8月12日、全米プロゴルフ選手権3日目に臨む松山英樹選手。キャップには契約するダンロップスポーツのブランド「スリクソン」のロゴが入っている(写真:ZUMA Press/アフロ)

男子ゴルフ世界ランキング3位の松山英樹。今や、すっかり世界のトップ選手の一角を占める。その松山と「スリクソン」ブランドにおいてゴルフ用品使用契約を結ぶダンロップスポーツが、いま大きな転機を迎えている。

ダンロップスポーツは、住友ゴム工業(住友ゴム)のスポーツ事業子会社。親会社・住友ゴムがダンロップスポーツを吸収合併すると共同会見で発表したのだ。「ダンロップ」ブランドの価値向上とスポーツ事業の拡大を狙ったものであり、住友ゴムの資金力や研究力といった豊かな経営資源と、ダンロップスポーツのスポーツ事業に精通した人材との相乗効果を図るという。

ダンロップスポーツは、住友ゴムから2003年にスポーツ事業を分離・独立する形で設立され、2006年10月に東証1部上場。ゴルフ用品ではゼクシオ、スリクソン、クリーブランドゴルフ、テニス用品でダンロップ、スリクソンなどのブランドでスポーツ事業を展開している。

先述したように、今や世界のトッププレーヤーの一角を占める松山英樹とはゴルフ用品使用契約を結んでいる。ダンロップスポーツは、ゴルフ事業で国内最大手だ。複数の人気ブランドの中でも、ゼクシオは2000年から販売され、現在は9代目のクラブになり国内販売実績ナンバーワンである。今回の吸収合併によって、ダンロップスポーツはいわば元の鞘に収まった格好となり、今年の12月27日で上場廃止、2018年1月1日に住友ゴムに吸収合併される。

住友ゴムが吸収合併に乗り出した理由

なぜ、ここに来て上場子会社を吸収合併するのか。住友ゴムの池田育嗣社長は「責任明確化や事業のスピード化を進めるために分社化し、一定の成果は出たが、『ダンロップ』ブランドを世界で伸ばしていくために、この4月から状況が変わった。住友ゴムとして全力でスポーツ事業を伸ばし、タイヤビジネスにつなげることが重要なポイントとなった」と理由を説明した。

要は、「ダンロップ」のブランド価値向上のために、スポーツ事業も一体となってビジネスを展開したほうがいいという経営判断だ。

その点は、わかりやすい。ただ、池田社長が口にした「4月に状況が変わった」とはいったい何を意味するのか。実は、「ダンロップ」というブランド名でスポーツ事業を展開できる地域は、これまで日本、台湾、韓国に限られていた。そのほかの地域で商標権を持っていなかったのである。世界で活躍する松山のキャップのロゴも、ダンロップスポーツのブランドのひとつである「スリクソン」であり、「ダンロップ」ではない。

そこで住友ゴムは4月、世界のほかの地域で「ダンロップ」の商標権を持っていた英スポーツダイレクトインターナショナル社から154億円で商標権を買収。これにより、海外の他地域でスポーツ事業に関して「ダンロップ」ブランドを展開できるようになった、というのが池田社長の言葉が意味するところなのだ。

国内のゴルフ市場は減少傾向が続いている。公益財団法人の日本生産性本部が7月に発表した「レジャー白書2017」によると、ゴルフ参加人口の減少に歯止めがかかっておらず、それに伴いゴルフ用品市場も減少傾向が続いている。2016年のゴルフ用品市場規模は3310億円で1992年の6170億円と比べて半減しているという。

国内市場だけでは、先行きは厳しい。ダンロップスポーツも当然、海外事業に力を入れている。が、これまでのように「ダンロップ」ブランドを使える地域が限られたままでは、ゴルフに経営資源を集中させてグローバル規模で事業展開している大手のタイトリスト、キャロウェイゴルフ、テーラーメイドと戦うのは難しかったのだ。

グローバル展開のために、何が必要か

世界で戦うには資金力と製品開発力、ブランド力が必要で、今回の統合でその両方を手に入れてスポーツ部門のグローバル展開に乗り出そうとしていることが見えてくる。


住友ゴム工業の池田育嗣社長(左)とダンロップスポーツの木滑和生社長(筆者撮影)

吸収・合併後のスポーツ部門の目標について池田社長は「タイヤ事業は2ケタ成長を目指しているので、それに伴ってスポーツ事業も伸びていってほしい」と説明。現在(売上高比率)10%を占めるスポーツ事業の割合に関しても、2020年、そして2025年の段階でも10%を確保したい考えだ。

2016年12月期の住友ゴムの連結売上高は7566億円で、そのうちダンロップスポーツが732億円。中核のタイヤ事業を伸ばしていく中で、スポーツ事業にも同じレベルの成長力を期待している。

その目標を可能にしうるのは、経営資源の統合による研究開発力、資金力、ブランド力の向上だろう。

研究開発については、企業規模が大きくなれば人や物の十分な投入がしやすくなる。また、資金力については、たとえば大きなM&A案件があった場合に、検討の余地が広がる。ブランド力についても「ダンロップ」というブランド力をタイヤ事業とゴルフ事業で区別なく活用できるほうが、知名度向上などの施策を効率的に進められるはずだ。

ただ、池田社長はこの点について「ゴルフに関しては、メインブランドである、ゼクシオ、スリクソン、クリーブランドゴルフを伸ばしていく方向性に変わりない」とも述べた。

「ダンロップ」ブランド投入の可能性

しかし、それだけではダンロップスポーツを吸収合併した効果を最大化するという観点からは物足りない。本当にゴルフ分野で「ダンロップ」ブランドの商品を投入しないのか。この疑問をダンロップスポーツの木滑和生社長に直撃すると、「当面はゼクシオ、スリクソン、クリーブランドゴルフを商品ブランドとして使い続ける。ただし、世の中を動かすことができる画期的な新商品ができたときに、『ダンロップ』ブランドで投入する可能性がある」との答えだった。

今回の統合で研究開発に勢いがつき、画期的な新商品がゴルフ用品に投入されることを期待したい。「ダンロップ」ブランドのクラブやボールの新商品が発売されたときに、住友ゴムによるダンロップスポーツの吸収合併のメリットが、一般ゴルファーのところにまで届く、ということになるのかもしれない。

米国PGAツアーで活躍する松山英樹選手のキャップのロゴが「スリクソン」から「ダンロップ」に変わる日は来るのか。タイヤも含めた「ダンロップ」ブランド全体の今後の価値を考えるうえでも、大きな決断になる。

(文中一部敬称略)