9月14日、アーメダバードで開催された高速鉄道起工式でルートについて説明を受ける安倍首相(右から2番目)とインドのモディ首相(右端)(写真:PMIndia)

日本のインフラ輸出の目玉である新幹線がインドに登場しようとしている。安倍晋三首相は9月14日、インド西部の工業都市・アーメダバードでインドのナレンドラ・モディ首相と共に高速鉄道建設の起工式を行った。インド最大の商業都市・ムンバイとアーメダバードとを結ぶこの鉄道は全長約505km。2023年の開業を目標に今後、敷設が開始されることとなる。

インドでは現在、高速鉄道について7つの区間を計画中で、さらに4大都市(デリー、チェンナイ、コルカタ、ムンバイ)を高速鉄道で結ぶ「ダイヤモンドの四角形構想」もある。今回起工式が行われたムンバイ―アーメダバード間がその皮切りとなる。最高速度は時速320kmで、所要時間は現在の約8時間からわずか2時間と大幅に短縮される。

総事業費は1.7兆円

日印両国の首脳は、2005年から毎年相互に相手国を訪問しており、今年は安倍首相がインドを訪れるかたちとなった。2015年12月に安倍首相が首都・デリーを訪問した際、インド初となる同区間での高速鉄道の建設について日本の新幹線方式を採用することで合意している。一方、モディ首相は2016年11月に訪日した際、東京から新神戸まで安倍首相と共に新幹線に乗車、神戸では新幹線車両を生産する川崎重工業の工場見学も行っている。

同区間の総事業費は9800億ルピー(約1兆7000億円)で、うち80%は0.1%の低利融資での円借款となる。返済期間は2038年から2072年までとしており、インド側にとっては極めて好条件で日本側の支援を得たことになる。残額については、沿線となるマハラシュトラ州とグジャラート州、およびインド国鉄が拠出することになっている。

ムンバイ―アーメダバード間の人口規模をみると、ムンバイが1200万人と東京23区と横浜市をちょうど合わせたくらい、アーメダバードが580万人と大阪市と京都市を合わせた400万人よりも大きい。さらに2都市間には、500万の人口を擁するスーラト、360万人のバドダラに加え、100万人以上の人口を持つ都市が5つもある(国土交通省の資料による)。


世界遺産にも指定されているムンバイ駅(写真:ロシ/PIXTA)

2015年6月に終了した日印共同調査を経て、同区間の新駅は全部で12カ所設けられることで固まっている。なお、軌間については日本の新幹線と同じ標準軌(1435mm)となることが決まっており、インドで使われている在来線の広軌(1676mm)の列車が乗り入れることは難しいことになる。

当初、ムンバイ―アーメダバード間の事業化調査(FS)はフランスの鉄道コンサルタント会社シストラが引き受けていた。つまり、フランス方式が先行していたわけである。では、なぜ日本が逆転受注にこぎつけることができたのだろうか。

インドでは鉄道事故で数万人が死亡

フランスの提案は自国の高速鉄道TGVと同様に、都市間では専用線を走るものの、都市付近では在来線の線路に乗り入れるというものだった。一方で、日本は完全専用線での敷設を主張。在来線のダイヤが乱れても高速鉄道には影響がないと訴えた。さらに、フランス提案の広軌よりも標準軌のほうが、将来インドが高速車両を輸出する場合に有利になるといった点を評価され、最終的に日本案が採用されることになった。また、モディ首相はアーメダバードがあるグジャラート州出身。2001年から14年までの長期にわたり同州の首相を務めていたという点も幸いしたといえる。

日本案の優位性の一つに、事故が少ないという点もあげられる。インドの鉄道をめぐっては、大きな脱線事故が度重なって起こるなど、安全への不安は依然としてぬぐい去れない。

インドでは年間数万人もの人々が鉄道事故で死亡している。これは、踏切事故や、列車の脱線などが主な原因だ。今年も8月に急行列車が大事故を起こし、編成のうち12両が脱線、うち2両は事故現場付近の住宅街に飛び込んだという。この事故で少なくとも21人が死亡、70人以上が負傷している。当局の統計では、2015年に鉄道関係での死亡者数は2万6000人余りで、うち約1割が踏切での事故で命を落としている。

インド国鉄は、「2020年までに無人の踏切をなくす」との目標を掲げており、これにより跨線橋や地下道の建設を進めるほか、列車の接近を知らせる新たな技術の導入を行うという。専用線で走る新幹線方式が採用されることもインドの鉄道の事故軽減に多少なりとも貢献するはずだ。


高速鉄道の起工式では赤いE6系の存在感が際立った(写真:PMIndia)

ムンバイ―アーメダバード間に導入される車両の製造元はいまのところ決まっていない。先にインド側の報道で「JR東日本のE5系10両編成を25本となる予定」といった極めて具体的な数字が出たりもしたが、乗客需要がはっきりしない現状において、車両の導入数まで決定するのは無理と言うものだ。ただ、日本側はインドへの売り込みに際してE5系のデザインをしばしば用いており、インド側も起工式に際し、「赤いE6系が2021年6月に到着」と説明するビデオを作成していることから、E5系やE6系をベースに開発されることになるのかもしれないが。

14日の式典は、アーメダバードの中心街から見て北西に位置するサバルマティ駅近くの運動場で行われた。この場所に高速鉄道の終着駅が置かれる予定だ。ここには現在、アーメダバードとグジャラート州の州都・ガンディーナガルを結ぶBRT(バス高速輸送システム)が通っているが、建設中のアーメダバードメトロ(地下鉄)の駅もできる予定で、新たな交通の要衝になることが期待されている。

今回起工した高速鉄道は、在来線とは全く違うルートを取ることになっているが、アーメダバード駅には、現在長距離輸送を担う国鉄の在来線に加え、メトロと高速鉄道が乗り入れる見込みだ。

ただ、現地で話を聞くと「交通が便利になればなるほど、地方からいろいろな人々が集まってくる。都会へのさらなる人口集中が起こらなければいいのだが……」と懸念する声も聞こえてくる。

現地生産へのこだわり

日本が初めて国外に新幹線方式で輸出が成功した台湾のケースでは、J新幹線700系の改良型である「700T」が 川崎重工業、日立製作所、日本車輌製造の3社により生産され、台湾へ輸出された。

英国やイタリアでの高速車両生産の実績を持つ日立製作所は、「現時点では積極的に受注活動に取り組んでいるという状況で、生産の分担などは未定」としながらも、「JR各社で豊富な経験と実績を持つ車両・信号・運行管理などの新幹線コアシステムについて受注を目指して活動を進めており、インドへも新幹線システム導入の実現に向け、日本政府やJR東日本と緊密に連携し、積極的に対応する」と意欲を示している。

インドを走る車両については、モディ首相が16年11月の訪日の際、「Make in India(インドで造る)」と現地生産にこだわりを見せている。その先には高速鉄道の輸出国になりたいという思いがある。

モディ首相は起工式に引き続き行われた日印年次サミットで「インドにミニジャパンを設けたい」といった構想も口にしており、「シンカンセン」だけでなく、サービス業を含めた日本の先進的な様々な企業による投資への期待も感じられる。日本がリードするさまざまな先進的な技術や文化をアジアの大国、インドへ伝えるためには、高速鉄道を何としても成功させなければならない。