チェンマイ大学に通う傍ら、自身の日本米生産も続けている。(写真提供:小宮克久氏)

写真拡大

 一般的には結婚をしたり子どもができると家族を守るために保守的になるものだ。夢をあきらめたり、現実的に生きるようになる人が多い。ところが、タイ北部に暮らす日本人、小宮克久氏(38歳)は子どもが生まれたことをきっかけにタイ北部最大の大学であるチェンマイ大学に入学した。

「子どもの誕生をきっかけになにかチャレンジしたくなり就学しました。農学部大学院で農業をもっと深く掘り下げて勉強していきたいと思っていて、オーガニック栽培を農薬汚染土壌やチーク、ゴム林などで行う研究を行っています」

 小宮氏が農学部を選んだのには理由がある。

 実は、この小宮氏、以前よりチェンマイ県やチェンライ県において日本米の生産を続けている人物なのだ。(参照:日刊SPA!「和食ブームのタイでコシヒカリ作りに挑戦する日本人」2013.07.31)

 当初はビジネスに主眼を置いていたものの、様々な問題点を改善していくうちに農業に魅せられ、より深く学びたくなったのがその理由だ。

 現在も日本米の生産は続けており、チェンマイ大学試験農場で2.5ライ(0.4ha)、チェンライに25ライ(4ha)で展開。来期は100〜200ライ(16〜32ha)で栽培することが目標でもある。(※ライはタイにおける面積に単位で、1ライが約1600平方m)

◆タイ農家が抱える経済格差という現実

 タイで就職する日本人は何万人といる。しかし、就学に関しては留学生や日本人の子息を除いてかなり少ない。大学や大学院の各種分野において日本の大学の方が優れている場合が多いこともあるだろう。ただ、農学部に関してはタイの大学も決してレベルは低くないと小宮氏は言う。

「チェンマイ大学はアグリ・エコが盛んです。タイの大学は農業関連に関して日本と比較してもレベルは劣っていません。それどころか『World University Rankings』というサイトの2016-2017年における農学部のランキングでタイと日本の大学だけを抽出して比較してみると、全25校のうちチェンマイ大学は7番目に入ります。もちろんタイ国内では1位です」

 小宮氏が実体験と学生生活を経て感じた、タイの農業の問題点とはなんなのだろうか?

「タイはモノカルチャー(単一農作物を栽培する形態)で農薬や化学肥料を使った農業が主体となり、その上で農家の収入は低いのが現実です。農業経費を差し引いた純手取りはかなり少なく、タイ米だけを栽培する農家の場合1ライあたりの収入が4か月で3000〜4000バーツ(約9000〜12000円)しかありません。少子高齢化のタイでは都市部への人口流出も始まっており、次の担い手も少なくなっているのが現状です」

 タイの統計局が不定期で発表する平均世帯収入は、農家の多い北部や東北部がバンコクと比較して少ない。やや古いが2011年の統計を例にするとバンコクが48951バーツ(約146853円)の平均世帯収入に対し、北部は17350バーツ(約52050円)、東北部は18217バーツ(約54651円)と実に3倍近い差がある。

 そのため、こんな時代になっても農閑期にバンコクへ出稼ぎに行くという話は珍しいものではない。ただ、バンコクに出稼ぎに行ったところで収入が大幅に増える見込みはほぼないに等しいという現実がある。タイとはいえ高給取りになるには学歴とスキルが必要で、農家出身者でその壁を乗り越えられる人は限られる。
 では、農民にとって収入アップは不可能なのかというとそういうことでもない。どんなビジネスでもアイデア次第で収入を増やすことはできるはずだ。農業においてもやり方次第では未来は決して暗いものではない。農民自身がそれに気づき始めており、小宮氏もタイ農業にも可能性はあるという。

◆変わりつつあるタイ農業と農学部