老いにまつわる病気もひとつの薬で治せる時代が来る?

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加齢によって糖尿病や心血管疾患、がん、認知症、関節炎、骨密度低下、フレイル(虚弱)などさまざまな疾患や身体の不調が起きやすくなる。

これらを引き起こしている原因のひとつが、細胞分裂を停止してしまった「老化細胞」の蓄積と言われている。老化細胞は年齢と共に蓄積していく。つまり、除去することで加齢によって引き起こされる疾患や身体不調を予防、治療することができるのではないか――。

そう考えて研究を続けてきた米メイヨー・クリニックの研究者らが、ついに老化細胞を除去する物質を発見し、臨床実験に取り組みたいとする論文を2017年9月4日に発表した。

研究者らは早期の臨床試験を希望

老化細胞はその名の通り、老いてしまった細胞だ。ただ老いただけなら問題はないのかもしれないが、老化細胞は周辺の細胞を損傷させる化学物質を分泌する性質がある。

年を取れば取るほど全身の臓器や組織に老化細胞が蓄積されていき、ダメージを受ける細胞も増加。これによって疾患や身体不調リスクが高まっているとされている。

メイヨー・クリニックで老年医学の研究に取り組み、多くの高齢患者を診察していたジェームス・カークランド博士らは「老化細胞だけを除去できれば、加齢に伴う疾患の抑制や治療もできるのではないか」と推測し、そうした効果を持つ成分の探索を行っていた。

2015年にはマウスを対象とした実験で、脂質代謝異常と動脈硬化を発症している老齢マウスにいくつかの薬剤を注射したところ、コレステロール値を有意に低下させ、血管を若年マウスと近い状態にまで回復し、老化細胞を除去する効果をもつ物質14種類を確認。

さらに最近になって、抗がん剤として使用されている「HSP90阻害剤」という薬にも、老化細胞除去効果が期待できることが確認されたという。

今現在、複数の病気を発症してしまった場合、それぞれの病気に対応した治療薬や治療法を複数利用する必要があり、その医療コストは膨大なものとなる。しかし、仮に複数の病気の治療や抑制が期待できる薬が開発されれば、患者も医療機関もコストを抑制できるかもしれない。

とはいえ、現状ではマウスで効果を確認したに過ぎず、発見された薬品が本当に老化に対する特効薬となるかはわからない状態。人を対象とした臨床試験を行う必要がある。

カークランド博士らは「すでに抗がん剤など既存の疾患の治療薬として用いられている薬剤であれば、人に対しても有効である可能性は高い」としており、早急に臨床試験に取り組みたいとの姿勢を論文の中で示していた。

老化細胞を除去するとなぜ治療できる?

ところで、老化細胞を除去するだけで都合よくさまざまな疾患に何らかの影響を及ぼすことができるのだろうか。

カークランド博士は論文の中で「体に影響を与えるのは、複数のプロセスの組み合わせだ」と指摘している。つまり、疾患は何らかの絶対的なプロセスによって引き起こされるのではなく、炎症やDNAの損傷・変異、細胞損傷・機能不全、老化細胞の蓄積といった複数のプロセスの組み合わせの結果による。

これらのプロセスは互いにリンクしており、例えばDNA損傷が老化細胞蓄積を引き起こすといった相補的な関係にあるのだ。つまり、老化細胞を除去する方法が確立されれば他のプロセスにも影響を与え、疾患の抑制や治療にも効果を発揮することが期待できるという。

今後順調に臨床試験まで進み、老化細胞を減らすことで組織や器官が若返ることも確認できれば、奇跡の若返り薬が登場するのも夢ではないかもしれない。