「メルカリ」のアプリ起動画面

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 最近、インターネットなどを通した個人間の取引である「C to C(Consumer to Consumer)」取引が、すさまじい勢いで拡大している。それに目をつけ、個人同士で取引するインターネット空間=マーケット・プレイスを提供し、急成長を遂げる企業が出てきた。国内ではメルカリがフリマアプリを提供し、断トツの成長を遂げている。

 個人の価値を評価し合い、それを取引することや、ネット上で物品を査定し現金との交換を行うビジネスも登場している。これからも個人同士が取引を行う、C to Cビジネスのプラットフォーム構築は世界的な拡大を続けるだろう。

 そうした新しい潮流は重要なのだが、今後、さまざまな問題が出てくることが想定される。なかには、法令遵守への姿勢が問われるケースも出てくるかもしれない。ネットビジネスが急拡大するなか、企業を含め社会全体でしっかりしたルールづくりが必要だ。

●すさまじい勢いで拡大するC to Cビジネス

 これまでネット業界では、電子商取引プラットフォーム上で企業が個人に対して物品やサービスの提供を行うことがビジネスの中心だった。それが今、このB to C(Business to Consumer)に代わり、C to C取引のサービスがすさまじい勢いで拡大している。

 その流れを掴んで成長している代表格がメルカリだ。同社はネット上でフリーマーケットを開催するアプリを提供している。このアプリを使うと、誰でもネット上のフリーマーケットに出品することができる。

「なんでもメルカリに出品できる」――。

 こういわれるほど、同社のサービスは支持されている。個人間で取引が成立すると、メルカリは購入者から手数料を徴収する。これが同社の収益源だ。すでに日米合わせて7500万ものアプリダウンロード件数を達成するなど、急速な勢いでメルカリは成長している。

 多くのユーザーにとってメルカリは、いらなくなったものを現金に換える打ち出の小槌のようなものかもしれない。ある大学生は、「捨てるならメルカリに出品する」と話していた。しかも、代金支払いのやりとりはメルカリが仲介するため、代金のやり取りに関する不安や煩わしさを感じることもない。こうした手軽さと安心感が多くのユーザーを引き付けている。公園のフリマに出品するような労力もかからない。

 海外でもC to C市場は急拡大している。米国ではLetgoやOfferUpなどのベンチャー企業がC to C向けのマーケット・プレイスを展開している。こうした動きを受けて、Facebookがフリーマーケット機能の「Marketplace」を開始するなど、C to C市場の競争は世界的に熾烈を極めている。

●C to Cビジネスに潜むさまざまな問題
 
 そうしたビジネスの拡大の一方、今後C to Cビジネスにはさまざまな問題が浮き彫りになるだろう。メルカリのサイトを見ると、小中高生向けの作文や読書感想文、自由研究の作品などが出品されている。本来、こうした学習課題は、児童・学生自らが取り組まなければならないものだ。他人が作成したものを、自らの成果物として提出して良いわけはない。

 あるいは、メルカリやヤフオクでは象牙を使った製品が取引されている。これらの取引は、ワシントン条約によって原則禁止されている。国内で象牙製品を取引するためには登録または届出が必要なはずだ。すでに中国政府は、本年末までに象牙の商用取引を全面禁止すると発表した。世界自然保護基金(WWF)はマーケット・プレイスの運営業者に対して象牙製品の取り扱い停止などを求めている。社会的な価値観に照らした場合に取引に問題がないか、批判を浴びないか、ユーザーと企業双方で冷静な検証が必要と考えられる。

 取引の法令遵守への懸念もある。個人の価値を評価し、それを取引するトレーディング・プラットフォームを運営するVALU社では、特定の個人が自らの価値を吊り上げた上で高値での売り逃げを狙った疑いのある案件が発生し、物議を醸したことがあった。

 その他にも、バンク社が運営するCASHが貸金業法に抵触するのではないかとの批判も出た。新しいネットビジネスが基本的な定義をおさえ、法令を遵守した上で運営されているかは入念に確認されるべきだ。それが社会的な信用につながる。

●必要な企業のコンプライアンス意識と法整備
 
 情報とコミュニケーション技術(ICT)の向上に伴い、これからも新しいアイディアをもとに起業を試みる人は増えるだろう。それがベンチャービジネスの創出と育成につながり、企業間の競争を促進する。そうした動きが経済全体で進むようになると、わが国の経済も活性化する可能性は十分にある。

 そのためには、新しい企業のチャレンジと、コンプライアンス=法令遵守の両立が必要だ。ベンチャー企業経営者の発言などを見ていると、ごく一部ではあるものの、企業ではなくユーザーに問題があるという認識があるように見える。

 新しい試みであるだけに、どのような展開になるかはやってみなければわからない。しかし、それが始まった段階で企業は社会的な責任を負うことを忘れてはならない。規模の大小、歴史の長短にかかわらず、企業は社会的な公器である。各企業には個人ユーザーの法令を無視した行動を防ぎ、公正なC to C市場の育成を支える責務がある。

 それぞれの企業がビジネスに対する倫理観・価値観を提示し、それにそぐわないユーザーには利用を認めない姿勢は不可欠だ。それでも、個人の行動を100%コントロールすることはできない。性善説に則った発想では限界がある。

 政府はこの状況に危機感を持つべきだ。世界経済フォーラムが公表するICTの国際競争力ランキングでは、法規制面の整備に関するわが国の評価が低い。企業のコンプライアンス意識の向上だけでなく、それを支える社会インフラとしての法制度の整備は喫緊の課題だ。それができないと、ベンチャー企業の育成は難しいかもしれない。

 そうした取り組みこそが、規制の緩和や環境変化に対応した法規制の策定につながり、成長戦略の重要な基礎づくりにつながる。新しい技術が普及し、これまでにはない経済活動が広がるなか、対策を企業だけに任せることはできない。社会全体で取り組むことが必要だ。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)