HPVワクチンへの正しい理解ができないメディア(depositphotos.com)

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 日本のメディアに欠ける科学的素養について、子宮頸がんワクチンをテーマに述べたい。

 8月26日付けの毎日新聞が「 子宮頸がんワクチン ウイルス感染に9倍の差 再開求める」との日本産科婦人科学会の声明を報道した。一方、NHKは「子宮頸がんワクチン訴訟 原告代表『被害認めて』」と副反応に苦しむ人たちの声を8月23日に報道した。

効果と副作用を比較し、公共の福祉の観点で判断すべき

 このワクチンに関しては、痛みを訴える被害者の声が大きく伝わる一方、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の有用性を科学的に伝える報道はほとんど見当たらない。そもそも、歴史を紐解いても、副作用・副反応が皆無のワクチンなど存在しない基本的な理解にかけている。

 副作用があってもいいと言っているわけではなく、人間の多様性から生ずる結果の多様性を、永遠に理解しようとしないメディアの姿勢が問題なのだ。ワクチンは効果と副作用を比較して、公共の利益が副作用を明白に上回る場合、それは公共福祉目的で推進されるべきであるというのが、国際的な考え方だ。

 決して感情論の問題ではなく、科学的な問題、そして社会全体としての「公共の福祉」の観点による判断が必要だ。

 今回の毎日新聞の報道では、ワクチンを接種受けた20-22歳の女性、1297人のうち感染していたのは3人(0.2%)だったのに対し、同年齢で接種しなかった人は675人のうち12人(1.8%)がパピローマウイルスに感染していた。私がいつも問題点を指摘しているが、このケースは統計学的解析に歴然たる差があるのだ。

 2014年の統計によると、子宮頸がんの新規診断数は10,400名で、子宮頸がんによる死亡数は約3,500名程度と推測される(子宮体がんと頚がんを区別していないケースがあるので、推測値だ)。

 ヒトパピローマウイルスの感染は、子宮頸がんの約90%に認められる。細かい説明は省くが、HPV感染による子宮頸がんを約9000人、HPV感染がんに関連する子宮頸がんによる死亡を約3000人強と仮定する。

 単純に考えると、HPV感染がワクチン投与によって9分の1に減少すれば、HPV関連性子宮頸がん発症者は年間約8000人ほど減り、死亡者数は年間約2500名以上減ることになる。単純化しすぎているという批判に答えは持ち合わせていないが、桁外れの数字ではないと考えている。ワクチン接種による子宮頸がん予防に対する日本での数字はないが、世界的には子宮頸がんワクチンの子宮頸がん予防作用が報告され始めている。現状のままでは、日本という国は、医学の進歩の恩恵を置き去りにしている後進国になる。

日本は前向きの解決策を提案できないおかしな国

 しかし、私は一部の研究者が指摘するような、被害者が訴えている痛みをこのワクチンと関係ないと認める立場には立たない。他のワクチンでも同様な症状があるとか、ワクチン非接種者でも同様の痛みがあるとかを指摘してみたところで、問題の解決にはならない。

 今、痛みで苦しんでおられる方々の心を傷つけるだけであり、本当の解決には、科学的な解析と痛みからの解放が不可欠だ。

 免疫反応が関係しているなら、ワクチン接種前後で、どのような免疫状態の変化が起こっているのか、科学的に調べれば何らかのヒントが得られるはずだと思っている。すでに痛みを訴えている方たちにも、協力していただくことも不可欠だ。なぜ、前向きな解決策が提案できないのか、おかしな国だ。

第4の権力メディアが、この国を破綻に導く

 そして、日本がこのような非科学的な厚生行政の国になってしまった最大の要因ひとつを挙げるとすれば何か?答えは明白だ。「メディアの愚」なのだ。

 報道によって、風疹ワクチンを中止に追い込みながら、風疹が流行して新生児に影響が出ると、厚生行政を平気で批判する。臓器移植に関する、ジキルとハイドの顔についても以前にも指摘したとおりだ。

 子宮頸がんによる死亡数が、日本だけ減少しなければ、また、10―20年後に平然と厚生労働省を批判するのだろう。他人には反省を求めるが自分は反省しない、これを恥ともしないうらやましい性格だ。私など、日々反省の繰り返しだ。

 起こった事象を伝えているだけだと弁解するのだろうが、感情的な議論に乗って読み手の好奇心をかき立てるような報道をするだけでは、社会の木鐸としての価値はゼロだ。

 全体を把握た上で、国としてどうあるべきなのか、国民にとって何がベストなのか、利益を最大にして不利益を最小限にするために何をすべきなのか、建設的な意見を述べる能力がないのだろうか。

 そして、北朝鮮のミサイルが日本上空を通過した。昼行灯のような思考能力のない一部のメディアは、これでも目を覚まさないかもしれない。日本の領土と日本国民をどのように守るのだ。

 個人的に嫌いだからといって、政権打倒に執着する場合か!憲法9条があっても、国を守れないのだ!近くにやくざの脅威が迫っていても、刑法があるので、警察は不要だと言っているのと同じなのだ。それとも、彼らは北朝鮮に土下座してお願いしろというのか!

 第4の権力と称されるメディアだが、この国を破綻に導く第1の権力となっているような気がしてならない。

中村祐輔(なかむら・ゆうすけ)

シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センター副センター長。1977年、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、84〜89年、ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。89〜94年、(財)癌研究会癌研究所生化学部長。94年、東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。95〜2011年、同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005〜2010年、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年、内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長を経て、2012年4月より現職。

中村祐輔(なかむら・ゆうすけ)
シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センター副センター長。1977年、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、84〜89年、ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。89〜94年、(財)癌研究会癌研究所生化学部長。94年、東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。95〜2011年、同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005〜2010年、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年、内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長を経て、2012年4月より現職。