ホーム画面のロック解除だけで、安心するな。スマホを覗き見る女がハマッた、“二重ロック”の罠
日々、騙し騙されかけひきをくり返す、東京の男と女。
彼らの恋愛ゲームには、終わりなど見えない。
これまで、行動&言葉を巧みに操る男女、草食男の意外な行動に振り回される港区女子、“誘い受け”の攻防を繰り広げる男と女、互いを“最高の恋人”と称賛する仮面カップル、職業を盛って騙し合う港区男女、浮気をする彼氏に罠を仕掛ける女の話を紹介してきた。
第7回は、浮気を疑いスマホを見る女vsその防止に命をかける男。
仕事も恋も順調な私。のはずだった。
夏希(29)といいます。
銀座の某有名出版社で、ライフスタイル誌の編集やってます。夜遅いことも多いので、会社近くの虎ノ門に住んでます。
彼氏ですか?もちろん、いますよ。別に結婚に焦ってはいないけど(出版社には独身の先輩も多いんです)、適齢期ではありますし。
彼氏の名前は晃。大手電機メーカーの経営企画で新規事業の立ち上げを頑張っています。
晃との出会いは、早稲田大学時代のサークル。
友達期間を経て、大学三年の頃につき合い出したから、かれこれもう8年ですね。
数字が得意でロジカルな理工学部の晃と、感性を大切にして直感で動く文学部の私。正反対だからこそ、互いに高め合えるベストカップルなんですよ。
―30歳目前で大学からつきあってる人とマンネリ結婚するなんて、選択肢がないんだよ。可哀相。
こんな風に影で囁く後輩女子もいますけど、そういう人種に限って、結婚相手も大体大したことないんですよね。私は総合点が高く、将来有望な晃で十分満足だった。
でもね。最近、晃の様子がちょっと変なんですよ。
スマホを覗き見る女に待ち受けていた、罠。
女の直感っていうんですか?
優しいのは相変わらずなんですけど、最近私の目を見ない。どこか、上の空になっている瞬間が多い。
今までそんなことがなかっただけに、一度疑念が芽生えてしまうと、日々不信感が増殖していきました。
我慢しきれなくなった私は、ついに晃のスマホを見ることにしたんです。
そんな愚行は女々しい人間だけがすることだと思っていましたが、自分がそうなって、初めて分かりましたよ。
スマホを見るのは、疑っているからよりも、信用したいからだってね。
ロック解除後、まさかの難関が立ちはだかる。
晃が気持ちよさそうに寝息を立て出した後。
私は彼のスマホを寝室からそっと持ち出し、リビングに移動しました。
画面ロック解除の番号は、先週、晃の操作を盗み見て入手済み。
その番号がね、嬉しいことに、私たちの記念日だったんですよ。
それだけで疑う気持ちが和らいで、盗み見することに罪悪感が芽生えてくるんだから…女って単純ですよね。
スマホに記念日を入れると、案の定ロックはあっけなく解除されました。
ところが、です。
LINEを立ち上げようとした時。ここにも、パスコードロックがかかっていたんですよ。
画面ロックとLINEの二重ロックをかけることなんて、普通ないですよね?
再び一気に不信感の渦に呑まれた私は、一心不乱に思いつくまま、色んな番号を連打しました。
彼の誕生日。彼の家族の誕生日。愛車のナンバー。私の誕生日。
…全然、開きません。
晃が操作している時に番号を盗み見るしかないか…とあきらめ、ホーム画面に戻った時です。
―今週の夜、いつにするー?
“yuki”という人物からのLINEメッセージが、ポップアップで表示されました。
詳細を確認したいところですが、もちろんLINEを見ることはできません。
これは一体、誰だろう。
ユウキという男友達からの飲みの誘いにも、ユキという女からの逢瀬の誘いにも、見える。
少なくとも、共通の知り合いにはこんな名前の人達はいません。
…果たして、晃はシロ?それともクロ?
夏希との出会いと、狂い出す歯車。
こんにちは、晃(29)です。
品川にある電機メーカーの経営企画に所属しています。
住まいは田町。週末はほとんど、夏希が遊びにきています。
…最近僕は、情けないです。いつも受け身で流されてしまう、自分の性分が。
8年前。夏希との交際も、半ば彼女に押し切られて始まりました。
夏希は当時から、男性の視線を奪うような華やかな雰囲気をまとっていました。
きれいに切り揃えられた黒髪のボブに、意志の強そうな鋭い瞳。女優の板谷由夏さんに雰囲気が似ていました。
そんな女性に、「私とつきあう?」と不敵な笑みで迫られて、首を縦に振らないという選択肢は、当時の僕にはありませんでした。
夏希と過ごす日々は、楽しかったですよ。
正反対の性格だからこそ、互いに吸収し合えることもたくさんあった。
でも、社会人になってからゆるやかに…しかし確実に、夏希との歯車が狂い出してきたんです。
そして晃は、勢いで浮気に走る…!?
昔のままではいられない。すれ違う男と女の価値観
「何で晃は上司に自分の意見を言えないの?」「数字よりも感性に優れた人が世の中を作っていくのよ」
「私の言うこと分かるでしょ」という、強気な夏希の押しつけ。僕は次第に、一緒にいることに息苦しさを感じるようになりました。
そしてつい、由紀との浮気に走ってしまった。
1回。たった1回のつもりでした。
でも、無理だった。
夏希の存在を秘密にしながら由紀との関係を1ヶ月ほど続けるうちに、僕は、もしどちらか(特に夏希)にばれたら…という想像に怯えるようになりました。
そこで、スマホに仕掛けを施すことにしたんです。
仕掛け1:LINEパスコードを使った、二重ロック。
スマホを見られた時に備え、画面ロック番号は夏希との記念日に設定しました。その方が女は情にほだされやすいと、大学の悪友・康介に聞いたからです。
そして、LINEパスコードを使ったもう1つのロック。
こちらの番号は、夏希が予測できないように、エクセルのランダム関数で抽出した番号にしました。
夏希の前ではLINEを使わないので、その番号がばれることはないという確信がありました。
◆
仕掛けをしてから2週間後の、今朝のこと。
ついに、彼女がスマホを覗いた痕跡を発見しました。
仕掛け2:LINE起動の罠
なぜ、分かったのかって?
僕、就寝時はあえてLINEアプリを終了しておくんです。しかし今朝、起動中アプリ一覧を確認したら、閉じたはずのLINEが起動していました。
女性はせっかちだから、こういう細かな仕掛けに気がつかない。
もしスマホを見られていると分かれば、言い訳を考えておけるから、幾分気持ちが楽なんです。
その後、由紀からのメッセージに気づいた時には一瞬ヒヤっとしましたが…この内容なら万が一見られていても、「男友達からの飲みの誘いだよ」といいわけが立ちます。
今朝も由夏は笑顔で出勤していったし、特に問題はないでしょう。
油断していた晃に待ち受けていた、まさかの展開
それから、2週間が経ちました。
今週末は、夏希は取材で京都に出張。心おきなく由紀とデートができると、昼間から『代官山パンケーキカフェ クローバーズ』に来ています。
由紀は先ほどから、何通りもの角度でパンケーキの写真を撮っています。
満足のいく一枚をインスタにアップし終えたのでしょうか。「ねえねえ」と甘えた声で、由紀は僕に語りかけてきました。
「最近ね、インスタで仲良くなった子がいて。すごく好みが合うんだー」
良かったね、どんな子?と僕が返すと、「この子だよー」と嬉しそうに2ショットの写真を見せてくれました。
左側には、可愛らしい笑顔をたたえた由紀。
その隣に映っているのは…満面の笑みを浮かべた夏希でした。
顔から、みるみる血の気が引いていくのが分かりました。
「晃くん、顔色悪くない?大丈夫?」
半分茶化すような由紀の声も、ひどく遠くから聞こえてくるように感じました。
皆さん、どう思いますか?
これは、単なる偶然?それとも…
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次回、後編。夏希が取った行動とは?由紀の本心とは?