9月15日、北朝鮮の弾道ミサイル発射を伝える読売新聞の号外(写真:AP/アフロ)

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 4月には「明日にも決行か」と興奮気味に言われたのが、「アメリカが北朝鮮を先制爆撃し、核施設の破壊に踏み切る」とする予測だ。

 しかし、その後数回にわたって北朝鮮は弾道ミサイル発射を行い、核実験も強行したが、いまだアメリカは軍事行動に踏み切っていない。一時は金正恩朝鮮労働党委員長の斬首作戦も取り沙汰されたが、今は鳴りを潜めている。では、北朝鮮攻撃のシナリオは完全に消えたのかといえば、そうでもない。

 ドナルド・トランプ大統領やレックス・ティラーソン国務長官をはじめ、トランプ政権の高官全員が「卓上には、あらゆる選択肢がある」という旨の発言をしている。

●米国内で日本と韓国の核武装容認論が急浮上

 一方で、「日本と韓国の核武装容認論」が急浮上している。それも、上院の有力者であるジョン・マケイン議員が「韓国への核兵器の再配備をアメリカは真剣に考えるべきだ」(9月10日、CNNのインタビュー)と語るなど、表立っての議論になってきた。なかには、日本に核武装を積極的に勧める議論もあるほどだ。

 それはなぜか。実際には以下の理由から、アメリカは当面の間、軍事行動を取ることはなさそうだからだ。

 第一に、空母3隻以上を日本海に展開させる必要があるが、その動きがない。第二に、韓国・ソウルを防御することができずに数百万人の犠牲が出る恐れが強い。第三に、在韓米国人に避難命令が出ていない。つまり、先制攻撃の予兆がない。第四に、中国とロシアの制裁が生ぬるく効果があがらない。第五に、韓国がむしろ米軍の作戦を妨害する恐れさえある。

 これらの要素に加えて、最大の障壁は国防総省(ペンタゴン)そのものである。職業軍人は戦争に備えるが、戦争をもっとも望まないのが軍人出身の政治家だ。軍事力は抑止力として機能するのが最善という考えだからである。

 トランプ政権の中枢をみると、ジェームズ・マティス国防長官、ハーバート・マクマスター補佐官、ジョン・ケリー首席補佐官はみな軍人出身である。それも、大将か中将を歴任し、戦場でも指揮を執り、数々の勲章に輝いている。彼らは難しい試験を乗り越えてきたインテリでもある。

 メディアに登場して、いいかげんな論文を書いている学者やジャーナリストとは異なり、実戦経験や戦場の教訓を身につけている。彼らはきわめて戦争に慎重であり、泥沼化して長期戦になることはなんとしても避けたい。そのため、アメリカは中国の政治力に期待するのだ。

 トランプ大統領は昨年の大統領選挙中に中国を敵視し、中国対策にロシアの力を借りようとしてウラジーミル・プーチン大統領に近づいた。ところが、対ロ関係の改善に議会が反対し、さらにメディアの反対が加わった「反ロ合奏団」がうるさく、トランプ大統領の計画は頓挫した。

 トランプ大統領は、基本的に中東と北大西洋条約機構(NATO)を重視する姿勢だ。そして、もっとも嫌がったアフガニスタンへの増派に渋々応じた。これは、前述したホワイトハウスの軍人3人組が説得したからである。加えて、中国敵視の姿勢も劇的に緩和された。戦略補佐官のスティーブン・バノンを解任したことが、その姿勢の変化を象徴するだろう。

●米軍、中国に核攻撃の可能性も示唆…

 しかし、北朝鮮が6回目の核実験を強行したことで北朝鮮をめぐる米中関係が大きく変化した。

 まず、米海軍高官が「大統領が命令すれば中国への核攻撃も辞さない」との発言を繰り出している。スコット・スウィフト太平洋艦隊司令官は「アメリカの憲法に従い、軍はシビリアン・コントロールの下にあり、大統領が命令すればその通りにするのが任務だ」と明言したのだ。

 また、中央情報局(CIA)分析官が「ロシアより中国がアメリカの敵ではないのか」としている。具体的には、以下のように語っているのだ。

「中国が問題なのは、民主主義国家ではなく国内が不安定この上ないからだ。しかしながら、彼らも地域の安定を望んでおり、対米関係を重視している。

 南シナ海における一連の軍事行動では、周辺国家からの反対、妨害、反中国感情の爆発など、新しい経験や局面に直面している。しかし、中国は国際社会の反発にもかかわらず、『南シナ海で望み通りの変化を遂げることができれば、世界のほかの地域でも同じ結果を得られる』と過信し始めている」

 南シナ海で領土拡張を続ける中国に対して、アメリカは「自由航行作戦」を展開して牽制する程度だ。その動きを見てますます増長する中国は、南シナ海における中国主導の秩序構築はうまくいくと踏んでいる。それはつまり地域覇権の確立であり、中国の軍事的野心を満たすものだ。そのため、中国が北朝鮮に本格的な制裁を与える条件として持ち出すのは、南シナ海の動きをアメリカが黙認することだろう。

 そもそも、トランプ政権は中国の軍事技術が格段に進歩しているのを目の当たりにしながらも、有効な対策を打つことができていない。アメリカは、これまで「ハイテク兵器をアメリカに開発させて、その成果をごっそりいただこうとしている」と中国およびほかの敵性国家を警戒してきた。

 しかし、軍事ロボットにも転用される人工知能(AI)技術を開発するシリコンバレーには、そうした危機意識が薄い。国籍を問わず熱心な技術者、学者、企業家がベンチャー企業に資本導入を行っているほか、そもそもシリコンバレーは政治思想的にはリベラル一色で、トランプ政権を支持する企業家やビジネスパーソンは少数派だ。

 このように複雑な環境下で情報が錯綜するなかで、北朝鮮の核ミサイル開発はまだまだ進行するだろう。
(文=宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト)