ヒアリの毒も使いよう(環境省の発表資料より)

ヒアリが日本各地で次々と発見され、国を挙げて駆除に躍起になっているが、思わぬところで恐ろしい猛毒が役に立ちそうだ。

なかなか治すことが難しい皮膚病「乾癬」の治療について、米エモリー大学の研究チームがヒアリの毒の成分に効き目があることを発見、科学誌「Scientific Reports」(電子版)の2017年9月11日号に発表した。

ヒアリの毒は、皮膚のうるおい成分と同じだった

乾癬といえば、2017年5月にモデルの道端アンジェリカさんが「患者」であることを告白して話題になった。さっそく、日本乾癬患者連合会が5月16日付ウエブサイトで、会長の柴崎弘之氏のアンジェリカさんに対するエールを載せた(要約抜粋)。

「乾癬は見た目からも(人々から)避けられ、うつるのではないかと誤解されてしまう病気です。アンジェリカさんが非常に悩み、苦しんだ想いが伝わりました。トップモデルの彼女が公表していただいたことで、全国の患者で勇気をもらった方がたくさんいるでしょう。私も勇気をもらった一人です」

乾癬はそれほど辛く、治りにくい病気だ。日本皮膚科学会によると、乾癬はいくつかの種類に分かれるが、皮膚が白く粉をふき、盛り上がった紅斑が全身に出る「尋常性乾癬」が最も多く、乾癬患者の約90%がこの症状だ。原因はわかっていない。治療法には、ステロイド剤の塗り薬や内服薬、紫外線放射などがあるが、対処療法が中心。「治療により発疹が消失する経験をする患者さんは30〜70%います」とする一方、「再発しやすいので、不規則な生活などを改めることが大切」とも書いている。

さて、「Scientific Reports」誌の論文要旨によると、現在、軽度から中度の乾癬治療にはステロイド剤が最も多く使われているが、皮膚が薄くなり、あざができやすいなどの副作用が問題になっている。研究チームの同大学医学部皮膚科教授、ジャック・アービサー博士らは、ヒアリの猛毒の成分ソレノプシンに注目した。ヒアリはソレノプシンを針で相手の体内に注入し、火のような猛烈な痛みを与え、場合によっては死に至らしめる。

アービサー博士らは、ソレノプシンの化学的な構造を調べると、「セラミド」に非常によく似ていることに気づいた。よく基礎化粧品のコマーシャルで「○○は、セラミドやヒアルロン酸、コラーゲンを配合しており、お肌にうるおいをもたらします」などといった言葉を耳にする人が多いだろう。セラミドは簡単に言えば、肌のうるおい成分。皮膚の細胞と細胞の間で、スポンジのように水分や油分を抱えこんでいる分子構造(細胞間脂質)だ。皮膚のバリア機能を維持し、肌や髪のうるおいに欠かせない働きをするため、多くのスキンケア製品に使われている。そこで博士らは、ソレノプシンにも皮膚を守るバリア機能があるかどうか調べた。

世界人口4%の乾癬患者を救うことができるか

博士らは、ソレノプシンの化合物を作り、それをスキンクリームに1%配合した塗布薬を乾癬にかかったマウスに28日間塗った。そして、ニセ薬を塗ったマウスと比較すると、乾癬で分厚くなった皮膚の厚みが30%減った。また、乾癬によって増える免疫細胞の量が50%減った。さらに、皮膚の細胞の炎症も減少した。これらの効果はステロイド剤を大きく上回る改善だという。

アービサー博士は論文の中でこう語っている。

「世界人口の4%が乾癬で苦しんでいます。これまでの乾癬治療薬に使われていた皮膚軟化剤は、乾癬で硬くなった皮膚をほぐすことはできますが、皮膚のバリア機能を回復するには不十分でした。私たちが開発したソレノプシンの化合物は、乾癬が蔓延している皮膚のバリア機能を完全に回復させる可能性があります」