UUUMの株式上場セレモニーには超人気ユーチューバー・ヒカキン氏も登場した(写真:UUUM

HIKAKIN(ヒカキン)、はじめしゃちょー、佐々木あさひ――。無料動画視聴サイト「Youtube(ユーチューブ)」に自作の動画を投稿し、そこから広告収入を得ることを生業(なりわい)とするユーチューバー。小学生の「将来就きたい職業」で上位に入るなど、近年影響力が増している。
そんなユーチューバーたちの制作活動を背景で支える企業・UUUM(ウーム)が8月末、東京証券取引所マザーズ市場に上場した。同社の収益の柱は広告事業だ。視聴数に応じユーチューブ側からもらい受ける「アドセンス収益」と、商品やサービスを紹介する動画を制作・公開することで顧客企業からもらい受ける「広告収益」が2本柱になっている。
インターネット広告市場は前期比2ケタの成長が続き、中でも動画広告の伸びは顕著だ。一方、ステルスマーケティングをはじめとした、市場が拡大するにつれて注目されるようになった課題もある。“新世代のスター”に上り詰めたユーチューバーたちは、どんな可能性を秘めているのか。ウームの鎌田和樹CEOに聞いた。

――ウームがマネジメントしているユーチューバーは、従来の芸能人、タレントとどのような点が違うのか。

ユーチューバーは番組やイベントに出演するだけではなく、自分でネタを考え、撮影・編集までやる。演者だけでなくプロデューサーもディレクターも兼任して、コンテンツを全部ひとりで作れるのが最大の特徴だ。

またユーチューバーは、24時間365日、好きなタイミングで好きな動画を上げられる。世の中に出せるコンテンツの量にも制限がない。そういった活動の場を持っている点は、テレビやイベント、雑誌などを活動の主軸とするタレントとは大きく違う。

そういう人たちをマネジメントする当社の仕事も、単純にスケジュール調整をしたり、撮影現場に同行したりというだけでなく、一緒にネタを探すところから始まるし、時にはうちで編集を請け負うこともある。彼らユーチューバーという生態系に寄り添う、従来の芸能事務所とは違った機能を持っている。

ユーチューバーが面白いと思い、飛び込んだ

――従来のタレント養成と異なる特徴は?

普通のタレントを育てたことがなく、明確な違いはわからない(笑)。ユーチューバーの場合、まず自分で動画を作れるようになるのがスタートライン。制作の基礎や、ゲーム実況の機材のつなぎ込み方など、当社側でeラーニング(インターネット学習システム)のあらゆる科目を用意している。また、著作権などの権利侵害に関する教育を徹底し、商業利用して問題ない画像、音源の素材も共有している。

基礎ができたら、次はいかに面白いコンテンツを作っていけるかだ。ユーチューブは、どれだけの人が見ているか、どれだけの時間見られているかなど視聴データを簡単に分析できる。いくら本人や僕らが「面白い!」と思った動画でも、再生回数が3回だったら世の中には意味のない動画だ。

こうやってオープンな場で評価され続けることは、裏を返せば、短いサイクルで内容を見直して、次の制作に生かせるということ。そういう環境的な利点をしっかり生かし、一緒に試行錯誤を繰り返すのも僕らの仕事だ。


「ただユーチューバーの世界が面白いと思って飛び込んだ」と語った鎌田CEO(撮影:田所千代美)

――創業から丸4年。最初から今のようなビジネスモデルを描いていたのか。

「描いていた」と格好よく言いたいところだが、設立当初は明確な考えがあったわけではなく、ただユーチューバーの世界が面白いと思って飛び込んだ。すると、すぐに立ち上がってきたのが(今の主力事業になっている)アドセンスと、企業から直接受けるタイアップ動画広告。早い段階でいいチャンスをつかめたと思っている。

創業からまもなく、2014年ごろから世間で「動画元年」といわれはじめたが、その時点でユーチューバーはすでに、動画を作れる、トラフィックを作れるという、かなり進んだところにいて。だから動画視聴者だけでなく、新しい広告宣伝の手法を模索していた企業からお話をいただく機会が自然に増えていった。

――企業としての成長に弾みがついた時期、出来事は?

まずは1年目、創業まもない段階でヒカキン、はじめしゃちょーなどのトップユーチューバーが所属してくれたのが大きかった。2014年5月にはヒカキンが「SMAP×SMAP」に出演するなど、知名度が一段と上がっていったタイミングでもある。

また、2014年末に「ユーチューバー1000人を新規募集」と打ち出したのもエポックメーキングな出来事だった。リアルでは、タレントを一気に1000人増やすというのは難しい。当時は「ムリだろう」と失笑を買ったりもしたが、結果的に、無事1000人集めることができた。


水溜りボンドは1000人の募集時に集まった。登録数220万超の人気ユーチューバーだ(写真:UUUM

今大活躍しているユーチューバーの中にも、「水溜りボンド」など当時の1000人募集から所属につながったメンバーが複数いる。あのとき、思い切った募集を行ったことで、専属ユーチューバーが約180人、ネットワーク(必要なサービスのみを選んで使う形式の契約)への所属が4000人まで増え、ビジネスの規模を大きくできた。

活躍しているユーチューバーさんに「ぜひウームに所属してください」と声をかけるような機会は、すでにここ何年かで減ってきた。今度は内側から、第2、第3のスターを生み出していくフェーズに入っている。そういう中では、先に挙げたような教育がより重要度を増してくる。

面白いと思ってもらえる動画を作る

――上場企業になると、コンプライアンスに向けられる目は厳しくなる。ネットメディアに関してはここ最近、テキスト記事、動画にかかわらずステルスマーケティング(ステマ)問題が頻繁に指摘されるが、ウームではこの点をどう考えているか。

僕らは創業当初からタイアップ動画を展開してきたが、当時はインターネットマーケティングのガイドラインはなかった。当然、当社もクライアント企業もユーチューバーも、ステマと認識されていいことなど一つもない。2015年にはJIAA(日本インタラクティブ広告協会)と連携し、独自の提供表示ルールを作った。

そもそもなぜステマが出てくるかというと、ステマのほうがPRと明示した動画より広告効果が高いと信じ込んでいる人たちがいるからだ。でも、僕らのたどり着いた結論は、PRだろうとなかろうと、いい動画はいい動画で、たくさん見られるということ。これはクリエーターも納得している。

「PR」と入っている動画でも、面白ければ最後まで見てもらえる。逆にPRの動画でなくても、面白くなければ途中で離脱される。実際、社内で年間再生回数のランキングを作ると、企業と一緒に取り組んだPR動画がかなりの数上位に入ってくる。それは(物品や場所などの)リソースを提供してもらって、ユーチューバー個人では実現できないようなチャンスをもらえるからだ。

提供表示のルールを決めて、しっかり守ることは大前提。だがそれ以上に重視している目標は、企業におカネをもらう動画もそうでない動画も、目の前の機会を無駄にせず、ターゲット層に面白いと思ってもらえるものを作るということだ。

――ユーチューブという、ひとつのプラットフォームへの依存度が高い事業構造はリスクにならないか。

おっしゃるとおり、僕らの最大の取引先はユーチューブであり、グーグルだ。ただ、ユーチューブを取り巻く環境が大きく変化するかというと、それは考えにくいと思う。ネットのサービスは10年で新しいものに置き換わる、みたいによく言われるが、ユーチューブは2006年にできているので、もう10年以上経っていて、世界中で定着した感がある。今後も僕らにとって、事業展開の核であり続けることは間違いないだろう。

一方、フェイスブックなどSNSの世界もそうだが、これからは完全に置き換わるサービスが現れるというより、機能を切り出したような、特化型のサービスが出てくる時代になるのではないか。たとえば動画の業界でも、このところ「料理動画」の専門メディアが発展している。

これはユーチューバーにネガティブな影響を及ぼすものではない。料理を軸に活動しているユーチューバーにとっては、露出できる先が増えるかもしれない。会社として所属ユーチューバーに「ユーチューブ以外やるな」とはまったく言っていないので、いろいろなチャンスが派生してくるのではないかと、前向きにとらえている。

ユーチューバーを、もう一段浸透させていく

――昨年くらいからフェイスブックやLINEのタイムラインでも頻繁に動画を目にするようになった。動画や動画広告を取り巻く環境変化をどう感じているか。

世の中の複雑さが増し、流通している情報量も多くなるにつれ、あらゆる情報を文字や画像だけで説明し理解してもらうのが困難になった。そこにテクノロジーの進化が加わって、「動画ってやっぱりいいよね」という世界になってきた。

もう少し技術が発展したところにVR(仮想現実)やAR(拡張現実)があるが、これは視聴環境やデバイスが限られているので、まだ普及に時間がかかる。そういう意味では、今、動画は一般的な表現の「最高峰」にあるといえる。企業が広告の手段として活用するのも、当たり前の流れになってきた。すべてが追い風だ。


鎌田和樹(かまた かずき)/1983年生まれ、33歳。2003年に光通信入社。携帯電話ショップ出店・運営、アライアンスなどさまざまな経験を積む。2010年から同社執行役員。 2011年からはイー・モバイル一次店の代表取締役を務める。その後、ヒカキンとの出会いを受け、30歳を前に独立(撮影:田所千代美)

――課題に感じていることはあるか。

忙しすぎることくらいか(笑)。僕自身の動き方として、次のビジネスについて考え、行動する時間を多く取っているが、一方で、所属ユーチューバーたちと話す時間は減らしていない。アイデアは現場にいくつも落ちているので。

あとは、「ユーチューバーとは何者か」というのを、もう一段浸透させていくという課題があるだろう。小学生の”将来就きたい職業”でトップになったりはしているが、一般の大人からすると、「ユーチューバーってのがいるみたいだね」という程度の認識だと思う。ネットを舞台にこれだけ大活躍する人が生まれている、僕らみたいな会社が生まれて上場するまでになっている、ということをアピールしていきたい。

同じような業態の会社が国内でちらほら生まれている。競合になるとしても、業界を大きくするという意味では連合軍だ。そういう会社が出てくるのは、僕らにとってもプラス。一緒になってユーチューバーの世界を盛り上げたい。