繊維製品は、北朝鮮にとって石炭などの鉱物資源、海産物と並ぶ輸出の柱だ。韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)は、北朝鮮が2016年に繊維製品の輸出で稼ぎ出した外貨の額は、7億5200万ドル(約821億3200万億円)に達すると推計している。

北朝鮮の繊維産業は、国際社会の経済制裁をかいくぐるために、特殊な形で営まれている。

中国遼寧省の丹東、吉林省の琿春などには、北朝鮮の繊維工場と取引を行う繊維業者が多数存在する。彼らは、欧米や日本、韓国のアパレル企業から注文を受け、北朝鮮の工場に生産させ、中国製のラベルを貼って、中国経由で輸出する。このような制裁逃れの産地偽装が慣行として行われてきた。

こうしたビジネスの魅力は生産性の高さと賃金の安さだ。平壌在住経験のある中国人ビジネスマンは、ロイター通信の取材に、北朝鮮人労働者は中国人労働者より1日の生産量が3割多く、人件費は最高で75%安いと語った。また、大連在住の朝鮮族ビジネスマンは「北朝鮮の工場に注文を出そうにも、予約でいっぱいだ」と、その好況ぶりを説明した。

昨年、豪州の有名なサーフ・ブランドの一つ「リップ・カール(Rip Curl)」の衣料が、北朝鮮で製造されていたことが判明し、メーカーが謝罪に追い込まれたが、海外のアパレル企業にとって北朝鮮での生産は、バレた場合のリスクを考えてもなお魅力的なようだ。

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ところが、このようなビジネスモデルに異変が生じている。

国連安全保障理事会で8月5日に制裁決議2371号が採択されたことを受けて、中国商務省は同月14日、北朝鮮産の鉄、鉛、海産物などの輸入を全面禁止すると発表した。これに先立つ7月末、中国当局は非公式に中国製のラベルが貼られた北朝鮮製の製品の輸入を禁じる措置を取っていた。

韓国の新東亜は、対北朝鮮ビジネスを行っている中国人ビジネスマンA氏の証言を引用し、中国当局は7月30日、中朝国境の各税関に対して北朝鮮との輸出入製品に対して原則通りに調査することを口頭で指示したと報じている。

A氏によると、税関当局はそれ以降、中国製のラベルが貼られた北朝鮮製の製品に対して「北朝鮮で作ったものなのに、なぜ中国で作ったと虚偽の表示をするのか」と通関を拒むようになった。丹東税関の保税倉庫には、中国への輸出が認められなかった北朝鮮製の製品が山積みになり、廊下にまで溢れていたという。

吉林省でアパレル産業に従事する韓国人のK氏は、米国のアパレル企業から3万着の注文を受け、北朝鮮の羅先(ラソン)の工場に生産を依頼した。ところが、製品が完成し、輸出しようとしたところで中国の税関に止められてしまい、少なくとも13億ウォン(約1億2500万円)の損害を被った。

在庫を何とか持ち出すために、密輸に手を染める業者も出た。

遼寧省のビジネスマンB氏は、羅先の工場で製造した6万枚の衣類が中国に持ち込めなくなったため、衣類9600着を200キロ入りの麻袋12枚に詰め漁船に乗せて密輸した。輸送費は3600元(約5万9000円)で、陸上ルートの3倍以上だが、塩漬けにしておくよりはマシということだろう。

B氏は、平壌や羅先などで繊維産業に従事してきた人は20万人に達すると見ており、一連の制裁強化により、彼らの生活はもちろんのこと、北朝鮮の外貨稼ぎ事業に甚大な影響が出ると予想している。

このような措置に対して北朝鮮の税関は、中国製の物品を一つ一つ検査していちゃもんをつけたり、通関を拒否したりして対抗措置を取っているが、貿易の9割を中国に依存している現状では、自分の首を締めることになるだけだ。