デジタルマーケティングを機能させるには?(写真:Sergey Nivens / PIXTA)

日本企業は、どうすればデジタルマーケティングを機能させられるのか。『デジタルマーケティングの教科書』を上梓した牧田幸裕氏は、まずはその定義を理解し、全体像をつかむ必要があると説く。データドリブンによる消費者理解からECチャネルとリアル店舗のシームレスな統合まで、マーケティング活動全体をデザインできてこそ、デジタルマーケティングは機能し、競争力の源泉ともなる。

物流や品ぞろえだけでは、Amazonに対抗できない


2017年7月、セブン&アイ・ホールディングスとアスクルは、ネット通販事業で提携すると発表した。両社の通販サイトで互いの商品を取り扱い、品ぞろえを強化する。また、物流の強みを持ち寄り、新しいサービスを提供。日本の小売市場でシェアを高めるAmazonに対抗するという。

では、セブン&アイとアスクルは、Amazonに対抗し、競争力を向上できるだろうか。デジタルマーケティングの観点で考えると、難しいだろう。なぜならば、発表の内容を見るかぎり、品ぞろえや物流のサプライサイド(企業側)の視点だけが重視されていて、デマンドサイド(顧客側)の視点が抜け落ちているように見受けられるからだ。

Amazonの競争力は、もちろん品ぞろえや物流にもあるのだが、同時に、膨大なビッグデータを人工知能(AI)で解析した顧客理解と提案力に、その源泉がある。Amazon IDと紐づいた消費者行動に関して、検索という購買「前」データ、決済という購買「そのもの」データ、レビューという購買「後」データを持つ。そして、それらをAIにより分析することで、次の消費者行動を洞察し提案する。ここにデジタルマーケティングの価値、オムニチャネルの競争力の源泉があるのだ。

このケースに限らず、日本企業の多くは、サプライサイドのチャネル統合ばかりが頭にあり、デマンドサイドの消費者理解が抜け落ちている。こういう状態は、デジタルマーケティングでは、クロスチャネルの構築にすぎず、オムニチャネルの構築だとは考えない。

一方、デマンドサイドを重視しているのが、Jリーグだ。2017年8月にNTTグループやヤフー、楽天などとビッグデータ分析で提携した。サポーターがスタジアムで観戦する頻度や年齢などを分析するシステムを2019年までに構築する。スタジアムの来場履歴や関連グッズの購買履歴を蓄積し、プロモーションを行う。

こういったデマンドサイドの消費者理解もまたデジタルマーケティングの構成要素になる。もっとも、現在のJリーグID登録者は38万人にとどまる。このID登録を来場者940万人にどこまで広げられるかが、当初の成功のカギになる。

Jリーグにしても、スタジアムでの体験とオンラインでの物販、コミュニティ、ロイヤルティの形成など、リアルとオンラインの統合までは、まだ検討がしっかりとはなされていないようである。

全体像をつかむことで機能する

なぜ多くの日本企業で、サプライサイドばかり考え、デマンドサイドが抜け落ちたり、また、その逆の事態が起こるのだろうか。それは、デジタルマーケティングの全体像が見えていないからである。では、デジタルマーケティングの全体像とは何か? 以下のように定義することができる。

デジタルマーケティングとは、データドリブンでターゲット消費者へ製品やサービスを認知させ、消費者の購買前行動データに基づいて興味・関心・欲求を醸成し、購買データを取得する。購買データと購買後の消費者の評価データを基に製品開発、サービス開発への示唆を得る。これらのデータを、ECチャネルとリアル店舗から取得し、消費者に最適な購買体験を提供する、一連の活動をいう。これらの活動の目標は、消費者との関係性を深め、最終的に消費者のエージェント(代理人)になることである。

大切な要素は2つだ。まず1つは、データドリブンで消費者を理解すること(デマンドサイド)。もう1つは、リアルとオンラインのシームレスな統合を図り、つながりのある消費者に最適な購買体験を提供すること(サプライサイド)である。これら2つの要素を満たすのが、デジタルマーケティングを機能させるということである。

ところが、多くの日本企業は、どちらかの要素に偏っており、デジタルマーケティングを十分に機能させることができていない。逆に考えると、2つの要素を満たすだけで、他社にはない競争力の源泉にすることができるのだ。

では、なぜデジタルマーケティングの全体像が見えないのか。それは、デジタルマーケティングを推進する企業が、自社の活動領域だけでしか、デジタルマーケティングを見ていないからである。

2017年時点で、デジタルマーケティングを推進する企業には、Web広告企業やデータマイニング企業がある。Web広告企業におけるデジタルマーケティングの定義は、たとえば次のようなものである。

インターネット上のサイトやデジタル広告、メール、モバイルアプリなどのチャネルを通じて商品やブランドのプロモーション施策を実行。そして、お客様の反応をデータとして蓄積・活用することでマーケティング業務をさらに高度化させて、お客様との「つながり」(エンゲージメント)を強化する仕組み(出所:FUJITSU JOURNAL「デジタルマーケティングとは?マーケッターの基本をおさらい!」)

特徴は、マーケティングといいながら、プロモーションだと定義していること、そしてインターネット上の取り組みに限定していることである。言い換えれば、インターネットプロモーション、Webプロモーションと変わらない定義である。

リアル店舗とECチャネルをシームレスに統合するオムニチャネル化を進めることが課題となっている現在、インターネット上に限定する取り組みがデジタルマーケティングではない。プロモーションはマーケティングのごく一部の取り組みにすぎない。したがって、この定義では、現実のマーケティング活動のごく一部だけをデジタルマーケティングだと考えることになる。

実際、日本企業の中には、リアル向けプロモーションの莫大な予算を広告宣伝部が持ち、インターネット向けプロモーションの微々たる予算をEC事業部が持つ構造になっているところも多い。しかし、オムニチャネルでは、プロモーション予算もリアルとインターネットでシームレスに管理すべきであり、そうでないと投資対効果の最大化が図れない。

ターゲティングしか見ないデータマイニング企業

一方、データマイニング企業に見られるデジタルマーケティングの定義は、次のようなものである。

戦略的なデータマネジメントを徹底し、確実な答えを、リアルタイムに導き出し、感覚的なマーケティングでは太刀打ちできない正確性とスピードというアドバンテージを得ること(出所:FICCブログ「データを活用できないブランドに勝ち目はない」)

「データ」にこだわった定義で、2000年以降誕生した、顧客データを蓄積するデータストレージ企業やデータマイニング系のデータ分析企業によく見られる定義である。データにこだわること自体は間違っていないのだが、データをインプットすれば、あたかも方程式を解くがごとく解決策が出てくると考えているところに問題がある。

マーケティング戦略を策定する際に、セグメンテーション、ターゲティングを行うが、どのセグメントをターゲットにすべきか考えるのはマーケティング担当者であり、データではない。AIでもない。人間が仮説を持ち、データがその仮説が合っているかを検証する。あくまでも人間が「主」であり、データとAIが「従」である。

ところが、データマイニング企業は、データとAIが「主」であり、「データをインプットすると、ターゲットが決まります」と方程式で解けるようなセールストークをする。

まあセールストークは致し方ないとして、そんなことはできない。出てくる答えは、「いろいろなことに興味関心を持つ、アクティブな20代女性」などといった、そうかもしれないがだから何?というような答えとなる。

仮にいい答えが出てきたり、マーケティング担当者の仮説が合っていたとしても、その後、ターゲット消費者にコミュニケーションを取ることができないことも多い。それは、消費者IDを取得していないからだ。

POSデータは、消費者の行動を表してくれるが、「誰が」というところまではわからない。せっかくのターゲット消費者絞り込みを生かすためには、その後のコミュニケーションまでデザインする必要がある。

全体像をイメージして、デザインする

マーケティング担当者がデジタルマーケティングを実行し、機能させるためには、マーケティング担当者自身が、デジタルマーケティングの全体像をイメージして、マーケティング活動をデザインしなければならない。なぜならば、Web広告企業も、データマイニング企業も、自社のサービスの範疇でしか、デジタルマーケティングを考えることができないからだ。

マーケティング戦略策定の全体像を示したフィリップ・コトラーの『マーケティング・マネジメント』は、世界各国のMBA履修者の高い支持を受けている。そこで、『マーケティング・マネジメント』のマーケティング戦略策定プロセスを土台として、デジタルマーケティングが、従来型マーケティングの何を変え、何をどう進化させるのかを学ぶと、デジタルマーケティングの全体像がわかりやすい。

「環境分析」「消費者理解」「セグメンテーション」「チャネル」「プロモーション」の5つの領域において、従来型のフレームワークを新たなフレームワークに置き換えて考えることで、「究極のOne to Oneマーケティング」を実現させる道筋が見えてくる。

2020年の企業の競争力は、デジタルマーケティングの巧拙により決定されるようになる。日本企業のビジネスパーソンの皆さんにも、デジタルマーケティングの定義を理解し、全体像をつかむことで、デジタルマーケティングを機能させ、競争力の向上に役立ててもらえることを期待している。