【投資の真髄:トヨタ生産方式(7)】新日鉄シャーリング工場との工程結合

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 部品製作の工程では、どうしても大量の鉄板を保管しなければならず、工場面積では単なる倉庫と化している場所が多く見受けられていた。加工作業の改善が進んでくると「なんで鉄板のまま工場に運んでくるのか?」と疑問が出てきていた。そこで新日鉄のシャーリング工場で、部品に切断して運んで来てもらうことを考えるようになっていた。

【前回は】【投資の真髄:トヨタ生産方式(6)】世界最先端IoTまで見越したコマツの工程結合

■新日鉄シャーリング工場との工程結合の効果は、計り知れず そんな折、新日鉄シャーリング工場の方でも、出荷作業の問題から私の会社に相談が持ち込まれてきていた。

 出荷作業と在庫の問題で、コンピュータ処理を行い始めていたが、納品伝票に従い出荷製品(鋼鈑)を集めるのだが、鉄板の数は多く「ピッキング(選び出す)」(鉄板では建設現場のように「はつり(取り除く)」と言われる作業)を行うことになる。すると3m×20mなど大きな鉄板を山のように積み上げた中から取り出すので、なんども置き直す必要が出てくる。そのためせっかく探し出した鉄板の次の鉄板が、底の方に積まれていることも多々あるので、繰り返し同じ鉄板を積み替えているだけになっていた。

 その「ピッキング」の無駄を何とかならないか?との相談だった。私がコンサルタントを始めた第1号の仕事だった。答えは「簡単だった」。3カ月前には出荷計画が出て、1カ月前になったら、シャーリング工場の方から、加工工場の方に納品しても良い状態になる条件が答えを単純化した。

 ならば、「逆引当」にしたらよいのだ。つまり最上部にあり、すぐに取り出せる鉄板が、1カ月前の納品可能範囲にあるのなら、そのままトラックに積み込めばよいのだ。鉄板の積み上げている在庫の上から、納品伝票に逆引当して、積み込めば「ピッキング(選び出す)」と言うより「はつり(取り除く)」と言うべき作業は最低限で済むのだ。鉄板移動は劇的に減る。

 この案を提案するとシャーリング工場の人たちは戸惑ってしまった。意味が良く取れなかったようだった。当時、高価な最新鋭のコンピュータを使わずとも、事務担当者が納品予定伝票の束をめくればよいので、山のように積み上げられた鉄板の移動がなくなり、伝票めくりになっただけだった。コストの違いは明白だった。あまりの違いに、担当者が動揺しているのが分かった。

 しかし、この方法では当社のような加工工場のほうが、たまらないやり方だった。鉄板移動が加工工場の方に来てしまうのだ。これはたまらない。ほとんど「先入、先出」をするために、必要のない鉄板移動が繰り返されるだけなのだ。年間で「アメリカ軍空母1隻を意味もなく運ぶぐらい」と知って笑ってしまった。工場間の工程が分れているために、これほど手間暇がかかり、資金が寝ているのだ。

 そこで部品製作をガスカットの段階までシャーリング工場で行うことが出来ないか、相談を進めていった。すると両社が同じ場所で操業すると、現在の「多種少量生産」の体制が取れるところまで見通すことが出来た。コスト半減の可能性が計算上は出来るのだった。その資金量の削減は、再投資金額よりもかなり多く、同じ商売に再投資する額としては必要のないものだった。つまり別の商売が出来てしまうのだ。

 しかし、問題は周辺の関係者が、そのメリットを理解できないことであった。新日鉄のシャーリング工場と鉄の配給商売の三菱商事が熱心になり、私と3年に渡り密かに計画を練って計画書にして、公表に踏み切ったのだった。新日鉄は熱心であったが、その本当のメリットは理解しておらず、私はコストダウン見込みは2割と説明していた。体制整備には数年がかかり、徐々にコストダウンが効いてくることを考慮すれば、そのほうが良いと判断したのだった。「コスト半減」「必要資金量1/10」などとすると、受け入れがたいと思ったのだ。

 当社の親会社は理解できなかった。コスト削減が作り方の概念を変えると、劇的に進歩することも理解できてはいなかった。三菱商事は当社親会社に直接手紙を出してメリットを説いたが、親会社は冒険であると感じて、しり込みしてしまったのだ。現在では当然の生産体制を、当時理解することが出来なかったのだった。そして25年ほどたって親会社ごと消えてなくなったのだった。現在、トヨタ生産方式を取り入れていない製造業では、成り立たないのだ。

 当時の小松製作所改め、現在のコマツはIoTにまで対応する体制を整え、世界の最先端を走っている。残念至極である。

■戦後、高度成長の立役者「トヨタ生産方式(看板方式)」 戦後日本の経済成長は、「トヨタ看板方式」が主役であったと見るべきであろう。現在でも製造業の生産性は世界一と言える。他の業種では日本の生産性は低いままだ。資金量が数千分の一と考えると、製造業の発展はこの資金量に尽きる。日産自動車の破たん原因を見ても、「トヨタ生産方式」が日本全体で「金融政策の数百兆円規模」の予算処置の効果を上げたと見るべきであろう。

 2017年8月現在の「じゃぶじゃぶの金融緩和策」よりも大きな効果を上げたと見るべきなのだ。それは生産規模を拡大する商品が決まっていて、予算が十分手当てされている状態だったからだ。日本の製造業は、必要な資金量が少なくて済み、資金効率としては世界の中で特別高い状態が、続いていたのだった。世界が「トヨタ生産方式」を取り入れるまでは、製造業では圧倒的優位が続いていた!

 現在、半導体メモリー製造業を除けば、世界でトヨタ生産方式を取らない、大量生産工場はない。

【投資の真髄:トヨタ生産方式(8)】「提案型販売」物流・サービス業における応用 につづく