2015年8月、ノルウェー首都南郊の街で、日産「リーフ」を充電している様子。(写真=AFLO)

写真拡大

本当にクルマはガソリンから電気に置き換わるのか。北欧ノルウェーでは、すでに新車販売の4割が電気自動車(EV)になっている。「先進事例」として有名だが、ここには電力を自給できるという「特殊事情」が影響している。モータージャーナリストの清水和夫氏と元朝日新聞編集委員の安井孝之氏の「EV対談」。第2回をお届けします(全5回)。

■EVに不利な「寒冷地」で普及した理由

【安井】EVの話になるとどのメーカーがいつどんなEVを出すか、というクルマそのものの話になりがちです。EVに充電する電気をどうつくるか、充電ステーションをどのようにつくるかといったEVシステム全体の話があまり議論されないように思いますが。清水さんはどうお考えですか。

【清水】発電や送電、充電ステーションといった上流、中流の話をしないと、EVの課題がなかなか見えないし、未来社会への解決の出口がどこにあるのかがわかりません。エネルギー問題をどう解決するか、その中でEVをどう位置付けるかが重要です。

【安井】EVの開発に力を入れるのはいいのだけれど、中国のように石炭火力でたくさん電気をつくっているような国だと、Well to Wheel(油井から車輪まで)で見ると、CO2(二酸化炭素)は必ずしも減らない、ということにもなりますね。

【清水】EVを考えるときに、面白い国があります。ノルウェーです。本来は寒い国ですから、リチウム電池の効率が悪くなるのでEVには向かない国なのですが、今年に入って新車販売台数のおけるEVのシェアが4割に迫っているというのです。

【安井】どうしてですか。

【清水】三菱自動車が3、4年前に初めてアイ・ミーブをヨーロッパで発売した時も、意外にノルウェーが一番売れていると担当者が言っていました。そのあと、アウトランダーPHEVを出したら、やはりノルウェーが一番売れているといいます。それは面白いね、ということになり、3年前の5月にノルウェーに取材に行ったんです。

【安井】何か分かりましたか?

【清水】もう一目瞭然でした。ノルウェーはあまりにも寒いので、エンジンオイルが固まらないように普通のエンジン車にブロックヒーターというヒーターがついています。その電源コンセントが車庫には付いているんです。だから各家庭の駐車場、公共駐車場には必ず電源がある。230ボルトの電源がね。

■クルマをコンセントに挿すのは当たり前

【安井】ノルウェーではどこでも充電しやすいということですか。

【清水】ガソリン車も冬には電源コードをコンセントに挿していたということです。だから電源コードをコンセントに挿すのは慣れている。

【安井】充電インフラもすでにできているということですね。

【清水】できています。ユーザーのライフスタイルもクルマを止めたらコンセントに挿すもんだと思っている。EVになって挿すのも、別にエンジン車と同じじゃんという感覚。これは瓢箪から駒ですよね。

【安井】じゃあ、ノルウェーだけじゃないでしょ、北欧だと。

【清水】ええ。アイスランド、グリーンランド、カナダも同じような状況らしい。カナダは、そこまでじゃないようですが。ノルウェーが面白いのはそれだけではない。ずいぶん前から水素利用にかなり積極的でした。マツダのRX-8の水素ロータリーが売れましたし、オスロのガソリンスタンドには水素ステーションもあり、気軽に水素を入れられるんですね。

【安井】昔からノルウェーは水素社会をつくろうとしていましたね。

■電力の96%を水力でまかなっている

【清水】ノルウェーという国は非常に面白い国です。深い谷のフィヨルドがあります。雪が解けたら、ものすごい量の水が高低差のあるフィヨルドを利用したダムに流れ込み、水力で発電するんです。各家庭は全部水力発電、自家用水力発電があって、裏山から流れてくるところにタービンを置けば、発電しちゃう。だから自宅の電力は全部フィヨルドの雪解け水でまかなえる。

【安井】電力の96%を水力でまかなっているようですね。日本とは大違いだ。

【清水】問題なのは真冬です。凍ってしまうから、水力発電が使えない。太陽が照らないから太陽光発電も使えない。冬をどうやってサバイバルするかが課題だったところに水素が出てきた。

【安井】夏に余った過剰電力で、水素をつくって貯めておくんですか。

【清水】水素だったら350気圧ぐらい加圧すれば、1年間ぐらい備蓄できるんです。だから数カ月の真冬は水素にして電気を貯めておく。だから上流のところは一年中、再生可能なエネルギーなんですね。

■水素からまた電気をつくって、EVに充電する

【安井】そうすると貯めた水素を電気にするのは、燃料電池ですか?

【清水】そう燃料電池も一つのオプションでしょうね。昔はRX-8のように水素ロータリーで、水素を燃やしたこともありました。とにかく水素は電気の入れ物なのです。

【安井】水素からまた電気をつくって、EVに充電するということですね。そうすると冬場もEVに充電する電気は元はといえば水力発電ですから、EVを走らせているのは再生可能エネルギーということになりますね。

【清水】ノルウェーのEV普及率が高いのはいろんな条件がそろっているからです。もちろん政府も政策的に手を打っていますよ。補助金も出していますが、一番効いたのは、EVにバスレーンを開放したこと。自然豊かな森、湖の近くで子育てがしたいので、家は郊外にあります。通勤のために都市につながる道は当然渋滞になります。EVだとバスレーンが走れる制度をつくったので、EVが一気に売れたようです。

■石炭発電ではEVは「プリウス」よりもCO2を排出

【安井】ノルウェーのように自然エネルギーで電気がつくれる国はEVが普及すると環境にはとてもいいですが、多くの国はその条件が揃いませんね。

【清水】そうですね。中国みたいに石炭発電で電気をつくったら、Well to WheelでみるとプリウスよりCO2が出ます。だからテールパイプはCO2ゼロなんだけど、発電しているところからはやはり出てしまう。トータルでみたWell to Wheelの概念、つまり製造からリサイクル、廃棄まで考えるライフ・サイクル・アセスメントを考えながらEVの普及を議論しないとおかしなことになってしまう。

【安井】でも最近のEVへの期待感の強さをみていると、EVが環境問題やエネルギー問題の救世主のような受け止めになっていないでしょうか。下流のクルマという商品をみるだけでなくて、全体像を見て、どんなシステムが望ましいかを考える必要がありますね。

【清水】日本メーカーはなかなかビジョンみたいなことを言いません。欧米のメーカーがビジョンを打ち出して、みんながそこに流れていく傾向があります。EVでも同じような傾向があります。日本はコミュニケーションのうまさ、巧みさで欧米企業にやられていると思います。メディアの責任もありますよ。カリスマ的な経営者の「ビッグマウス」に影響されて、報道の流れがつくられていますからね。

(次回更新は9月16日の予定です)

----------

清水 和夫(しみず・かずお)
モータージャーナリスト
1954年生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年に自動車ラリーにデビューして以来、プロレースドライバーとして、国内外の耐久レースに出場。同時にモータージャーナリストとして、自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで活躍している。日本自動車研究所客員研究員。
安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、フリー記者、元朝日新聞編集委員
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立、フリー記者に。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。

----------

(モータージャーナリスト 清水 和夫、Gemba Lab代表、フリー記者、元朝日新聞編集委員 安井 孝之 写真=AFLO)