北朝鮮とどう向き合ったらいいのだろうか(写真:Harvepino / PIXTA)

9月15日に北朝鮮が発射した弾道ミサイルは日本上空を飛び越え、朝のテレビニュースは、警告を発する「Jアラート」一色となった。8月29日にも同じくミサイルが日本上空を通過。その後の9月3日の6回目の核実験を受けて、同11日の国連安全保障理事会では、北朝鮮への追加制裁が全会一致で決議されていた。国際社会の度重なる非難や勧告にもかかわらず、核・ミサイル開発をあきらめようとしないこの国に、私たちはどう向き合ったらいいのか?
混迷の度を増す朝鮮半島情勢、そしてアジア・太平洋地域の今後を見通すためにも、「海」からの視点が重要だ。北大西洋条約機構(NATO)の欧州連合軍最高司令官を務めたアメリカ海軍の元高官で、現在は外交や国際ビジネスのスペシャリストを養成する大学院である米タフツ大学フレッチャー・スクールの学長であるジェイムズ・スタヴリディス元海軍大将が、最新情勢と新著『海の地政学――海軍提督が語る歴史と戦略』を基に、その展望を伝える。

朝鮮半島に「冬来たる」

人気ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ(『氷と炎の歌』)」になぞらえれば、朝鮮半島はあたかも「冬来たる」(=戦乱が迫っている)の様相だ。9月3日の北朝鮮による水爆実験を受け、朝鮮戦争以来、緊張は最高水準になっている。

戦争が勃発する可能性は、これまでのおよそ5%から10%へと上昇した。大して重要な変化に見えないかもしれないが、事態の進展ぶりが気掛かりなのは確かで、世界は、これまで同様に2つの問いに引き戻されている。すなわち、「金正恩(キム・ジョンウン)は何を望んでいるのか」と「われわれは何ができるのか」だ。

先日、私はサンフランシスコのラジオに次のように語った。1つ目の問いに対する答えは明快だと考えている。すなわち、金正恩は大量破壊兵器の保有を望んでいる。これまでの各国による関与と対話からも明らかなように、国際社会から敬意を払われる存在になるという目標を達成できる。そして、北朝鮮の人びとに支えられた、極めて愉快な暮らしを続けられるからだ。

2つ目の問いについて、私はMSNBCテレビで、われわれには次の3つのオプションがあると述べた。

(1)軍事的対応

(2)追加制裁による圧力強化

(3)現状の受け入れ

答えとしては、(2)と(3)の混合になるだろう。私がFOXラジオでも語ったように、すべてにおいてカギを握るのが「外交」だ。これまでのところ、米国務省の目立った関与が見られないのは不安である。同省からは、わずかに動静が伝わってくるものの、現時点では、プレスリリース1通のほかに、目に見える成果は出ていない。レックス・ティラーソン国務長官は、チャンスを逸する前に、ゲームに復帰する必要がある。

さらに中国は、北朝鮮への影響力行使にあたり、大きな役割を果たすことができるし、そうするのが望ましい。平壌へ通じるすべての道は、北京から伸びている。ブルームバーグラジオでも述べたように、北朝鮮でビジネスを行う中国企業をターゲットにした制裁が、次の必須ステップとなるだろう。

南シナ海・太平洋地域の将来

北朝鮮問題を踏まえて、太平洋地域と南シナ海の今後についての、私の長期的な展望を述べよう。

アメリカは、同盟国(韓国、フィリピン、日本)、友好国(ベトナム、台湾、マレーシア、シンガポール)と密接に協力しなくてはならない。日本への空母打撃群の常駐は、今後も継続し、グアムか日本を基地として、この地域に配備する潜水艦の数を増やす必要があると考えている。南シナ海での海軍の前方プレゼンスは、この地域の均衡を維持するために不可欠といえる。

南シナ海北部については、いずれ北朝鮮に対処するための海軍を基本とした計画が必要だろう。北朝鮮は言うまでもなく、世界で最も危険な国家だ。開発中の小型核兵器、弾道ミサイルは、やがて飛距離を伸ばす。彼らは核実験を行いながら、兵器を利用する意思をちらつかせている。

国民は深刻な栄養失調に苦しみ、人口に占める囚人の割合が多い。指導者の後継者は民主的手段では選ばれず、南の隣人である韓国とは領土紛争を抱える。北朝鮮は、経済的・政治的目的の達成を阻むアメリカや日本などを頻繁に脅している。北朝鮮の行動パターンや基本的事実を踏まえ、世界ののけ者になっているこの国に対処する計画が必要だ。

まず、国際社会はこれまで以上に大胆に制裁を加えたほうがいいと私は考える。核兵器開発が疑われるというだけであれだけの制裁を受けたイランを思えば、すでに核兵器を保有し、不要な核実験を行っている国に対する制裁が少ないのはなぜか。アメリカ議会は制裁を強化した改定案を通過させたばかりだ。

これによって、北朝鮮への資金の流れを遮断し、北朝鮮との取引を行う第三国の金融機関を罰することになる。日本も同様に、新たな、厳しい制裁を課そうとしている。この地域のほかの国、特に中国はこれに続いてほしい。

日本と韓国にTHAAD配備を

もうひとつ重要な要素は、特に韓国と日本に適切なミサイル防衛システムを配備することだ。具体的には、両国の兵器庫に終末段階高高度地域防衛システム「THAAD(サード)」を配備する。両国には何万人ものアメリカ軍兵士やその家族がいることを考えれば、ホスト国とわが国双方の利益になる。

アメリカ、韓国、日本は共に資金を拠出し、この高度な威力を持つシステムを配備しなくてはならない。このミサイルの射程は200キロメートルを超え、マッハ8の速度で飛ぶ北朝鮮のミサイルを迎撃できる。中国は、自国のシステムに向けられる可能性もあると考え、賛成しないだろう。しかし、ほかの国にとっては必要だということを認めなくてはならないはずだ。中国は今後、平壌に対して一層強い姿勢を示すと考えられ、そのこと自体は好ましい。

実際のところ、金正恩の制御に関しては、北京に依存するところが多い。就任後まもなく、ナンバー2と目され、対中外交の中心的役割を果たしていた叔父を殺害するなど、若い指導者の中国に対する姿勢は矛盾するものの、中国には経済的支援という切り札がある。中国はそれを活用するべきだ。必要であれば、北朝鮮との取引を行う中国の銀行や企業にも制裁が適用されるべきだ。

韓国と日本の防衛のためには、THAADに加え、高度な地対空誘導弾パトリオットやイージスシステムを搭載した海洋配備型防空システムを配備すべきだろう。両国には最新型ではないが、パトリオットミサイルがあり、日本はイージス艦を持つ。しかしこれらのシステムは最新であったほうが望ましい。この地域の一貫したミサイル防衛システムとこれらを結び付けるため、3カ国は合同演習や訓練を実施する必要がある。

サイバー空間では、アメリカと同盟国ができることはほかにもある。北朝鮮はインターネットへのリンクを注意深く遮蔽しているため、侵入は極めて困難だ。その一方で、Webの一部に安全保障に特化した機能を持たせ、アクセスが困難だが不可能ではないコンピュータベースのバックボーンに、軍を依存させている。

韓国や日本のサイバー専門家との密接な協力によって、アメリカ軍は積極的にサイバー空間を活用しなくてはならない。北朝鮮の兵器プログラムを破壊し、その重要なインフラに監視デバイスを挿入し、必要に応じて、あるいは北朝鮮が韓国を攻撃した際には北朝鮮の配電網を攻撃する手段を作り出す必要がある。北朝鮮はすでにアメリカ企業のソニー・ピクチャーズ エンタテインメントにハッキングを仕掛け、電子メールなどの情報を流出させ、多額の損害を与えている。

そのほかの軍事対応に関しては、アメリカは、航空防衛においても、海洋協力においても、韓国と日本と連携してできるかぎりのことをしなくてはならない。空と海での協力によって、すでに朝鮮半島に配備されたアメリカ地上軍に加え、北朝鮮に対して抑止効果を及ぼすことができる。北朝鮮や、北朝鮮が引き起こす危険に備えた大規模な合同軍事演習を毎年実施することには意味があるだろう。サイバー演習も同様に行われなくてはならない。

経済、軍事、外交における断固たる集団行動が必要

最後に、北朝鮮のもたらす危機にどれほどいらだちを感じるとしても、私たちは北朝鮮とのオープンな対話の手段を維持するために、できるかぎりの努力をする必要がある。実りある対話の可能性は低いとしても、対話にオープンな姿勢を崩すべきではない。

ただし、北朝鮮のいつもの手に落ちないように気をつけなくてはならない。悪行、交渉、食糧や燃料を得るための譲歩、制裁、それでも結局は行動を変えないという手口には、いつもながら気が重くなる。時間をかけた中国との協力が功を奏する可能性がある。中国の取り組みと経済的圧力がなければ、どのような交渉も実らないだろう。

金正恩を嘲笑したパロディ映画『ザ・インタビュー』のように、太った若い指導者を笑いものにするのは簡単だ。製作者のソニー・ピクチャーズはこの映画によってサイバー攻撃を受けた。しかし、彼がこの地域に危機をもたらす存在であるのは確かだ。世界経済の中心である東アジアが大きな危機に見舞われないためには、経済、軍事、外交における断固たる集団行動が必要だろう。

だからこそ、アメリカ海軍史上最大規模、最も強力な第7艦隊がこの海域に配備されている。イージス艦の対ミサイル技術、巡洋艦のプレゼンス(少なくとも2隻必要であり、1隻は日本に常駐、ほかは太平洋を巡航する)、強力な海兵隊(沖縄とグアム)、中国を抑止するための三元戦略で最も有効な戦力としての潜水艦発射弾道ミサイル、強力な特殊部隊とサイバー支援を含む最新の兵器システムが必要だろう。

第7艦隊は、この地域でわが国の最も強力な同盟国である日本に今後も旗艦を置くのが望ましい。太平洋には複数の基地が必要だろう。中心となる基地は日本の本土、沖縄、朝鮮半島にある。さらに、フィリピン(議会はスービック湾にあった軍事基地の復活を認める用意があるようだ)、北オーストラリア(おそらくダーウィン)、そしていずれはベトナムに簡便な離着陸予定地域を設けるための合意を得る必要がある。シンガポールの基地へのアクセスも不可欠であり、この国との防衛協力は極めて密接だ。

日本、韓国、中国、アメリカなどの主要国は、太平洋での戦争がどれほど悲惨なものになりうるかをよく理解している。発展した商業、豊かな文化、各国の人的資本の充実は、成長に対する可能性を示すものだ。南シナ海と朝鮮半島は緊張と課題をはらむが、願わくは21世紀の太平洋は、「太平」の名のとおりであってほしい。これは、互いの運命を結び付けている太平洋の周辺に位置する国が、どれだけ協力し合うかにかかるだろう。

メイン号の教訓

余談になるが、私は、以前からオフィスに爆発する前のメイン号を描いた絵を掲げている。1898年の冬のある日、アメリカ海軍の巡洋艦メインが、スペインの植民地だったキューバのハバナ湾で停泊中に突然爆発し、沈没した。新聞発行人のウィリアム・ランドルフ・ハーストはスペインの仕業だと糾弾し、「メイン号を忘れるな」という叫び声が国内に広がる。アメリカはキューバからのスペインの撤退を要求し、宣戦を布告した。この米西戦争を経て、キューバはアメリカ領土となった。

メイン号の絵は現在、私が学長を務めるフレッチャー・スクールの学長室にある。なぜ沈んだ軍艦の絵をかけているのか、とよく聞かれる。航空母艦エンタープライズや駆逐艦バリーなど、英雄とたたえられる軍艦の絵を、なぜかけないのか、と。


理由は2つある。ひとつは、船というものは乗っているときにいつ爆発してもおかしくない。メイン号の絵はそのことを思い出させてくれるからだ。

もうひとつ、私にとっては大事なことがある。メイン号が沈んでからおよそ50年後、海軍は艦体を引き揚げた。しかしどこを探しても、スペイン人によって艦が爆破された形跡は見つからなかった。爆発はおそらくはボイラーか、武器庫で起きたのだろう。スペインに対する宣戦布告は、間違った証拠に基づくものだったといえる。

私が沈没前のメイン号の絵をオフィスに掲げている理由の2つ目は、一時の激情に流されて結論に飛びつくな、という自分自身に対する戒めだ。立ち止まり、目の前にある事象を検討し、疑問を投げかけるように、とこの絵は警告してくれている。