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もくじ

ー 走りの天才か、努力の結晶か
ー 飛ばすほどに見えるM140iの限界
ー まさかの曖昧なフィーリング
ー タイプRの名に恥じない性能 ルックスは…
ー セッティングとボディサイズには不満も
ー カメはウサギを降した

走りの天才か、努力の結晶か

スペック表の上では、勝負になるとは思えない組み合わせだ。

BMW M140iは、本質的にパフォーマンスカー向きだ。6気筒を積む後輪駆動で、重量配分にも優れる。実用車がベースだということを忘れそうだ。対するホンダ・シビック・タイプRは、パフォーマンスに主眼を置いて考えれば、明らかに、そして本質的に誤りがある。前輪駆動で、エンジンルームにはどう頑張っても6気筒を収める余地などない。しかも、エンジンの重量はフロントアクスルにすべてのしかかる。そんなシビックをスポーティに仕上げるべく、ホンダはこれまで血と汗のにじむような努力を重ねてきた。

しかし時として、そんな努力や積極性が天賦の才を超えることがある。一心不乱なアスリートは、慢心する天才を凌ぐこともあるだろう。はたしてホンダのエンジニアが徹底的に磨き上げることで、シビックは、M140iを凌ぐ走りを手に入れたのだろうか。これは、なかなかの難題だ。

飛ばすほどに見えるM140iの限界

BMWの方は、相変わらず問題ない。それは、スペック表の上だけの話ではない。着座位置は低く、ステアリングホイールはダッシュボードから大きく手前に引き寄せられる。3.0ℓターボユニットはレスポンスに優れ、スムースで小気味いい。340psのパワーは、M140iを単なる速いコンパクトカーではなく、まるでもっと大きなクルマのような速さを持ったクルマに仕立てている。

試乗車の8段ATは、これも設定されるMTほど魅力的ではなく、アップでもダウンでも、パドル操作をしてから変速まで短い間があることを覚悟しなくてはならない。しかし、エンジンの溢れるパワーとトルクを、最後の一滴まで絞り出してくれるようなトランスミッションだ。

公道でもサーキットでも、後輪駆動のバランスは約束されているが、やや攻め始めると手に負えなくなる。それは、ステアリングにフロントアクスルとのつながりの直観的な感覚がなく、どのような反応をするかはしっかりわかるわけではなく、予測するか期待することしかできないのだ。また、シャシーは決して、路面をしっかり捉えているようには思えない。

まさかの曖昧なフィーリング

乗り心地は、ダンパーがもっともソフトなモードにあるとき以外はビジーで、そのソフトなモードでも大げさな上下動を見せる。前後左右にボディが傾き、脚が不安定なテーブルのようで、転倒することは決してないが、そうなるのではないかという不安が常につきまとう。ステアリングが不鮮明でボディコントロールがわずかに緩いため、クルマとの完璧な一体感を得ることができないのだ。しっかり把握するのではなく、ふんわり掌中に収めるという域を出ないである。

LSDがついていないことも、特に路面の湿ったサーキットでは問題だ。パワーオン時に、どのような挙動が起きるかわからないのである。コーナー出口へ思い通りに走るかもしれないし、突然オーバーステアに転じるかもしれない。負荷の抜けたタイヤが望ましくない空転をすることも、きっちり路面に接してみごとなパワースライドが決まることもある。固有の正確さがあるにもかかわらず、M140iは攻めた走りをすればするほど、満足度は低下していく。

タイプRの名に恥じない性能 ルックスは…

その対極にあるのがタイプRだ。走り始めからいい感じで、理解しがたい奇妙な欠点もなく、すぐに速く巧く走らせるドライビング法を見出せる。それは、出来のいいパフォーマンスカーであることを極めて強く示す指針だ。そして、スピードを上げ、攻めれば攻めるほど、よりまとまった、能力の高いクルマに思えてくる。

この2台で、より走らせられて、限界まで追い込まれてもハッピーそうなクルマは、このシビックの方だ。予想に反して、これはM140iより、生まれついてのパフォーマンスカーであるように感じさせるものがある。

凝りすぎのスタイリングと平凡なインテリアの組み合わせは、この価格を考えると看過しがたい。しかし、シートのポジションは以前より良くなった。着座位置はぐっと低くなり、リクライニング機構を備えたシートとしてはこれまでありえなかったサポート性を備える。

エンジンにはいまだ多少のラグがあり、ブーストがかかるまで指折り数えられるように思えるほどだ。しかし、いったん過給が利けば、本物の速さを発揮する。そして、マニュアルのギアボックスのできはこの上なくいい。

セッティングとボディサイズには不満も

それでもフラストレーションを感じるのは、望み通りのセッティングを得られないからだ。スロットルはよりシャープなマッピングで、ダンパーはもっともソフトなセッティングにするのがベストだと思うのだが。その代わり、公道上では常にコンフォートモードを選ぶべきだ。それは乗り心地のクオリティがもっとも高いからであり、スポーツや+Rでそれは得られない。

コンフォートモードであれば、洗練され従順で、まるでポルシェのGTモデルのごときスピードで滑るように走り、ボディコントロールはいつでもすばらしい。最悪な舗装でもこのクルマは呑み込み、コンチネンタル製のタイヤは路面にしっかり押し付けられ、想像以上のグリップを発揮する。

サーキットでは、衝撃的なまでに速い。スランドウ・サーキットでこれに勝るラップタイムを記録したのは、よりパワフルな2台だけだった。とはいえ、実に楽しくエキサイティングで、シャシーのアジャスト性やコーナーでクルマをグイグイと引っ張るディファレンシャル、まったく値を上げようとしないブレーキを備えている。

だが、時折思い知らされるのはボディサイズだ。特に狭い道や、極めてタイトにアペックスとアペックスをつなぐように、2速で走るようなサーキットの低速セクションでは、ボディの大きさを痛感する。

カメはウサギを降した


それでも、これは過去最高で、言い訳なしに買える初めてのシビック・タイプRだ。もっとも、支離滅裂なスタイリングと、平凡なインテリアに目をつぶる必要はあるのだが。

そうはいっても、4気筒のFFハッチバックとして真に目覚ましいのは、速く走らせると、6気筒のFRカーであるM140iより優れ、楽しいという点だ。勝者はシビック・タイプRであり、それは努力と一心不乱な仕事ぶりが、自己満足の技巧を降して収めた勝利である。そう、ウサギとカメのように。