熊谷が欧州へ渡ったのは2011年。「世界大会に一度も出ていない状態でトライアウトに行きました」。写真:佐藤明(サッカーダイジェスト写真部)

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岩政大樹 女子サッカーの世界は、海外の代表チームが進化してきたと感じています。日本がワールドカップで優勝した頃は、他のチームがそこまで緻密ではなく、日本が組織的に戦えばリードできました。しかし、他国も組織力をつけてきて、本来持っていた身体能力の差が現れる状況になっている。なでしこが変わらなければいけない時代になっていませんか?
 
熊谷紗希 組織だけで勝てないのは確かです。なでしこジャパンの生命線である技術面も、各国がすごくレベルアップしています。例えば、フランスは今の代表の主軸がクレールフォンテーヌの一期生で、組織力も高いし、技術もある。U-20ワールドカップでも、日本は準決勝でフランスに負けているんです。巧いし、速いし、強い。日本はどうやって戦うのかと思うことはありますよ。
 でも、日本の本当に細かい技術的なこだわりは、絶対になくしてはいけない。そのベースにプラスして、個の力にフォーカスを当てないと勝てないと感じています。
 
岩政 ヨーロッパと日本の違いも分かっている熊谷選手の、なでしこにおける役割は大きくなっていますね。若手へのアプローチは?
 
熊谷 思ったことは伝えていますし、それぞれの良さを出せるように意識しています。若い選手は周りを気にするんですが、委縮してプレーして上手く行くわけがない。そこは自分が年長者になった今、本当に自由にやってほしいと思っています。
 海外に行ってみたいと言っている選手も何人かいるので協力したいとも考えています。ドイツはふたつくらい、フランスだとみっつくらいはコンタクトがあるから、練習参加を勧めています。普段から海外の選手と対戦していると慣れるじゃないですか。スピードやパワーで劣るなかでどう生きるのかを日常的に考えられますし。
 
岩政 なでしこジャパンにも好影響を与えるでしょうね。海外組は、なかなか増えないんですか?
 
熊谷 受け入れ先は結構あると思うので、あとは選手個々の思い切りです。もしかすると、なでしこジャパンに入りたての選手たちは、「日本でまだ何もしてないのに」という気持ちがあるのかもしれません。でも、私個人の意見としては、「そのうち通用するようになるから、まず行っちゃえばいい」ですね。私なんて世界大会に一度も出ていない状態でトライアウトに行きましたから。
岩政 思い切りが良い方なんですね。
 
熊谷 ですね。移籍した当時は20歳だったし、失うものもなかった。大学を卒業してから行こうかなとも思っていたんですけど。
 
岩政 ご自身の経験からも、早めにヨーロッパに出たほうがいいと?
 
熊谷 ヨーロッパでは日本人の評価が結構高いんです。細かい巧さを持っているし、周りの状況も見て動けるのは日本人だからできること。受け入れてくれるクラブはたくさんあると思います。必要なのは、タイミングと勇気です。
 
岩政 前目の選手は特長を出しやすいですが、守備の選手は違いますよね? それでも、6年間もヨーロッパでプレーできているのは、日本時代とは対応の方法を変えたからですか?
 
熊谷 身体能力では勝てないから、いかに裏のスペースで勝負しないかを考えました。私は読みで生きているところがあるので、ボランチで使われたら攻守の切り替えのところで1本目のパスをカットしたり、奪った瞬間に誰につなぐかを考えたりします。
 
岩政 読みという言葉は難しいですよね。さわりしか知らない人には、ストレートかカーブかヤマを張っているような感じに思われてしまいます。でも、ちょっと違うじゃないですか。読みといっても、自分でやられちゃいけないところを睨みながら、ギリギリで判断しますよね。