たくさん食べてもひとり1000円も見れば十分なのは屋台ならでは

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 「和食ブーム」などと言われて久しいが、ベトナムでも日本料理店が増えている。ハノイなどの大都市では裏路地にまで日本料理店が目に留まった。有名店の進出のほか、個人経営店も多数あり、日本人による店だけでなく、ベトナム人が和食を真似ただけの店もある。

 そんな中、ベトナム南部の商業都市ホーチミンで人気の日本料理屋台に行ってみた。

 ホテルや銀座のような高級店が建ち並ぶ1区に隣接する4区は完全な下町である。日本料理屋台「すしコ」はそんな地域にある。正確には屋台というよりはオープンエアな食堂で、扇風機が回る中、バイクや車がビュンビュンと走る道路脇で日本料理を堪能する店になっている。

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 この地域のベトナム料理屋台を訪れたことがあるが、その際にはまったく英語が通じず、当然ながらメニューもベトナム語のみ。値段記載もないのでいくらか訊くだけでも一苦労という庶民の下町。そんな中にありながら、すしコは日本語も多少は通じるし、ホーチミン在住の日本人も訪れる店とのことで、ちらほらとネクタイを締めた日本人客を店内で見かけた。

◆日本人経営店の数十分の1で寿司を食べられる

 オーナーと話をしたかったがあいにくその日は不在。連れて行ってくれた在住日本人によれば、オーナーはベトナム人で、日本料理店での就業経験があって独立したという。開店当初、ベトナム語のメディアが取り上げたこともあり、それが在住日本人の目に留まり、人気になったそうだ。

 屋台風ということで値段が安い。もちろん、近隣のベトナム料理屋台と比べれば割高ではあるが、本格的な日本料理店と比較すれば十分に安い。例えば、日本人経営の高級江戸前寿司をおまかせで楽しんだ場合、予算は70万〜300万ドン(約3400〜14600円)になる。すしコではひとり15万ドン(約730円)も見ればたらふく食事ができる。

 店名から寿司がメインになることはわかるが、ほかにも日本料理が充実していて、印象としては寿司屋よりも居酒屋といった感じだ。ベトナムはビールが非常に安く、すしコではベトナム南部のビール「サイゴンビール」が1本80円程度なので、リーズナブルに楽しめる。在住日本人に人気になるのもうなずける良心的価格だ。

 問題は味だが、当然本格的な寿司とはいかない。2016年7月にホーチミン市内に「高島屋」がオープンし、地下は日本のデパ地下のように飲食店が並ぶ。その中に鮮魚関係の店もあり、本格的な寿司が販売されていた。ここまでくれば日本のものと大差ない味わいといったレベルになるが、屋台、しかもベトナム人経営であるスシコはそうはいかない。

 とはいっても屋台という形態と値段設定は大きな強みになる。コストパフォーマンスからいうとむしろすしコの握りはおいしいとさえ言えるのではないだろうか。マグロの握りが赤身2.5万ドン(約120円)、トロが2.8万ドン(約135円)。ベトナムでもマグロ漁があるそうで、そのためこういった安さで出せるのだと現地在住の日本人が話していた。

 ただ、ウニは7.8万ドン(約380円)など高いものもあって、値段にはばらつきがある。おもしろいのは、マグロとイカ、それからカンパチが同じ値段でありながら、タコは3.8万ドン(約185円)と高く、日本の物価感覚とは違うところだ。近隣の屋台ではタコの半身をバーベキューにしたものが人気で、7万ドン(約340円)だった。タコは決して高級食材というわけでもなさそうだったのだが、すしコではそうなっていた。

◆日本人駐在員にも人気を博し、すでに3店舗に拡大

 東南アジアは調理師の技術力が高くない場合もある。たまたまなのか、すしコ訪問時の印象では米が硬い感じがした。それでも雰囲気と値段を考えると、これ以上を望む方が贅沢なのではないかと感じる。かつて江戸においても寿司は屋台で食べる、庶民のファストフードだったという話を聞く。日本では屋台寿司なんてほとんど見かけない。それがこんな東南アジアの片隅で楽しめるというのはおもしろい経験だった。

 すしコは4区の同じ通りに2店舗あるそうだ。企業駐在員など日本人在住者が多く暮らす1区の、リトルトーキョーともいえるレタントン通りに2017年7月ごろ、すしコ第3店舗目が登場した。日本人客を狙う場合、この場所に出店するのは定石かとは思う。しかし筆者の個人的見解では、すしコのよさは屋台であって、新店の普通のレストランのような形態になると正直興ざめだと思ってしまうのは大きなお世話だろうか。

 ただ、新店に感心するのは、外国人エリアに進出し、エアコン付きの店舗になりながらも下町4区の屋台と同じ値段で出していることだ。在住者やベトナム人にとって4区は治安が悪い地域という認識で、足を運べなかった人もいただろう。この日本人街への進出ですしコは新たな展開を見せるに違いない。

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)>