止められない北朝鮮のミサイル発射…国防は永世中立国スイスの核武装論に学べ【長尾一紘】

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<文/中央大学名誉教授 長尾一紘>

◆北朝鮮の核実験は誰も止めてくれない

 北朝鮮が9月15日朝、また日本上空を通過する弾道ミサイルを発射しました。ミサイルは襟裳岬の東約2000キロに着水したとのことです。3日に強行した6回目の核実験に対して、国連安全保障理事会が制裁決議を採択しましたが、それへの反発のようです。

 核実験を強行した時に、日本はもちろん中国も抗議をし、米国もレッドラインを越えるとか越えないとか騒いでいましたが、金正恩は、まだまだレッドラインまでには余裕があると思っているのでしょう。

 日本人は戦後、米国や国連が平和を守ってくれると期待してきましたが、北朝鮮一国すら止められないというのが、現状のようです。

◆国防は永世中立国スイスに学べ

 拙著『世界一非常識な日本国憲法』でも書きましたが、「核」についての日本人の反応には異常なものがあります。その理由について、しばしば「唯一の被爆国だから」と説明されます。

 はたしてそうでしょうか。仮に日本以外の国が、たとえばスイスが被爆国であったとしましょう。スイス人は、「我々は二度と被爆国にはなりたくない。したがって、『核』を保有するのだ」と言うに違いありません。

 戦後、護憲派憲法学者の多くは、「非武装中立」を主張し、そうすれば他国に侵略されることはありえないと述べてきました。そして、「日本を東洋のスイスに」と主張してきました。

 しかし、永世中立国であるスイスの国民がこれを聞いたら驚いて目を回すに違いありません。国民皆兵のスイスは、強固な国防軍を保持し、全身ハリネズミのような完全武装が国是とされています。だから、第二次世界大戦で、ヒトラーはスイスへの侵攻を断念したのです。

◆スイスの核武装計画

 1945年8月6日と9日、アメリカ空軍は広島、長崎に「新型爆弾」を投下しました。1週間も経たない8月15日に、スイス軍当局に一通の報告書が高官の一人から提出されました。そのタイトルは「原爆の破壊性について」というものです。そこでは原爆の「効用」がもっぱら強調されていました。

 これを受けて、軍当局は核武装を決意しました。そしてそのための委員会を設置しました。その名称は「核エネルギー研究委員会」というものです。表向きの目的は原子力の平和利用でしたが、真の目的はスイス軍の核武装でした。そして、血のにじむような努力が続けられました。そしてついに、1986年に、「スイスは2年以内に核保有国になりうる」との報告書が政府に提出されました。

 結局、翌年には「核武装を断念する」との政府声明が出されることになったのですが、このスイスの核武装計画については興味深い問題点が少なくありません。そのうち特に重要と思われるのは次の3点です。

◎核武装の理由について、中立の維持のために必要だとされた。
◎スイス国民は、核武装を支持した(国民投票が行われた)。
◎スイスは「核拡散防止条約」を1977年に批准している。ところが、「核武装を行わない」との公式の声明が出されたのは1987年のことだ。スイスは、条約批准後も核開発の研究を行っていた。

◆スイス人と日本人の国防意識の違い

 スイス人にとっての「国防」と日本人にとっての「国防」は、まったく別のもののようです。この国防観の違いはどこにあるのか。要点を整理することにします。

 まず、スイスにおいて国防計画は、平時、危機、有事の三つの事態に分けて策定されていますが、その内容はきわめて現実的で綿密なものです。当然「有事」に力点がおかれ、実際に起こりうるさまざまな事態が念頭に置かれています。

 一例を示すことにします。敵の侵攻があったとき、自軍の兵員に損耗が生じることは避けられません。スイスの国防計画は、このような場合の補充要員のリスト作成まで考慮に入れたものです。