『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)発売に際して、いろんな方に本書を読んでもらいました。痴漢の実態を明らかにし、その卑劣な行為の裏にある“性依存症”という病について解き、最終的には「痴漢撲滅」の方策を考えることに主眼をおいた一冊です。

ゆえに、その方面の専門家や性教育、司法関係の方々からは、著者である精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏や、担当編集者である私のもとに感想が届いています。が、それ以外の男性からのフィードバックがとても少ないのです。

■多くの男性は痴漢を“他人事”だと思っている

これはあくまでも私自身の体感ですが、女性はかなり熱のこもった、そして具体的な感想を送ってくれます。それに比べると、本書に対する男性からの声は非常に小さい。この非対称性、私はとても興味深いと感じました。

痴漢はまぎれもなく社会悪のひとつであり、本来ならそこに向けられる視線に男女差はないはずです。「殺人とは許されない犯罪か?」という問いへの答えに、男女差はないでしょう。強盗や傷害事件についても同じだと思われます。

けれど痴漢や性犯罪への反応には圧倒的な男女差があり、本書に対するリアクションにもそれが表れています。女性が被害者になりやすい性で、男性が加害者になりやすい性だから……という単純な問題ではなさそうです。男性も被害者になりえますし、本書では痴漢が女性の尊厳を踏みにじる行為であると同時に、それがいかに社会的損失を生じさせるものであるかを明らかにしています。それなのに、多くの男性にとって痴漢問題はどこまでも“他人事”です。

斉藤氏は「痴漢をはじめとする性犯罪、性暴力は女性の問題ではなく、男性の問題である」と明言します。それは、これまで認知行動療法によって“痴漢しない自分”に変えるプログラムを通して1,000人を超す痴漢常習者を含む性犯罪者と向き合ってきたからこその実感であり、現在は「すべての男性は潜在的に加害者性を内在している」と考えるに至っています。

■いまだに痴漢冤罪の問題性を叫ぶ男性たち

さらにその背景には社会に根深くある男尊女卑的価値観が横たわっていて、それがあるかぎり条件さえそろえば「すべての男性は痴漢になるリスクを秘めている」といい、だからこそ、その価値観を男性自身が是正していかなければならないと訴えます。

これこそが、男性が本書に反応しづらい、あるいは反発を感じるポイントなのでしょう。私は“男性の加害者性”に疑問を感じる女性は少ないと思います。性暴力という苛烈な形でなくとも、大なり小なりの加害者性を日常的に感じているからです。

もちろん価値観をアップデートし、その加害者性に気づきながらもコントロールしている男性も多いので、単純化はできません。ただ、そうでない人たちにとってこの指摘が耳ざわりのいいものでないことは想像できます。言うなれば“不都合な真実”。だから目を逸らしたい。「自分は痴漢になる可能性がある」と考えるより、「痴漢冤罪の被害者になる」と考えるほうがよほど“居心地がいい”のです。

本書に関するweb記事が配信されると、その現象が極めて顕著にあらわれます。コメント欄やSNSには痴漢問題が語られること自体への強い拒否感と、それよりも痴漢冤罪が問題だと訴える声ばかりが並びます。かつて『それでも僕はやってない』という映画がヒットしましたが、そうした書き込みの行間からは「それでも男は悪くない」という本心が漏れているようです。

■「僕は関係ない」からのアップデートを

今夏、男性が性暴力について考えることを呼びかけるシンポジウムを聞きにいきました。そこで男性パネリストが「実際に加害をしている男性はほんのひと握りで、ほとんどの男性はやってない」と話すのを聞き、私は首をひねりました。

そのシンポジウムでは、被害者に浴びせられる自己責任論(最後まで抵抗しなかった女性が悪い、など)がメインテーマに据えられていました。私はこうした自己責任論の発信もまた、暴力“的”だと感じます。被害を矮小化し、被害者の声を封じ込めかねないからです。「現実に加害した男性」と明確に区別して考えなければいけないのは大前提ですが、だからといって「何もしていないから、いいよね」とも思えません。

そうして男性が「性犯罪者は自分たちとはまったく違う存在」と声高に主張するほど、リアルな性犯罪者の実態は表に出てこなくなります。モンスター的なイメージが流布し、そこに社会の目がいけば、加害者にとっては格好の隠れ蓑になります。安易な線引きは、性犯罪、性暴力をより“見えないもの”としてしまいます。

「それでも男は悪くない」「それでも僕は関係ない」は、痴漢や性犯罪を“男性の問題”として考えなくていいことにする魔法のフレーズです。『男が痴漢になる理由』には、男性が反発を感じるであろう箇所がいくつもあります。そうした文章に行き当たり、反射的に「それでも」という言葉が喉まで出かかったとしても、そこで一度踏んばって、なぜ抵抗や反発を感じたかを考えてほしいのです。本書が「それでも」な思考停止状態に風穴をあける一冊となることを願っています。

【関連書籍】『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)