熾烈な競争が繰り広げられてきた外食チェーン業界。ファミレスが誕生した黎明期、居酒屋御三家が入れ替わったデフレ期(#1参照)に続き、牛丼、回転寿司、激安焼き鳥居酒屋など、近年の主戦場の実態に迫る(文中敬称略)。
出典:「文藝春秋」2017年9月号(全2回)

牛丼戦争の勝者―M&A期


禁無断転載/文藝春秋

 牛丼戦争。それは2000年代の外食チェーン業界における最重要事項だ。デフレ期を勝ち抜いた牛丼チェーンは、2000年代の外食シーンを牽引していく。

 長い戦いの幕開けは、2000年9月。定食やカレーなどの多様なメニューを誇り、どんなものにもみそ汁を付けるのがウリの牛丼界ナンバー2「松屋」が、300店舗達成記念として、牛めしを400円から290円に値下げしたことに端を発す。

 翌年にはダイエー系列でかつ丼や和定食を出しコアなファンを掴んでいた「神戸らんぷ亭」も牛どんを290円へ。続いて業界3位の「すき家」が牛丼を280円。そして創業100年以上を誇る業界トップ、「吉野家」は期間限定でなんと250円。さらに「なか卯」、「牛丼太郎」も追随し、2004年2月にBSE問題が起こり、牛丼が全国から消えるまで、仁義なき値下げ競争が行なわれた。

 この牛丼戦争から一歩抜きんでたのがすき家だ。すき家を運営するゼンショーは、かつて吉野家で働いていた小川賢太郎が1982年、横浜で1号店を開いた。東京大学で全共闘運動にも身を投じたことのある闘士で、目標は「世界から飢餓と貧困をなくすこと」。


ゼンショーの小川氏 ©文藝春秋

 CMで芸能人が一家を演じる「牛丼家族」そのままに、すき家は家族層へ向けたマーケティングやトッピングの豊富さ、ミニからメガまで選べる選択肢の広さ、そして牛丼再発売後にも圧倒的な低価格化を実現させ、店舗数を爆発的に増やしていく。2004年度の決算では、連結売上高でゼンショーが初めて吉野家を抜き、業界トップに立った。

 その背景にあるのが積極的なM&Aである。2000年にココス、2002年にビッグボーイ、2005年にはなか卯と、次々に他の外食チェーンを合併していく。

“牛丼ひとすじ”だった吉野家も2000年に持ち帰り寿司の「京樽」、2006年には讃岐うどんチェーン「はなまる」を吸収している。他業種でも居酒屋チェーンのコロワイドは、2012年に、焼肉の「牛角」や、近年のしゃぶしゃぶ食べ放題ブームの先駆けである「しゃぶしゃぶ温野菜」、「居酒家 土間土間」などを持つレックス・ホールディングス(現・レインズインターナショナル)を連結子会社化。2014年には、回転寿司の「かっぱ寿司」のカッパ・クリエイト、2016年には出来立てのものを提供することで人気の「フレッシュネスバーガー」も傘下にしている。

ゼンショーの小川社長が語った M&Aで重視するポイント

 なぜM&Aをするのか。食材の調達から製造・加工・物流までのすべてをシステム化した、マスマーチャンダイジングシステムが普及し、食材などを一度に大量に発注することにより、より一層の低コスト化を実現できるようになったからである。ゼンショーの小川社長が言う。

「食材を他のブランドで使えるというのは確かにそう。同じ牛でもある部位は牛丼にして、別の部位はステーキにして……と。

 ただM&Aで実現した話は、持ち掛けられたうちの3%程度ですよ。M&Aで重要なのは、業態の将来性や立地条件。一番大事なのは人だね。実際にお店を回ってみれば、会社の人材がどのレベルかというのがわかる。あまりにレベルが低いので断った案件も多い」

 2008年9月、すき家が店舗数でも首位の吉野家を上回ると、2011年にはゼンショーが連結売上高で日本マクドナルドを抜き、日本一の外食チェーンとなった。

「M&Aで大企業化するメリットの一つは、優秀な人材が集められること。そして最大の利点は、食の安全性を追求できること。うちはBSE問題の後に食品の安全性を精査する部署を作ったし、善祥園という牛の牧場も持った。企業の規模が大きくなれば、安全管理に金を惜しむことなく投入できるんです」(小川)

 この時期、急速に巨大になっていった弊害か、外食チェーンの労働問題が社会問題となる。有名な例では2008年にワタミの新入社員が、寝る間もなく働いた末に自ら命を絶った。賃金不払い問題なども重なり“ブラック企業”という名が生まれ、外食産業はその代表とされた。

 その流れはやがて牛丼界にも大きな影を落とす。値下げ競争の波も終息し、各社ともに並盛一杯270〜290円ほどで安定していた2014年。独走状態にあったすき家が、深夜の時間帯を従業員一人態勢にする、通称“ワンオペ”による過重労働で問題視された。すき家は国内1985店のうち1254店で深夜営業を休止。パワーアップ工事中と題して一部の店を一時閉店し、第三者委員会を入れて労働問題の原因究明と見直しに乗り出す。

「法令順守はグループ憲章にも書いていたし、残業時間の枠組みも変えようとした。だけど、すき家の幹部は寝ないで働き勝ち残ってきた人間ばかり。体質はなかなか変わらず、そうこうしているうちに問題が起きてしまった。そこで第三者委員会にはその世界で一番厳しいと言われている先生に『徹底的にやってください』とお願いした」(小川)

 ちなみに筆者はかつてすき家でバイトをしていたことがある。当時は深夜も2人態勢。話題になったすべての動きを秒単位で規定した厳しいマニュアルも見たことはなく、比較的のんびり自由に稼がせてもらった記憶がある。

 すき家の急成長が、極限まで安くて美味しい牛丼を突き詰めた効率化によるものならば、この問題もまた効率化がもたらした副産物であったのだろう。

 現在もゼンショーは外食チェーン売上高1位の座を守り続けている。

仁義なき回転寿司―未来へ

 そしていま、外食チェーン戦争の主戦場は回転寿司に移った。


回転寿司は大人気 ©iStock.com

 売上高トップの「スシロー」(あきんどスシロー)と、北大路欣也のCMでお馴染み、2位の「無添くら寿司」(くらコーポレーション)に加え、2015年には店舗数でトップに躍り出たゼンショーの「はま寿司」。そしてここに先述したコロワイドの傘下に入り、カッパのキャラをクビにしてまで高級路線へとリブランドしたかっぱ寿司を加えた“四天王”による争いだ。

 回転寿司はもはや税込み108円のお寿司だけの店ではない。魚介で出汁をとったラーメン、シャリを使ったカレーに若い女性も満足できるスイーツと、寿司屋の概念をかけ離れたなんでもありのバーリートゥードだ。この「何でもレーンに流してしまえ」というような気概溢れるメニューの選択肢の広さが、家庭では真似のできない外食ならではの「面白さ」だ。

 味やラインナップは、正直なところ各店ともに総じてレベルが高く、大きな差はない。価格も安く、家族4人で行っても3000円程度で済んでしまう。さらに「えんがわには何の魚を使っているの?」、「ネギトロってどうやって作るの?」と不安視されていたのもいまは昔。食の安全面への配慮も各店ともに努力しており、子どもを持つファミリー層をガッチリ取り込んだ。

 そう、いまの回転寿司は「美味しくて」「安くて」「面白くて」「安全・安心」できる。老若男女問わず全員のニーズに応えられる、外食チェーンの最先端なのである。

 現に独身時代はまったく回転寿司など縁のなかった筆者とて、子どもが生まれて以降は、ついついこの4店ばかりに足が向いてしまう。

 この業界の進化は、休むことを知らない。激安焼き鳥居酒屋がいまアツい。トップに君臨するのは、お通しなしのメニュー全品280円均一で大躍進を遂げた「鳥貴族」だ。関ジャニ∞の大倉忠義の父が経営するチェーンとしても知られる。昨年店舗数でワタミを逆転。「俺たちは鳥貴族だ」という誇りを胸に、安くともクオリティで勝負する。焼き鳥は「むね肉バターチキンカレー焼」、「もも肉バジルオイル焼」などの変わり種も含め、かなりのレベルだ。

 これに続けとワタミが冒頭の三代目 鳥メロ、コロワイドが「やきとりセンター」を展開。ロゴが酷似していると、一時鳥貴族から訴えを起こされていたダイナミクスの「鳥二郎」も含めたチキンレースが熱を帯びている。

 ではこの先、外食チェーンはどうなっていくのだろうか。ゼンショーの小川はこう語る。

「僕は吉野家を抜こうとも、日本一になろうとも言ったことは一度もない。それは世界一になっても同じ。僕らの目標はあくまでも『世界から飢餓と貧困をなくす』こと。それが業界全体のスタンダードになればいいけどな」

 すかいらーくを辞めた後、2014年に76歳で「高倉町珈琲」を起業した横川はこう見ている。

「美味しいとか楽しいとか、安全だとかはもう当たり前のこと。これからの外食チェーン業界の経営者には、新たな価値作りをすることが求められている。たとえば『あのお店のものを食べていたら、体調がよくなった』と言ってもらえるぐらい、よりよいものを提供できるとかね」

 時代と共に求められる価値観が変遷してきた外食チェーン業界。熾烈な競争は、また予想もつかない新たな価値観を、これからも生み出していくことだろう。

(村瀬 秀信)