はじめて「HAPPY NUTS DAY」のピーナッツバターを食べたとき、濃厚な味に驚いた。もったりとした食感。舌の上で溶けていくほど、広がっていく香ばしさ。食べた人はわかると思うけれど、コクがもう、すごい。それをたっぷりとトーストにぬった朝は、いつもよりちょっと頑張れる気がする。

Photo by @icmra

何がこの味をつくっているのかHPに飛んでみると、意外にも材料は北海道産のてんさい糖と、九十九里産の海塩、千葉県で収穫された落花生の3種類だけ。あれ、たったこれだけだったの?そのまま他のページに行くと、もとはスケーター仲間の3人が、形が悪くて余っていた落花生を見て思いついたのが、ピーナッツバターづくりの始まりだったみたい。

ストーリーを知ってさらに好きになり、朝食に定着してから約2年。TABI LABOのライターになった私は、取材を申し込んでみることにした。すると、彼らが初めて主催する『HAPPY DAY TRIP』と名付けられたイベントに、密着させてもらえることになったのだ。

"童心"が育つ場所

前回も紹介の記事を書いたけれど、ここで簡単にもう一度。2017年7月9日〜8月27日の週末に、九十九里で1日、【サーフィン×シーフードBBQ】【ビーチヨガ×ワークショップ】【小学生対象×ワークショップ】のどれかを体験できるというもの。私が参加させてもらった8月27日は、ヨガコースとサーフィンコースの開催日だった。

集合場所は、「とようみ保育所」。子どもの人口が減ってしまったことで、近隣の幼稚園と合併することになり、今年4月に閉園となってしまったのだ。海から徒歩すぐという立地と、閉園したばかりでまだ整っている施設は、たしかに最適な場所だったと思う。久々に腰掛ける小さなイスや、園庭の遊具に、懐かしさと、当時は感じなかった可愛らしさがじんわりと広がっていく。どうしてこの場所を選んだのだろう? HPには、こんなメッセージが書いてあった。

幼少期を思い起こさせる特別な空間で、健やかな週末をお楽しみください。

なるほど。日々の忙しい生活の中で、心の隅に追いやられていた童心を呼び出して、のびのびと楽しむ週末。それが今回、彼らのつくる幸せなのかも?

【障がい者の雇用】や、【米国の環境保護団体への参加】などもしている彼らは、いったいどんな哲学を持っているのか? 何を"HAPPY"と捉えているのか? それを探しに行ってみた。

心を動かす「種」は、
すぐそばにあったりする。

いくら千葉が落花生の名産地とは言っても、国内自給率が12%ほどまで低下してしまった現状に変化をもたらすのは、とても難しい。まだブランドが立ち上がって間もない頃、畑を借りて自家栽培を始めた彼らに、農家さんたちからは批判の声もあったようだ。

けれど都内からスケボー仲間を呼んで、土だらけになりながら楽しそうに種をまいている姿を見たら、「なんだか俺らも楽しくなってきたぞ」と、長年それを仕事にしてきた人たちも、普段はコンクリートの道にいることが多い仲間たちも、一緒に発見をして盛り上がったことがあったそう。

その日をきっかけに、落花生の種まきや収穫の農業体験は今や「School of Peanut」と名付けられ、誰でも参加できる恒例行事となっている。

こうした"化学反応"は、今回も様々な場面で起こっていたように思う。

自分で収穫した野菜で、スムージーをつくるという、ヨガチームのワークショップ。近くの農家さんちにお邪魔して、形や色・触り心地などから、味の良さ見極める方法を教わった。いつも何気なく食べている野菜を、この時ばかりはまじまじと見つめてしまう。

農家さんの知識量って、改めてすごい。店内の最高品質ばかりをゲットするため、「一緒にスーパーに来てほしい」なんて声も(笑)。

予定には入っていなかったけれど、お土産用にって落花生まで収穫させてくれた。引っこ抜いてみて、こんなにごっそり採れるだなんてびっくり。

こちらも予定外だけれど、収穫が終わったら「ばあさんがスイカ切ってくれたからみんな食べてけ〜」って、まさかのご招待。

とにかくパワフルなおばちゃん2人が、大きなスイカをいくつも用意してくれていて、汗をかいた後にかぶりつく。あぁ、夏って最高。

サーファーのステージ
「九十九里浜」で波に乗る

千葉と聞いて思い浮かぶのは、ディズニーランドや成田空港と答える人が多いと思う。大体スポットライトを浴びるのは、北部の施設が多いのだ。

そんななか、東部で全国的に知られているのが「九十九里浜」。関東屈指のサーフスポットとして、数多くのサーファーが海を目当てに移住してきている。東京から1時間半あれば来れるから、アクセス面もいい感じ。

さてさて、波がコンスタントに来て、初心者でも波乗りしやすいと言われているこの場所で、サーフィンチームの様子はどうだろう?

たった1日でも、みんながボードの上に立てるように教えてくれたのは、プロサーファーの市東重明さん。多くのサーファーが憧れる存在である一方、今はモデルやアーティストとしても多方面から注目されている。

サーフボードで波に乗る喜び、海で新しくできる友達、小さな成功体験を通して、もっとこの海とサーフィンを好きになってくれたら嬉しい。という思いで、「HAPPY NUTS DAY」と市東さん、そして地元のサーファーによる、今回の体験が実現されたのだそう。

みんながわいわい楽しんでいる様子を、波打ち際で見守っていた
「HAPPY NUTS DAY」代表の中野剛さん。

HAPPYは、
「HAPPEN」だった。

"ピーナッツバターで、誰かの人生を輝かせたい"。そんな言葉を、彼らは一切口にしない。いつもよりちょっと、何かが変わったらいい、笑顔が生まれたらいい。そのくらいですよ、って。

『HAPPY DAY TRIP』にもそれが表れていて、派手で、誰も聞いたことがない斬新なコンテンツが組み込まれているわけではない。彼らの大好きな九十九里にあるものを、素直に感じてもらうようにできていた。

彼らの言う"HAPPY"は、とことん受け手にゆだねられている。

最後のBBQ、九十九里でとれた大きなハマグリやイカを食べて、みんなが頬を緩める姿を見ながら、落ちてきたのがこの言葉だった。

それはいま、ハマグリを食べている人の「美味しい」かもしれない。サーフボードの上に立てた時の「嬉しい」かもしれない。落花生を収穫した時の「楽しい」かもしれない。

彼らを通して新しい化学反応が起こったり、懐かしい記憶が蘇ったりすること。心に何かが起きる・生じること自体が、彼らの言う"HAPPY"なのだろう。そんな答えを、私はこの日の最後に見つけた。

"種"をまく人

運営の井上達矢さん(左)と、代表の中野剛さん(右)

彼らは、とびきりのピーナッツバターをつくっている。だけど「何をしている人たちか?」と聞かれた時に、ピッタリな言葉は『心に種をまく人』だと思う。

その種から、「HAPPY NUTS DAY」のファンになる、という芽が出ることが最重要だとはきっと思っていない。この日出会った人たちのことを、もっと彼らは"内側の人"として捉えていたと思うから。

もしかしたら、その種から出てくる芽は、農家のおじちゃんの優しさに触れたことで「来週は実家に帰ろう」と思うことかもしれない。九十九里の海で遊んだことで環境問題について考えるキッカケかもしれない。来年の夏もこの町に来たいと思うことかもしれない。それぞれに、ゆだねられている。

友達の輪を広げるような、心の温度を感じられるこのスタイルが、また彼らに会いたいと思わせる大きな理由なのだろう。

次のイベントは、10月7日(土)の収穫体験。自分で落花生を収穫して、当日持ち帰ることができるだけでなく、後日ピーナッツバターになって家に届くという。Instagramでお知らせを見て、すでに申し込み済み。初参加の「School of Peanut」が、今から楽しみだ。

Photo by 宮川ヨシヒロ