「お客さん、お客さあああん!」
 なんてヒドい呼び方…と思ったが、酷いのはこちら、ダメ男のほうだった。
 車内から追っ払われたボロボロの男、ホームでちょっとポカーン。やがてわかった。ここは東京駅、朝だ。
「そうか。コレに乗って帰ったのか」
 酒臭い男が乗ってたのはサンライズ出雲・瀬戸。昨晩、大阪で仲間たちとアホみたいに吞んで、どうやら、この寝台特急になだれ込んだらしい。
「てっぺんまで呑れるって!」
 そんな悪友のかけ声を思い出した。
(っていうか、呑り過ぎだろおおおお)
 頭を抱えて東海道線ホームをふらふらと歩く、だらしない中年、ひとり。

地上に砂漠化したカマボコ

 大阪から東京まで酔っ払い夜行の顛末は、巨大な抜け殻と化した梅田貨物駅を目の当たりにしたのが発端。
 淀川と東海道線に挟まれたこの貨物ターミナルは、鉄道黎明期から続く大阪の物流拠点として存在。百年ちかく、浪花のにぎわいを見つめてきた。が、この春、吹田と百済にその仕事を譲り、再開発とともに姿を消すことに…。
 仕事を終えて、貨物ターミナルの周りを歩いてみると、ちょっと前までDE10のピュッという汽笛が響いていたヤードは、怖いぐらいに静か。
 巨大な蒲鉾形屋根の下には、整然と並べられていたはずのコンテナ群も、いるはずの鉄道員の姿も、ない。
 もぬけの殻のレール群には、錆び。でも、鈍く光るレールが西側に数本。貨物線経由の関空連絡特急「はるか」や阪和線方面の「くろしお」が、貨物駅の通過線を遠慮がちに走っていた。
「ピーッていう貨物列車の出発の合図で、だいたいの時間もわかったもんやけどな。いまはもう、なじみ客も離れてもうたしなあ」
 「はるか」の足音が聞こえる路地裏の大衆酒場の店主が、しんみり。

地下に沈没寸前のサウダージ

(あああ、しまった。行っちゃった!)
 大阪出張のついでに見ておきたい列車があったのに、うっかり梅田の路地裏でダラダラ。夕方、大阪を発つ名物列車を見届けたかったが、逃した。
 近鉄「鮮魚列車」──。
 日本唯一の行商用専用列車で、真っ赤な4両編成が、三重の宇治山田駅と大阪上本町駅の間を結んでいる。
 行き先表示に「鮮魚」と記されていているあたり、かなりグッとくる。
 この電車と、そこにある人間模様を見たかったのにいいい!
「はよ来いって! 阪神梅田の地下や!」
 いい加減男を待つ悪友。大阪駅の地下にも、梅田貨物駅と同じように、消えそうな灯火があると教えてくれた。
 大阪駅前地下道「ぶらり横丁」──。
 阪神梅田駅脇に、串揚げ屋やうどん屋が並ぶ一角がある。にぎわうカウンターには、地元のおっちゃんや出張帰りのサラリーマン、女子ふたりなど、いろいろな人種が肩をくっつけている。
 この飲兵衛横丁が、消えかけている。
「市がな、来年、この地下街にある店の占用許可を断ったって」
 変わる、梅田。懐古で呑んでも何も生まれやしないが、酒がすすむ。
 この地には、103系や201系といった、東京では見かけなくなった電車もいまだに元気に走っているけど、栄枯盛衰…。勝手にサウダージな気分になって、酔う。適当すぎる。
 いっしょにはっちゃけたバンドの思い出から、やしきたかじんへと話題が移ったあたりまでは覚えている。そこからパタッと記憶が切れている。
 酒を酌み交わし語った悪友との時間。大事な、前へ進むヒントになるビジョンや近未来の自分についての話を、ものの見事に置き忘れている。
 人も街も、着実に前進してるっていうのに、何やってんだオレ…。
 山手線の窓に映った東北縦貫線の橋脚を見て、泥酔い男は再起を決意。
「きょうもやったる」(アホか…)

この連載は、社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会発行の月刊誌「リハビリテーション」に年10回連載されている「ラン鉄★ガジンのチカラ旅」からの転載です。今回のコラムは、同誌に2013年7月号に掲載された第14回の内容です。

鉄道チャンネルニュースでは【ラン鉄】と題し、毎週 月曜日と木曜日の朝に連載します。

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