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恋愛、結婚、離婚、再婚、婚活、浮気、不倫……。世は変われども、男と女のいさかいが尽きることはありません。行政書士で男女問題研究家の露木幸彦氏のもとには、日々、そんな泥沼状態から抜け出さんと多くの相談者がやってきます。その痛切なトラブルエピソードを、ぜひ他山の石としてもらえればと思います。

第2回のテーマは、「ある年収1000万円世帯」を襲った母娘不和による悲劇。お金では処理しきれない話です。前編と後編にわけてお届けします。

■世帯年収約1000万円 お金では解決できない家庭内の不協和音

かつてこんな経験をしたことはないでしょうか。夏休みが終わり、久しぶりに学校の教室に入ると1人のクラスメートの姿が見当たらない。でも、その座席が空いたまま、淡々と2学期が始まっていく。そのうち誰も話題にしなくなってしまう……。

2015年の高校の不登校率は1.4%(文部科学省調べ)。300人に4人は学校に通っていないという計算になります。不登校の理由はさまざまです。学校での問題だけでなく、家庭環境が問題となるケースもあります。親子関係の軋轢により、「家出」をして、不登校に至ることも珍しくはないようです。

実は1年の間で最も家出(発見件数)が多いのは9月(2014年、警視庁調べ)。2学期の始まりである9月は、親にとって鬼門の月なのです。

今回の相談者、梶浦達也さん(52歳、仮名)も家出した娘を心配する父親です。達也さんが私のところへ相談に来たのは、娘が行方をくらませてから3日後のことでした。達也さんは家出の原因となった母親(妻)との関係を解消する覚悟をしていました。

いったい、どういうことでしょうか。

<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)>
夫:梶浦達也(52歳)→会社員(年収900万円)☆今回の相談者
妻:梶浦智子(51歳)→パートタイマー(年収80万円)
長女:梶浦茜(18歳)→高校生
長男:梶浦暁(14歳)→中学生

▼母親に家事を押し付けられた長女が家出した

長女の茜さん(以下、娘)は次のように言い捨てると、顔を真っ赤にして部屋を飛び出し、駆け足で家の外へ出ていってしまったそうです。

「ママは昼も夜も家にいない! 家事を私に押し付けてきて、もう我慢の限界! そんなママとはもう一緒にいたくない!」

達也さんと妻はあわてて追いかけましたが、見失ってしまいました。翌朝、学校へ問い合わせましたが、やはり登校していません。

「どうしていいかわからない! もうお手上げだわ!!」

妻が吐き捨てた言葉によって達也さんの不安はますます膨らんでいきました。もしや家出? 達也さんは、『激録・警察密着24時』といったテレビ番組のイメージが浮かんだといいます。夜の街の路上でマイクを向けられるのは顔面全体に濃いモザイクをかけられた少女。年齢不詳の厚化粧によれよれの制服。援助交際や売春など“悪の道”に転落にしたり、誘拐されて殺されてしまったり……。そんなことを考えて不安になったそうです。

■昼間はパート、夜はママ友と飲み歩くのが“日課”

「大切に育てた娘が失踪するなんて……。あまりのショックで胃の痙攣を起こして苦しかったですし、円形脱毛症のような症状まで出るし、もうダメかとあきらめかけていました。もう死んでいるじゃないかと」(達也さん)

わらにもすがる思いで警察へ相談すると、幸いなことに警察はすぐ娘の居場所を突き止めてくれました。ところが、警察は娘の所在を教えてくれません。

「とりあえず安全なところにいるので」と冷たくあしらわれてしまったのです。どうやら娘が警察署員に対して「どこにいるのかをパパやママに教えないでほしい」と頼んだようなのです。なぜ、娘はそんなことを言ったのか。

家出をする半年前まで、娘は順風満帆な学校生活を送っていました。クラスではリーダー的存在で、学級委員も務めていました。正義感が強く、心優しい。夢は歌手になることで、部活には入らず、毎日のようにダンススクールに通いレッスンを重ねていたのです。

▼パート収入のほとんどは、夜の交際費に消えた

一方、家庭の状況はどうだったでしょうか?

娘と息子(弟)はもともと仲が良いのですが、性格は好対照。娘は長女らしくしっかり者。一方の息子は甘えん坊で、宿題をやらなかったり、部屋を片付けなかったり、嫌いな食べ物を残したりと問題点が少なくありませんでした。

本来であれば母親である妻がその面倒をみる立場ですが、昼間はパート、夜は地元のママ友や学生時代の友人とお酒を飲みに行くのが“日課”。パート収入のほとんどは、そうした夜の交際費に消えていました。

自分が悪者になりたくないからでしょうか。母親は息子の怠け癖を正そうとはせず、見て見ぬふり。そんな状況を見かねた娘が「なんで宿題をやらないの!」「部屋はきれいにしないと!」と弟をしかるようになり、いつの間にか母親代わりの存在になっていました。

ただ、息子は「姉からの説教」を快く思っておらず、娘も「弟にやさしくできないこと」を後ろめたく感じていたようです。第三者の私から見れば、「嫌われ役」を母親である妻が娘に押し付けること自体がおかしいのですが、妻は娘に「いつも任せっきりでごめんなさい」などとフォローすることは一切ないといいます。

■不登校になった娘に馬乗りする育児放棄の母親

そうした妻の態度は、夫の達也さんからみても許しがたいものでした。「育児放棄」にとどまらず、家族の夕食作りもたびたびサボタージュ。達也さんが出張中で不在のときでも、妻は娘へ「遅くなるからよろしく!」とLINEを送り付け、帰宅は深夜か朝帰り。もちろん食器洗いや洗濯、息子の世話も娘に押し付けていました。

娘はまだ18歳の高校生。いくらしっかり者でも、遊びたい盛りです。それにもかかわらず育児や家事を放棄する妻のせいで「妻代わり」「母代わり」をさせられ、自由時間を奪われた。母親に対して不信感や嫌悪感を募らせていったのも無理はありません。

一方、父娘関係はといえば、一緒に買い物に出かけたり、遊園地で遊んだり、韓流アイドルのライブを楽しんだりと母娘関係とは対照的に良好だったそうです。

▼母との関係悪化で娘は不登校になった

ただ、母娘関係の悪化とともに娘の様子は日に日におかしくなっていきました。メイクをして登校したり、学校を無断で休んだり、早退したり。生活態度が悪くなっていったのです。自宅に戻っても自室の隅で体育座りをしたり、トイレに閉じこもったり、「私なんていないほうがいい」と口にしたり。不登校の日も次第に増えていきました。

そんな荒れた日々の出来事でした。達也さんが仕事から帰宅すると、リビングルームで妻が娘に馬乗りになっていました。

「どういうことなの!」。妻は大声で怒鳴り散らすと娘の頰を力いっぱい引っぱたきました。血相を変え、髪を振り乱している妻を娘から引き離し事情を聞くと、どうやら娘がその日も学校を途中で抜け出したようなのです。

「友達のライブに行っていた」

娘の弁明はいかにも苦しいものでした。しかも、翌日は学校の定期テスト。以前はしっかり試験対策していた娘が、最近は何の勉強もしていなかったことで妻はずっとイライラしていました。そしてこの日、ついに堪忍袋の緒が切れたのでしょう。妻の怒りは収まるどころか、その矛先は夫(達也さん)へ向かってきました。

■明け方近くまで娘をヒステリックに詰問し続けた

「前にあんたが(娘を)韓流アイドルのライブに連れていったせいでおかしくなったんだ!」

確かにテスト前日の“自主早退”はよくありません。達也さんもそう思いましたが、娘の肩をもつためにこう反論しました。

「学校に行かずにライブに行くのは論外だけれど、無理やり趣味を取り上げるようなことをしたら、ますます(母娘の)折り合いが悪くなってしまうよ」

しかし妻はまったく耳を貸しません。ヒステリックにわめきながら、明け方近くまで娘を詰問しつづけました。その間、娘はほとんど黙っていたそうです。程なく娘のメンタルは、心療内科で診察を受けざるを得ない状況にまで悪化してしまいました。

「本人を1人にしておくと危険です。できるだけ一緒に過ごす時間を増やしてください」

医師にそう言われたことから、達也さんは娘が自室に引きこもることがないように、なるべくリビングで朝・夕の食事を一緒にとるようにしました。しかし、さらなる “事件”が勃発し、母娘関係は修復不可能なレベルにまで悪化することになるのです。

▼「高校を卒業すると誓約書を書け! 今ここで!」

あるとき、達也さんは娘の学校から呼び出され、「これ以上、休んだら卒業させることができない。落第になってしまう」と伝えられました。高校3年の娘は、まだ卒業後の進路が決まっていませんでした。アルバイトをしているスーパーで高校卒業後も働き続けるか、それとも歌手を目指して専門学校に進学するか。娘は達也さんと相談した結果、「専門学校への進学」という進路を目指すことを決めました。

すると進路が決まったからでしょうか。それまで不登校を繰り返していたのに、それ以降は休まずに登校するようになりました。達也さんはよろこびましたが、ひとつ気がかりなことがありました。進路について、まだ妻に報告できていなかったのです。

「僕が間に入って代弁するのではなく、娘が直接(妻へ)報告したほうがいいだろう」

達也さんはそう考えて、顔も合わせなくなっていた母娘を同じテーブルにつかせて、相対させました。その瞬間、妻はこんな “暴言”を吐いたそうです。

「ちゃんと高校を卒業すると誓約書を書け! 今ここで!」

その言い方は、あの「馬乗りの夜」と同じでした。せっかく進路を決め、母親に報告しようと前向きになった娘。その心を砕くのに十分な負のパワーに満ちたものでした。

■母親の心ない暴言で娘は家出を敢行した

妻も娘が不登校状況になったことで悩んでいました。進路に関しても気をもんでいました。そんな不安が一気に噴き出てしまったのかもしれません。

しかし、「誓約書を書け!」は言いすぎです。なぜ母親に「誓約書」を書く必要があるのでしょうか。本来であれば、「ちゃんと卒業する」という言葉で十分なはずです。「母親から信用されていない」という事実は、娘を深く傷付けることになりました。

この”暴言”を受けて、娘は家を飛び出してしまったのです。そもそも家事を放棄し、その仕事を自分に押し付けてきた母親に対し、娘は複雑な感情を抱いていたはずです。そんな母親から心ない”暴言”をぶつけられ、感情の抑えがきかなくなったのでしょう。

このあと家族4人はどうなったのか。後編に続きます。

(行政書士、ファイナンシャルプランナー、男女問題研究家 露木 幸彦)