米国は、いざというときに本当に日本を助けてくれるのか(写真:Chip Somodevilla/UPI)

北朝鮮が日本の上空を通過させる形で弾道ミサイルを発射したり、「水爆実験に成功した」と発表したりしたことで、改めて日米同盟の堅持や強化の必要性がクローズアップされている。中東地域と並ぶ地政学リスクとなった東アジアの中で日本が生き残るには、日米同盟が不可欠という点に疑問の余地はない。

だが、はたして同盟関係に絶対的な信頼を寄せても大丈夫なのか。中東の国際政治は、同盟への過信が禁物であることを物語っている。「核保有国」と国際社会で認定される可能性もある北朝鮮や軍事大国化する中国を周辺に抱えた日本が、中東の過酷な現実から学べることもありそうだ。

イスラエルは同盟関係に安住していない

国連安保理が機能不全に陥り、世界は事実上の無政府状態に近い状態にある。軍事力を背景にしたパワーポリティクスが展開される弱肉強食の国際政治環境の下、自前で軍事力を備えるか、同盟関係に頼るかという二者択一しかない――。

これが国際関係学で今も根強い現実主義派の考え方だ。現実的には軍事力の強化にも限界があるし、同盟も裏切りなど想定外の事態がありうる。第2次世界大戦後も幾多の戦争を経験してきた中東には、軍事力と同盟の双方を強化する折衷型を採用する国が多い。

中東の同盟関係で筆頭に挙げられるのは、米・イスラエル関係であろう。米軍基地はなく「同盟条約なき同盟」といわれる両国の関係だが、米国は巨額の軍事援助を継続しており、イスラエルの宿敵イランの領空への無給油飛行が可能な戦闘機F16Iなどの兵器を供給する特別な関係にある。

だが、イスラエルは米との同盟関係に安住していない。国民皆兵でエリート教育によってサイバー部門など精鋭軍人養成ルートが確立されているほか、軍事技術を持った退役軍人が民間のハイテク部門に転じ、技術力向上に寄与するという好循環を作っている。これは、四国とほぼ同じ面積のイスラエルに約8000社のベンチャー企業がひしめくという事実に表れている。

イスラエルは、占領地のヨルダン川西岸で国連決議を無視したユダヤ人入植地の拡大も続けている。ユダヤ人右派の政治力学を反映したものでもあるが、西岸にある入植地の存在はイスラエルの安全保障の要でもある。

イスラエルの国土は狭隘(きょうあい)で戦略的縦深性に乏しい。最短区間である中部の都市ネタニヤと、西岸のパレスチナ自治区トルカレムの区間は約16kmしかない。入植地の多くは、戦略的な高地に位置している。近隣諸国と一戦を交える場合の戦略的縦深性を確保するためだ。こうしてイスラエルは、米国との同盟関係には過度に依存せず、国民の総力戦で生き残りを模索している。

ミサイル防衛だけとっても、短中距離ロケットを迎撃する「アイアンドーム(鉄のドーム)」システムから始まり、 大気圏外で長距離弾道ミサイルを迎撃できる「アロー3」まで少なくとも4重のミサイル防衛網を築いている。北朝鮮が核保有国として国際社会で認定されれば、イランをはじめ一部の中東諸国が核保有に走り、現在の核不拡散体制が揺らぐとの想定も視野に入れているためだ。

サウジアラビア外交も変質

筆者が通信社のエルサレム支局に勤務していた2000年代、イスラエルは周辺のイスラム過激派が飛ばすロケット弾のなすがままだった。こうしたロケット弾攻撃を防ぐため、イスラエル軍はパレスチナ自治区ガザ地区に大規模侵攻したが、パレスチナ側、イスラエル軍側双方に大きな被害をもたらした。それが今では、アイアンドームの迎撃成功率は約9割に達しているという。もはや、ロケット弾攻撃をほぼ無力化してしまったのだ。

一方、サルマン国王が王位を継承してから、サウジアラビアの外交は、大きく変質している。これは2015年に起きた出来事が転換点になっている。

イスラム教スンニ派の盟主を自認するサウジと、シーア派大国イランは、1979年のイラン・イスラム革命以来、犬猿の仲で、サウジはイランと約900kmの国境を接するパキスタンの核開発に秘密裏に資金援助してきた。イランが核兵器の開発に成功した際には、パキスタンがサウジに「核の傘」を提供するという密約が存在するともいわれてきた。

つまり、サウジ・パキスタンは事実上の同盟関係にあるとみなされてきたのである。ところが、2015年にサウジが隣国イエメンへの軍事介入に際してパキスタンに派兵要請したのに対し、同国はこれを拒否。

サウジは同盟相手の思わぬ仕打ちに遭った形となり、以後、インドや中国、ロシアとの関係強化を模索するなど、対外政策が大きく変わる出来事となった。パキスタンの裏切りの衝撃は、台頭するイランを前にサウジにとって大きかったはずである。

そのパキスタンにとっては、核弾頭の数を競い合うインドが安全保障上の最大の懸念だ。インドとの緊張が高まった際に、イランが軍を動かせば、2正面作戦を強いられることになる。中東の宗派間対立に深入りして、イランを刺激し、結果的に自国の安全保障環境が悪化するのは避けたいという計算があったと見られる。

米政権の「変心」にカタールは…

6月に勃発したカタールと、サウジなど4カ国が断交した外交危機も、同盟関係の有効性に疑義を呈する大きな動きとなった。カタールの首都ドーハ近郊にはアルウデイド空軍基地があり、米軍の特殊部隊や、空軍部隊を指揮する地域司令部など約1万人規模が駐留している。

カタールの「人口」は、国民約30万人に、移民労働者を加えても約270万人しかいない。こうした中、米国との同盟関係を基軸に据えつつ、富を惜しまず、衛星テレビ局アルジャジーラを通じた積極外交を安全保障政策の要としてきた。

一方、サウジは、ドナルド・トランプ大統領が5月に訪問した際、カタールの外交は結果的に「テロ支援」につながっていると説得することに成功。これをカタールに対する経済封鎖へのゴーサインと受け止め、断交に踏み切った。カタールは、政権交代による米国の思わぬ「変心」に、同盟関係の脆弱性を知ることとなったわけだ。トランプ大統領の言動に振り回されている日本とも重なるところがある。

ただ、駐留米軍が存在しなければ、サウジの軍事圧力にさらされた可能性もあり、同盟関係が機能したと言えなくもない。カタールはサウジの宿敵イランに接近するなどの奇策に打って出ているほか、サウジは「敵の敵は友」という構図でタブーのイスラエルに接近を図っており、中東世界の流転はとどまるところを知らない。生存のためなら、主義主張も構っていられないということだろう。

このように中東世界では同盟が裏切りに見舞われたり、期待外れに終わったりすることも多く、生死を懸けた防衛技術の開発や外交戦が展開されている。

米国は本当に戦争をする用意があるのか

一方、北朝鮮がミサイルを日本に向けて発射したり、中国軍が尖閣諸島を占領したりした場合、本当に米軍は自国民の犠牲もいとわずに戦争をする用意があるのだろうか。英国の欧州連合(EU)離脱決定や「米国ファースト」のトランプ政権誕生というリベラリズム終焉のような国際政治環境の中、日本は同盟の意義や有効性を改めて真剣に考える必要性がある。

現在の東アジア情勢は、一国平和主義だけでは乗り切れない日本の脆弱性を露呈した。トランプ大統領の一存で、日本の安全保障が左右されてしまう危険性もないとはいえない。いざとなれば、誰も助けてくれない可能性もあるのだ。

こうした中、日本は、ミサイル防衛のさらなる高度化や、法整備、サイバー分野、衛星開発など諜報能力の向上に国力を注ぐべきではないだろうか。今回の北朝鮮危機や中東の国際政治を見ていると、そう強く思わずにはいられない。