイダーは非常に高価なモデルになっていたかもしれない。

魅力的な製品によってアバルトは勢いづいているが、アルビスは付け加える。「実際の変化は、販売数が倍増した2015年です。当初4000〜5000台だったものが、ヨーロッパと中東、アフリカ向けを含め、2016年には18000台以上に増えました」

これはアバルト・ブランドを取り扱うFCA系列のディーラーの増加に起因する。また、木箱に入れられたアバルトのチューニングキットは、10000を超えるオーナーの元に渡ったのだった。

同時にアバルトのブランド力向上も重要なミッションだった。「情熱的なブランドなら、コミュニティが生まれるのです」と、ドゥカティでの経験を持つアルヴィシは言う。

「アバルトへの関心が高まる中で、Scorpionship(スコーピオンシップ)と呼ばれるウェブサイトを1年半ほど前に立ち上げ、技術ワークショップや走行会、SNSのイベントなどを通じて10万人ものユーザーを集めた。目標は、より多くの人にアバルトのクルマと歴史に触れてもらい、サーキット走行へと結びつけること。アバルトの良さは乗ればよくわかるのです」

いったいどのような活動をおこなっているのだろうか。

クルマ好きの原体験をつくる

Scorpionshipには、アバルトのオーナーでなくても興味があれば参加可能だ。古いコレクターや修理工場も登録しており、既に10台以上のクルマが仕上げられている。

このような活動は、古いモデルを修復する情熱と同じくらい、ブランドを磨く上で非常に重要だ。アルヴィシは「オンライン上で確認する限り、アバルトの古いモデルの価値は保たれている。その価値は、ブランドの成功にとって重要な要素です」と付け加えた。

1950年代から60年代の美しいコーチビルドモデルから、どのような成果へ結びつくのだろうか。

「この場所でクラシックモデルを見なければ、この手のクルマに憧れることもないはずです。確かなルーツがなければ、ブランドへの夢は生まれません」

「わたしたちは、世界中の国々において安定したグローバルブランドを確立し、FCAに収益を与える必要があります。イタリアでは成功しており、イギリスやドイツ、フランスでも上手く進んでいます」

「しかし、まだ多くの未開エリアがあります。これらの国々で市場シェアを獲得するため、様々な余地があると考えています。象徴的なブランドには、心に直接響く何かが必要なのです。伝統であり、未来でもあるんですね」

アルヴィシはロベルト・ジオリットのスケッチについて深く触れることはなかった。写真撮影も許されなかったが、様々なアイデアスケッチの存在は、今後のアバルトへの期待につながるものだと思った。