「そこじゃない!」が視聴者の本音です(撮影:尾形文繁、田邉佳介、吉野純治)

ネットコンテンツの充実と録画機器の普及で、テレビ番組の視聴率は下がる一方。しかし、民放各局は「CMで広告収入を得る」というビジネスモデルを変えることなく、視聴率を上げるための工夫を続けています。

ただ視聴者にしてみれば、それらの工夫は「そこじゃないでしょ!」と言いたくなるものばかり。テレビ局サイドの事情が優先され、工夫というより「苦肉の策」という印象のものが多いのです。

「CMまたぎのあおり演出」にがっかり

苦肉の策の最たるものは、CMにかかわる演出。みなさんも一度は「CMまたぎ」、あるいは「あおり演出」という言葉を聞いたことがあるでしょう。CMに入る直前、「このあと、まさかの展開が」「衝撃の結末へ」「答えは〇秒後に!」などのナレーションやテロップで期待感をあおろうとする演出です。

しかし、ネット媒体の“釣りタイトル(見出し)”がそうであるように、「期待したほどのものではなくがっかりさせられた」「あおりが嫌で見るのをやめたくなる」という人がほとんど。また、CM直前に流した映像をCM明けに再び見せる、水増しのような演出をする番組が増えたことから視聴者の不満は募っていきました。「このままではスポンサーへの嫌悪感につながりかねない」だけに、「CMまたぎのあおり演出はオープニングだけにとどめる」など、頻度を減らす番組が見られるようになっています。

さらに、ここ数年で増えているのは、ドラマのタイアップCM。ドラマ本編からCMに入るとき、チャンネルを変えられないように、1本目のCMをスピンオフのようなショートドラマにしているのです。

当然、演じる俳優も役柄もドラマと同じだけに、視聴者はすぐに気づきません。終了直前になって初めて、「あれっ? これはCMだったのか」とわかるのです。タイアップCMは自動車や化粧品メーカーなどの大企業が多く、もともと「好きな俳優が出演しているからドラマを見ている」という好意的な視聴者が多いため、おおむね好評。ただ、今後は「毎週映像を変えて連続性のあるものにする」などの工夫がないかぎり、飽きられてしまうでしょう。

マツコが「逃げ恥」の大ヒットに貢献

もう1つ挙げておきたいのは、番組と番組の間にCMを挟まない「ステーションブレイクレス」と呼ばれる編成。これは前番組の視聴者を後番組に誘導する策であり、「前番組の人気が高い」「後番組の視聴率を上げたい」「前番組と後番組の視聴ターゲットが近い」ときなどに行われるものです。

わかりやすいもので言えば、TBSの火曜22時。前番組「マツコの知らない世界」が21時59分59秒まで放送され、22時から「火曜ドラマ」がスタートします。「火曜ドラマ」は2014年4月のスタート以降、低視聴率が続いていましたが、昨年4月からステーションブレイクレスに切り換えて地道に視聴者層を広げ、秋の「逃げるは恥だが役に立つ」の大ヒットにつなげました。もちろん「逃げ恥」が作品としてすばらしかったのは間違いありませんが、こんな隠れた策もあったのです。

さらに、「マツコの知らない世界」の高視聴率をそのまま引き継ぐことで、「王様のブランチ」内の名物コーナー・TBS瞬間最高視聴率ランキングに、「火曜ドラマ」の冒頭シーンがランクイン。強引な形ではあるものの、「このドラマって人気あるんだ」というイメージアップにつなげています。

同様に、フジテレビ平日昼の「バイキング」と「直撃LIVEグッディ!」の間にもCMはありません。時事のニュースを扱った同系番組であり違和感は少ないのですが、前番組MCの坂上忍さんと後番組MCの安藤優子さんがスタジオを挟んでクロストークすることで、視聴者の継続視聴を促しています。

ちなみに、視聴率トップの日本テレビはプライムタイム(19〜23時)にバラエティ番組をズラリと並べていますが、19時台と20時台の間にCMを挟まない日がほとんど。「バラエティ番組好きの視聴者を他のチャンネルに取られない」ための編成をしているのです。

視聴者を混乱させるフライングスタート

番組編成に関する策は、まだまだあります。9月に入って民放各局の10月番組改編が出そろいましたが、なかでも注目を集めたのはTBSの決断。「20時、22時の番組を全曜日で正時(0分)スタートにする」という策です。

「正時スタート」でピンときた人はテレビ通。プライムタイムの番組は、「19時56分」「21時54分」などのスタート時間が多く、テレビ業界ではこれを「フライングスタート」と呼んでいます。「他局がCMのとき、いち早く番組を始めて視聴者をつかもう」という策なのですが、視聴者にしてみれば「中途半端でわかりづらい」というだけ。特にライトな視聴者には、「せっかくテレビをつけたのに、もう始まっていてガッカリした」という人が少なくないのです。

そもそもフライングスタートという策は、「テレビをつけているのが前提」「ザッピング好きな視聴者に向けたもの」であり、ネットが普及し、エンタメやレジャーが多様化した現代にはマッチしていません。TBSの決断は、今秋以降に支持を集めるのではないでしょうか。

「バラエティ偏重」が若者のテレビ離れに

さらに近年、民放各局がチャンネルを変えられないために行っているのが、プライムタイムのバラエティ特化と長時間特番化。これ以上の視聴率低下を避けるために、「似た形のバラエティを3〜4番組続けて放送する」か、「レギュラー番組を2〜3時間の特番にして週替わりで放送する」か。どちらかの方法を取っているのです。

前者は、日本テレビが日曜夜に放送する「鉄腕DASH!!」「世界の果てまでイッテQ!」「行列のできる法律相談所」「おしゃれカンケイ」の成功が大きいでしょう。日本テレビは他の曜日もバラエティで固めて視聴率トップを堅持しているため、他局もその傾向を強めています。

すると、テレビ欄のプライムタイムはバラエティばかりで、ドラマ、スポーツ、音楽、アニメなどの番組が深夜に追いやられるばかり。実際、私が取材した若者たちは、学校、塾、バイトなどから帰ってきたあと、「テレビは似た番組ばかりでつまらないから、ネットを見ている」と言っていました。「若者のテレビ離れは、民放各局が自ら促している」という一面もあるのです。

一方、長時間特番の狙いは、「番組のファンを2〜3時間独占したい」から。「本来1時間のレギュラー番組を特番として週替わりで放送する」という策が、民放各局で定着しました。ただ、視聴者にしてみれば、「2〜3時間同じ番組を見せられる」束縛された状態ともいえます。2〜3時間続けて見るのは疲れるうえに、週替わりなので「2〜3週間に1度しか見られない」というケースも多いなど、番組のファンですら特番化を喜んでいないのが実情です。

なかでも批判が目立つのは、名ばかりの合体特番。「前後の別番組を合体させて、“長時間特番”風のタイトルをつけているものの、実際は2つの番組を順番に放送しているだけ」という安易な策があるのです。

実際、今月放送される番組には、「人生が変わる1分間の深イイ話×しゃべくり007合体SP」(日本テレビ系)、「生き物にサンキュー!!&アイ・アム・冒険少年合体SP」(TBS系)があります。

この策は数年前にテレビ業界全体で流行しましたが、視聴者に飽きられたため激減。しかし、いまだ消滅せずに繰り返されているところに、「やるべきはそこじゃないでしょ」と言いたくなるのです。

ネットサーフィン風の番組が急増

次に、各番組の構成に目を向けると、小刻みなコーナーを続けるものが増えました。たとえば、「痛快TVスカッとジャパン」(フジテレビ系)、「この差って何ですか?」(TBS系)、「水曜日のダウンタウン」(TBS系)、「ニンゲン観察バラエティ・モニタリング」(TBS系)、「沸騰ワード10」(日本テレビ系)、「超かわいい映像連発!どうぶつピース!!」(テレビ東京系)、「ジョブチューン」(TBS系)などの番組は、いずれも数分間のコーナーを連続させる構成です。

もっとわかりやすいのは、朝の「ZIP!」(日本テレビ系)。ニュース、天気、エンタメ、アニメ、トレンド、クイズ、旅、料理など、わずか数分のコーナーが、まるでネットサーフィンのように続いていきます。

このような傾向が生まれたのは、「ながら見の人が増えるなど、テレビ番組への集中力が落ちている」「ネット動画の影響で短尺コンテンツが好まれている」から。面白ければ当然連続して見てもらえますが、「つまらない」と思われてもすぐにコーナーが終わるため、チャンネルを変えられるリスクは少なくなります。

しかし、「テレビ番組らしい見応えのある長尺コンテンツを放棄してしまう」「毎週レギュラー放送する意味合いが薄くなる」などの問題点もあり、今後は長尺と短尺、それぞれのコーナーをどう組み合わせて番組を構成していくのか。スタッフのバランス感覚が問われるでしょう。

その他の策としては、1990年代以降に定着し、減りそうで減らないのが、「じらし」の演出。番組のオープニングに、ハプニング、バトル、セクシーなどのインパクトの大きい映像を見せつつすぐに放送せず、いくつかの別コーナーを経由して、番組終盤で見せるというものです。

しかし、視聴者は「チャンネルを変えさせない」というテレビ局サイドの狙いに気づいているため、むしろイメージダウン必至。番組のファンですら「録画してそのコーナーだけ見よう」という視聴率につながらない視聴方法を選択しているのが現実です。じらし演出は、すでに賞味期限切れの方法であり、自主規制するべき時期に来ているのではないでしょうか。

向き合うべきは他局ではなく視聴者

ここまで民放各局が「チャンネルを変えさせない」ために行っている策を挙げてきましたが、いずれもテレビに好意的な人に向けた保守的なものにすぎず、効果は薄いといわざるをえません。

しかし、CMまたぎも、ステーションブレイクレスも、フライングスタートも、名ばかりの合体特番も、少しずつ減りはじめているのは好材料。組織が大きく取引先が多いことからドラスティックな改革は難しいものの、各局のテレビマンたちは、「もはや小手先の策では通用しない」「むしろイメージダウンを招くリスクが高い」と気づきはじめているのです。

ただ、「質の高いコンテンツを作れば見てもらえるわけではない」「リアルタイムで見てもらえる可能性は低い」のが、テレビの難しいところ。「チャンネルを変えさせない」以前に「テレビをつけよう」と思わせるハードルがあり、さらに「面白い番組ほど録画されて視聴率が下がる」というジレンマを抱えているのです。

やはり視聴率をベースにしたビジネスモデルを変えることが最大の処方箋なのですが、「誰がどう動けば変えられるのか」、いまだ道筋は見えていません。「見たいときに、見たいものを、見たいデバイスで見る」オンデマンド思考が強く、パソコンやハードディスクなど機器の扱いに長けた現代人とどう向き合っていくのか。テレビ局同士が限られた視聴率を争うのではなく、テレビ業界が一枚岩になって視聴者と向き合わなければ、現状の厳しい流れを止めるのは難しいでしょう。

私がこのコラムを書いたのは、「民放各局が行う苦肉の策を視聴者に紹介したい」からではありません。「ここに挙げた策は、すでに多くの視聴者が気づいていることであり、やればやるほどイメージダウンする」という事実をテレビマンたちに受け止めてほしいからです。民放各局のコンテンツ制作力は、いまだ他メディアの追随を許さない高レベル。それだけに、苦肉の策に走らなくても、多くの人々を楽しませられるはずなのです。