嗜好品の側面を持つ大麻の効果検証は難しい

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外傷による肉体的な痛みや強い精神的ストレスによって心にダメージを負う職業といえば、兵士だろう。医療用大麻の解禁や大麻合法化が進む米国で、退役した兵士たちが戦傷による痛みや「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」を和らげるために大麻を使用することに問題はないのか――。

米退役軍人省内で保健衛生分野を管轄する退役軍人保健局がオレゴン健康科学大学やブラウン大学と共同で検証を行った結果を、2017年8月15日に発表した。

結局薬物依存の状態になってしまう

退役軍人保健局によると、退役軍人の8割近くが大麻を疼痛緩和やPTSD治療に使われる医薬品よりも低リスクで安全だと考え、医療用大麻の処方を希望するという。

しかし、大麻の利用によって得られる効果がリスクを上回るものかどうか、有効性と安全性を示すエビデンスレベル(科学的根拠の信頼性)の高い研究は少ない。そこで同局は自分たちで検証に取り組んだ。

単純に大麻の効果を検証するだけでは膨大なデータとなるため、「慢性疼痛(外傷や病気の治療後も長期間に渡って痛みなどの違和感が続く状態)」とPTSDの2つに限定し、両者の治療に大麻を用いた複数の研究論文を解析した。

まず、慢性疼痛への効果を比較研究によって調査した27件の論文解析からはわかったのは、大麻に慢性疼痛を緩和する効果はほとんどないという事実だった。

例外的に神経由来の慢性疼痛を緩和する可能性はあるものの、その効果を示す論文は1例だけ。むしろ疼痛治療に大麻を使用した結果、薬物中毒者になってしまい精神疾患や認知障害、交通事故リスクの上昇といった問題が多発していることが確認された。

またPTSDへの効果を検証した論文は大半に「被験者数が少なすぎる」「偽薬との比較試験を実施してない」などの問題があることが判明。

退役軍人保健局は「研究に欠陥があり、大麻がPTSD治療に利用可能であるとするエビデンスは不十分」とコメントしている。

同局が2013年から医療用大麻をPTSD治療用に処方されている退役軍人348人を追跡調査したデータでは、一時的に不眠などの症状が緩和されるものの大麻の使用期間が長期化するに従い精神疾患や躁病、認知機能障害の発症リスクが中程度まで上昇することが確認された。

長期化するほど大麻の使用頻度や用量は増加していき、依存度も高まっており「結局のところ薬物乱用のきっかけになっているにすぎない」という。

そもそも大麻の効果検証は難しい

退役軍人保健局の研究に協力したブラウン大学のジェーン・メトリック准教授は、痛みは感覚だけでなく記憶や感情からの影響も受ける多面的な症状であり、疼痛評価尺度だけでは測れない症状が大麻によって緩和する可能性は否定できないとしつつ、「大麻はその性質上、医薬品のように長期間に渡る検証は難しい」と指摘している。

「大麻の効果は用量や使用期間に大きく左右されます。痛みを治すために大量の薬物を長期間使用しろとは言えませんし、中毒にならない低用量で使用するならば、もっと低リスクの医薬品を服用するという選択肢があるでしょう。大麻使用者による自己報告に基づく『効果』は論外であり、現段階では大麻に十分なエビデンスがあるとは言えません」

退役軍人保健局は「大麻のエビデンスは乏しく、疼痛やPTSDの緩和には効果が実証されている医薬品と各種認知行動療法を組み合わせることを推奨する」としている。