『道ならぬ恋』と『不倫』 表現によって印象が変わる

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吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さん。先生の日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…様々な『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

言葉の選びかたで世界を変えていく

『道ならぬ恋』と『不倫』。同じ意味を表す言葉でも、表現によってこれだけ印象が変わる。「道ならぬ恋」という言葉には物語があり、せつない気持ちになりながら観た古い映画のようです。『逢いびき』『旅情』など、映像と音楽、台詞の美しさ、そして沈黙が語る言葉の深さ。そのような恋に憧れることはありませんでしたが、人の気持ちのどうにもならなさを、せつなく思ったものでした。

90年代にベストセラーになった『マディソン郡の橋』は映画にもなり、私もハンカチ片手に観に行きました。数日間の出来事を一生の宝物にした女性のせつなさと、その思いの美しさに心を打たれました。

この『マディソン郡の橋』がヒットしたことを、マスコミは『不倫ブーム』というような言葉で表現しました。『不倫』という言葉で表現されたことで、どこか薄汚れた印象になってしまったような気がします。『道ならぬ恋』の主人公たちは、それこそその恋をお墓の中に持っていくくらいの覚悟があったのです。そして、その恋を『物語』として大切にした。だからこそ、ラブストーリーになるのです。

人生には『物語』が必要です。困難なことに出合った時、それを乗り越えるために私たちは無意識のうちに『物語』を作ります。二年前に大好きな友人が亡くなった時、私はそのことをなかなか受け入れることができませんでした。まだ若いのに、やりたいことがたくさんあっただろうに。でも、棺の中の本当に美しい顔を見た時に、(すばらしい才能を生かして、多くの人に感動を与えて、たくさんの人に伝えて、素敵なパートナーもいて、彼女は幸せないい人生を送ったのだ)と思いました。

これは、私の『物語』なのかもしれません。でも、(まだ若いのに)と思い続けていたなら、私はいつまでも引きずってしまったかもしれません。自分に都合のいい勝手な解釈をするということではなく、乗り越えるために無意識が作る解釈が『物語』なのです。亡くなった人を思って思わず空を見上げる。これも、物語なのだと思います。

さて、私たちの人生にあった現実の物語。そして、無意識のうちに作る魂の再生のための『物語』。その物語を語る時、言葉1つで、伝わりかたも印象も変わります。『道ならぬ恋』と『不倫』のように、その言葉によってその恋の色模様が変わるのです。このように言葉によって色模様が変わるのだとしたら、素敵に彩りたい。ふっと交わす会話も、ブログやFacebookに書く文章も、自分らしい言葉で美しく伝えたいものです。

「言葉はその人を語る」

言葉はその人の感性と心を表します。たとえ美辞麗句であろうと、心が伴っていなければ透けて見えてしまう。どの言葉を選ぶかによって、見える世界が変わってくるのです。

私の『言の葉塾』という文章教室では短いエッセイを添削しながら授業を進めます。一年近く経つと、それぞれの文体のスタイルができ、まさに『その人』を表す文章になってきます。内なるエレガンスを大切に磨きながら、言葉を紡ぐ。そこに、新しい『物語』が生まれます。

grapeでも『心に響く』記事コンテストの募集が始まりました。自分の中で生まれた『物語』でも、日々の物語でも、ぜひ言葉に綴ってみてください。新たな発見を宝物に。言葉の力を感じてみてください。

[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
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⇒ 単行本「大人の結婚」