トランプ大統領の表情がぎこちない。すぐ横に「天敵」の共和党・マコーネル上院内総務がいるのだから、それも当然か(写真:AP/アフロ)

アメリカでは、ハリケーン・ハービーの被害は当初予想をはるかに超えたものとなりました。救援支援のための予算を追加することが不可避となり、共和党、民主党ともに、ここでガバメントシャットダウン(政府閉鎖)などをしている場合ではなくなってしまいました。

前代未聞の珍事が起きてしまった


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予想通り、債務上限の一時的引き上げが喫緊の課題となり、皮肉なことにガバメントシャットダウンの危機はひとまず乗り越えました。しかし、実際はその乗り越え方がとんでもない!!もので、これは「トランプ劇場」、というよりもはや「トランプホラー劇場だ」、という声が出ています。

今回の債務上限一時引き上げを率先して行ったのは、共和党主流派ではありません。共和党における政策立案の中心であるポール・ライアン下院議長とミッチ・マコーネル上院院内総務に何の相談もないまま、ドナルド・トランプ大統領自身が、あろうことか民主党のナンシー・ペロシ下院院内総務とチャック・シューマー上院院内総務と直接会って話をし、なおかつ民主党案をそのまま丸呑みした、というのです。

この合意はアメリカではすでに「シューマー・ペロシ・トランプ合意」などと呼ばれ、民主党有力議員と共和党の「代表」であるトランプ大統領の名前がこういった合意に際して並んでいるというのは、前代未聞の珍事と言えるでしょう。

例えば、安倍晋三首相が、麻生太郎副総理、菅義偉官房長官と何の相談もないまま、民進党の前原誠司代表、共産党の志位和夫委員長と直接あって、野党案を丸呑みしてきた・・・・・・としたらどうですか? 今回はまさにそういう「あり得ない」ことが起きてしまったのです。

もちろん、共和党重鎮の皆様は怒り心頭、特に前から確執のあったマコーネルとの関係悪化は決定的とまで言われており(トランプはマコーネルに「お前は早くやめたほうがいい」、と公衆の面前で罵った、という前科がある)、これでますます議会運営が難しくなったと言えましょう。

これから減税、DACA(移民救済制度)の代替案など、難しい法案を決めねばならないときに、よりによって共和党の本丸とも言える債務上限問題で民主党案を丸呑みにしているわけですから、共和党議員はもう「怒髪天を衝く」です。実際、今回は3カ月の期限ということで一時的引き上げをしており、この法案はこのままいくと、12月15日には期限が切れてしまいます。

ただでさえ問題山積、そして年末が迫る時点で再びこの問題を扱わねばならない、という状況は、いくら何でも危険すぎます。もしかすると本当に政権が転覆しかねません。

相次ぐハリケーンの来襲でトランプ大統領が焦ったのかもしれませんが、一説によれば共和党自体は来年の中間選挙をにらんで、18カ月の上限引き上げ延長を考えていたようで、そうすれば来年11月の中間選挙後に期限が来るので、債務上限問題を選挙の争点から外すことができるわけです。普通にやっていれば、こちらの方がはるかに「上策」だったと言えます。

そもそもトランプ大統領の振る舞いについては、8月のバージニア州で起きた事件での対応に対してユダヤ系であるスティーブン・ムニューシン財務長官が激怒したとされており、彼の辞任の噂は未だにたえません。もし、これ以上の主要閣僚辞任が続くなら、政権が危機に瀕する羽目になります。

挙句の果てに、予算を取り仕切る行政管理予算局のトップの局長にミック・マルバニーという男をトランプが指名しているのにも、非常に危うさが見られます。なぜ、こんな人選をしたのか、私にはまったく理由がわからないのですが、要するにこの人、ばりばりの「小さな政府」派の人なんです。

「トランプホラー劇場」が最大のリスクに

しかも、「フリーダム・コーカス」と言って、政府が余計な支出をできるだけ避ける、社会保障費など不要、貧乏人は自分の努力が足りないだけだから放っておけ、まして国のおカネを使うなど言語道断、という筋金入りの人々の集まりのグループ創設者!! の一人なんですよ。こんな人が予算を仕切る立場にいるということを考えると、これは普通にダメでしょう(笑)。

日本でも小泉純一郎さんは「自民党をぶっ壊す」、と言って実際には何もできず、一方で本当に壊しちゃったのは民主党(当時)の野田佳彦さんだったわけですが、こうしてみてみるとトランプ大統領は、これで本当に「共和党をぶっ壊す!」かもしれません。

いずれにせよ、こうしてみると、これからの議会運営を考えると前途多難、と言わざるを得ない。果たして、何が起きるのか。目が離せない展開となることは間違いありません。経済面で言うと、ハリケーン・ハービーの影響は免れませんが、それも一時的なもの。若年労働人口が増加していくアメリカでは、経済成長はもう約束されたようなもので、好調なマクロ経済の動向が予想されます。

しかしながら、こういった突発的なトランプ大統領の行動はいかんとも予想しづらく、今後とも市場にとっての最大のリスクは、この「トランプホラー劇場」と言っていいでしょう。12月に再びヤマ場がくるということだけはお忘れなきよう・・・・・・。