かつて通い詰めた柏総合グラウンドに帰還した中村。様々な想いが去来したという。写真:安藤隆人

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 高円宮杯プレミアリーグEAST第13節、柏レイソルU-18vs青森山田の一戦。緑の名門のエースストライカー、中村駿太(来春のモンテディオ山形入団が内定)にとっては、ただの試合ではなかった。
 
 対戦相手は昨年まで所属していた古巣だ。すでに前半戦で戦い勝利したが、そのゲームは青森山田高校グラウンドで行なわれた。
 
「あまり意識せずに試合に挑もうとしていたのですが、僕らのバスが柏市内に入って、見慣れた風景が目に入って来た。その瞬間、懐かしさとレイソルでの日々が思い返されました」
 
 小学校時代から数えると、8年の時間を過ごした日立柏総合グラウンド。かつて日常を過ごし、サッカーに打ち込んだ思い出の場所での戦いに、中村の心は否応なしに高ぶった。
 
「バスから降りて、グラウンドまでの道とグラウンドを見たら……なんか『帰って来たな』という感覚が湧いてきました。でも、青森山田のユニフォームを着てピッチに入った途端、自分でもびっくりするくらい緊張していた」
 
 覚悟を持って慣れ親しんだ柏を離れ、今春から青森山田に活躍の場を移した。「環境を変えて、もう一度自分を鍛え直したかった。いろんな想いはあるけど、成長する、強くなる、それだけを考えて決断をした」。あれから半年が経ち、古巣とのアウェー戦は「自分がどれだけ強くなれたのか確かめる重要なポイント」と位置づけていた。だからこそ、平常心ではいられなかった。
 
 キックオフの笛が鳴り響くと、彼はその緊張をエネルギーに変えた。「絶対に勝つ。そして成長した自分を見せる。頭の中はそれだけだった」とエンジン全開で動き出し、DFラインをかい潜るように前線で顔を出す。懐深くボールを収めると、そこからチーム自慢のサイド攻撃を引き出していく。立ち上がりから青森山田が主導権を握った。
 
 GK猿田遥己、CB中川創のトップ昇格決定コンビが固める柏ディフェンス網。その堅守に手を焼いたが、54分に左サイドを突破したMF壇崎竜孔がクロスを上げると、ファーサイドで一瞬フリーになったMF田中凌汰がドンピシャヘッドで先制点を叩き込む。中村はニアに飛び込み、マークを引きつけていた。
 
 これで勢いに乗った青森山田は、58分に中央でクサビを受けた中村が鋭い反転から、前線に飛び出したMF郷家友太(来春のヴィッセル神戸入団が内定)に糸を引くようなスルーパスを送る。64分には鮮やかなファーストタッチで前を向き、シュートを撃つと見せかけてフリーの壇崎へラストパス。直後の65分にはスルーパスから左サイドを打破し、ファーサイドに飛び込んだMF佐々木友へグラウンダーのクロス。いずれのプレーもゴールには至らなかったが、明らかな決定機だった。71分には壇崎のラストパスを受けてみずから強烈なシュートを放つが、これはわずかに枠を逸れた。
 
 結果的にノーゴールに終わったが、チームは1-0の勝利。中村は数多くのチャンスを創出し、しっかり決勝点にも絡んで見せた。
 
「嫌なところにいるなと思った。駿太が前線で起点になって、彼の足下に入れることによって、サイドの攻撃力を引き出されてしまい、すごく嫌だった」
 
 かつてのチームメイトであるGK猿田がこう語ったように、中村の存在は柏にとって厄介だった。さらに「駿太にはかなりのマークを強めていた」と明かす。この日の柏の中村に対するプレッシングは強烈だった。彼がボールを持つと、すぐさま複数の選手が寄せに来た。中村も真っ向から挑み、前線でしっかり起点となる。その攻防は実に見応えがあり、非常に面白かった。
 
「ボールを収める感覚がすごく良かった。最後まで集中力を切らさずにプレーすることができた」
 
 試合後、中村は安堵の表情を浮かべた。
 
「ちょっとは成長した姿を見せることができたかなと。同時に自分の選択は間違っていなかったと再認識することができた。これからも自分を信じて頑張ろうという気持ちが芽生えましたし、僕はもう『完全に青森山田の選手なんだ』とも実感しましたね。レイソルという存在は、やはり僕にとってすごく大きい。レイソルを相手に戦えたからこそ、あらためて自分を知ることができたんだと思う」
 
 なぜ青森山田を選んだのか。その決断の意味を、自分自身で示すことができた。同時に8年間お世話になった古巣への感謝の気持ちを、いま一度強く抱いたという。
 
「レイソル戦が終わって、ちょっとすっきりした気持ちになれました。もう頭の中はプレミア優勝と選手権優勝しかない。チームのために全力を尽くしたい。当然、今日奪えなかったゴールをしっかりと奪える選手になります」
 
 彼の中でひとつの区切りとなった重要な一戦を終えた。8年間通い詰めた原点とも言える場所で、不退転の決意を示した中村駿太。また、新たな一歩を踏み出した。
 
取材・文:安藤隆人(サッカージャーナリスト)