ポイントで切り替えを行う車両=8月31日、群馬県渋川市(吉原実撮影)

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 今年3月から5月にかけて、群馬県内にあるJR吾妻線(あがつません)の3駅で分岐点(ポイント)に「置き石」をして逮捕された犯人は、意外にも、鉄道をこよなく愛するはずの“鉄道オタク”だった。

 さらに驚くべきは、犯人の男は、現場にスカートを穿いて現れ、犯行に及んでいた。男のトホホの言い訳とは…。

 電汽車往来危険と威力業務妨害容疑で逮捕、起訴されたのは同県中之条町赤坂の無職、小林大輝被告(25)。独身で、高校卒業後、工場や配達の仕事に就いた後、逮捕時には自動車販売・整備関係の会社で働いていた。

 電車が止まれば…

 検察側の冒頭陳述などによると、5月13日夜、小林被告はJR吾妻線金島駅(同県渋川市)から北西約220メートル地点のポイント先端に、15×11×7センチの敷石をはさみ、上下線2本を約54分間にわたって遅延させたという。計約70人の乗客と対応にあたった17人のJR社員に影響を与えた。一歩間違えば脱線や転覆を招きかねない過ちは1回にとどまらず、近隣の同線岩島駅、郷原駅でも同様の犯行に及んでいる。逮捕された6月5日には、「電車が止まって大騒ぎになるのが見たかった」と供述し容疑を認めた。

 8月17日の初公判には、丸刈り頭で紺色のTシャツ、グレーのスエットパンツに地味なメガネという姿で出廷した。年齢に対してどこか幼い太めの青年は、傍聴席から両親が見守るなか、終始泣きっぱなしだった。

 「休日には鉄道の写真を撮るため、県内のあちこちを回る」(被告人質問)という小林被告。自他共に認める「鉄道マニア」(父親)であるのに、なぜ置き石という陰湿な行為を働いたのか?

 検察と弁護士の双方から、繰り返し問われる犯行理由について、小林被告は「復旧作業が見たい!」という鉄オタらしい動機と、家族から怒声を浴びせられたことによる「ストレス」のためだと説明した。

 法廷内で見せたその言動から頼りなく見えるが、ホームページ(HP)でJRの危機管理体制を調べたうえ、駅員のこぼした言葉をヒントに練り上げた犯行計画は、綿密かつ悪質だった。JRのトラブル対処を観察するために置き石という方法をとったのは、確実に電車を止めるため。単に線路上に石を置くのではなく、ポイントを選んだのは、面識のあった駅員が以前、「線路上に石があっただけでは、気づかない場合、停車しない」と話していたためだという。

 その際、「(ポイントに)置き石をすることによって、挟み込んだ場所のセンサーが異常を感知し、信号が切り替わらず、指令室などに連絡して、電車を止める措置をとるのではないか」(被告人質問)とひらめいた。電車に踏まれても砕けない石を選ぶなど、念入りだった。

 スカートばきで

 3駅で犯行に至ったのにも理由がある。

 いずれも人通りの少ない無人駅であることに加え、管理する有人駅が異なる。つまり、「管理する駅が違えば、対応方法に差が出るのでは」と考えたのだ。

 ここまで完璧に映る犯行計画を打ち破ったのは金島駅構内の防犯カメラだった。辺りをふらつく小林被告をしっかりと捉えていた。この時、スカートをはいて券売機付近に現れ、犯行直前になってズボンに着替えるという不可解な行動をとっている。その理由を裁判官らが問うたが、「言いたくありません」と回答を拒否した。弁護士によると、「犯行をごまかすためはなく、趣味のようなもの」だという。

 犯行に及んだ遠因は昨年9月、「体操服に興味があった」という理由で、県内の公立中学校に侵入、Tシャツや短パン、水着など衣類5点を盗み、建造物侵入と窃盗容疑で逮捕された事件にある。この事件で今年1月、懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を受けて以降、小林被告の歯車が狂い始める。小林被告の叔父が裁判で、指導監督に努めることを誓った。だが、思うとおりにコトは運ばなかった。釈放後の小林被告は、「お前は犯罪者になったんだから、行動に気をつけろよ!」といった叔父の激励を「一方的に怒鳴られた」(小林被告)と解釈、妹には「無視され、犯罪者扱いされた」(父親の供述調書)。父親のツテで仕事が見つかるまでの間、ハローワークに通うものの、叔父からは「もう、(仕事が)見つかったと思った」、祖母からは「遊んできたのか」と追い打ちをかけられた結果、イライラを募らせ、そのはけ口を置き石に求めた。

 報道で事件化したことを知り、犯行をやめたという小林被告だが、仮に発覚することがなかった場合、「そのままやり続けていたと思います」と振り返った。

 自身の犯行をマニア目線で見つめた場合、「最低だと思います」としながらも、鉄道愛は揺らがず、「鉄道マニアは続ける」とも語った。

 いずれにせよ、執行猶予中の再犯であるため、実刑判決は免れない。

 9月26日の判決を前に、検察側は懲役2年を求刑している。社会復帰後は「実家に戻る」とした小林被告に望むことは一つだけ。今度こそ、真っ当な人生の“レール”を歩んでほしい−。

                   (前橋支局 吉原実)

               ◇

 【JR吾妻線】は、群馬県北西部の渋川(渋川市)―大前(嬬恋村)駅間を東西に結ぶ路線で、JR高崎支社が管轄している。草津温泉に代表される温泉街が多くあり、観光客に恵まれ、上野駅からの直通特急や上越線経由の直通列車が運行されている。