【なでしこの現状に迫る!|熊谷紗希×岩政大樹#2】女子が男子に勝つ方法とは?W杯優勝は嬉しかったが個人的には…
岩政 2年生で勧誘の話が来るんですね。その頃から代表にも選ばれていますが、ハイレベルな選手たちから何を感じましたか?
熊谷 「サッカーってこんなに考えるんだ」と思い知りました。ポジショニングもそうだし、ラインコントロールについても言われました。紅白戦ひとつでも、練習後に全員で映像を見返すんです。
岩政 ボールの奪いどころやポジショニングの細やかさに衝撃を受けたと?
熊谷 そうです。ただ、徐々に疑問も持つようになりました。代表に入った初めの頃は、ほぼ先輩に合わせてプレーしていたんです。だから、2011年のワールドカップ優勝は嬉しかった反面、「自分個人では何をできたかな」とも思いました。そこで海外の選手と日常的に対戦して個人として成長するために、海外に出たかったんです。
岩政 代表に呼ばれて新しい情報が入ってくると、また考えることが増えます。楽しかったのでは?
熊谷 楽しかったですが、海外に出てからは「組織ばかりを考えて、1対1で抜かれたらどうしようもなくない?」と思うことが多くなりましたね。カバーありきで守っていたら、効率が悪くなってしまいますから。
岩政 確かに、組織を強調し過ぎると1対1の責任感が薄れてしまいます。
熊谷 ええ。カバーありきで守るのではなく、1対1で奪うのが基本です。ヨーロッパに行った初めの頃は、そのギャップに苦しみました。クラブだとカバーリングを意識し過ぎて上手くいかないし、なでしこジャパンに帰ってくるとカバーリングを求められるし、で。
岩政 今はそのバランスをどう捉えていますか?
熊谷 今は抜かれない守備ではなく、「奪おう」と言っていますし、自分ができるだけ前で勝負できるようにしています。自分の長所は1対1や局面の戦い。海外で一番成長した部分を、代表でも出していければと思っているんです。
もしかすると、余裕が出てきたのかもしれません。代表では自分中心にチームを動かせるところもあるので、上手く回りと合わせながら自分が取りに行くところは取りに行く。隣の選手にも「後ろを気にせずボールを取りに行って」と言っています。今のなでしこジャパンは、高倉監督が「奪いに行け」という方針なので、私もやりやすいです。
岩政 細かにカバーリングするより、ボールにアプローチするわけですね。
熊谷 そうです。ヨーロッパだと、奪いに行くのか、それともカバーするのかみたいな中途半端なポジショニングが、一番味方も困ります。向こうの人たちはあっさり抜かれますが、プレーがハッキリしているから、こちらも次のプレーが決めやすいんです。
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【プロフィール】
熊谷紗希(くまがい・さき)/1990年10月17日、北海道出身。小学3年次に本格的にサッカーを始め、真駒内中を卒業後は、親元を離れて宮城県の常盤木学高に進学。高校2年次になでしこジャパンに選出され、2011年の女子ワールドカップ優勝、2012年のロンドン五輪準優勝に貢献。クラブレベルでは09年から浦和レッズレディースに所属し、11年にドイツにFFCフランクフルトへ。13年からフランスのリヨンに在籍し、15-16シーズン、16-17シーズンと女子チャンピオンリーグを連覇している。
岩政大樹(いわまさ・だいき)/1982年1月30日、山口県出身。J1通算290試合・35得点。J2通算82試合・10得点。日本代表8試合・0得点/鹿島で不動のCBとして活躍し、2007年からJ1リーグ3連覇を達成。日本代表にも選出され、2010年の南アフリカW杯メンバーに選出された。2014年にはタイのBECテロ・サーサナに新天地を求め、翌2015年にはJ2岡山入り。岡山では2016年のプレーオフ決勝に導いた。今季から在籍する東京ユナイテッドFCでは、選手兼コーチを務める。