週3日働き、残りは100万円で購入した横須賀の山の上の家を自分好みにリノベする日々を送る立花さん(女性)。家の中の家具は、多くが拾いものかもらいものだ(筆者撮影)

「生活実験」をする30代女子が増えている。実験と言っても、土鍋でご飯を炊いてみる、梅酒や梅干しを漬けてみるという初歩的なものから、もう少し進んでみそ作りや自然派せっけん作りのワークショップに参加するというレベルになると、いわゆる「意識高い系」だろう。だが、さらに進んだ女性もいる。

横須賀の空き家を100万円で買ってリノベーションし、週3日勤務をする。福岡県に移住し、シェアハウスを経営し、月の食費1500円で暮らす。肉はイノシシを狩猟して食べる。そこまでいくと、現代ではもはや実験、冒険に近い。今回は、その実態をリポートする。

週3回勤務、残りの4日は空き家をリノベする生活

立花佳奈子さんは、飲食店やシェアハウスのリノベーションをする会社に勤務して6年になる。今は、その会社がつくった横浜の山のほうにあるカフェで働く。カフェといってもツリーハウスであり、大きな木の上に小さな小屋があって、そこがカフェになっているというもの。2年前にできた。


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そのカフェに、今は週3日だけ勤務している。残りの4日は横須賀の山の上に買った廃屋同然の空き家で過ごしている。駅から10分くらいだが、途中から急な坂道となり、相当たくさん階段を上ると立花さんの家に着く。

立花さんは昨年、築70年くらいの4DKの平屋を100万円くらいで買い、1年かけて、自力でリノベーションしてきた結果、今年の夏前にはなんとか住めるようになった。


築70年ほどの4DKの空き家を買って、1年かけて少しずつリノベーションしてきた。写真はキッチン(編集部撮影)

リノベーションした部屋を実際に見せてもらうと、はしごを棚にしたり、味のあるいすが置かれていたりと、創意工夫にあふれたこだわりのインテリアが並ぶ。

実はこれ、多くが横浜市内の住宅の解体現場などからもらってきた木材や家具で構成されているという。ステレオももらったもの。テレビはない。お風呂だけは、西洋風の猫足のバスタブを新たに購入して置いた。

横浜の住宅地には、けっこういい家具や部材が廃棄されているのだという。たまたま通りかかった解体現場でいいものが見つかると、工事をしている人に頼んで、とっておいてもらい、あとから軽トラで引き取りに行く。そうやって集めたお宝が立花さんの部屋をつくり出している。


味のあるインテリアは、ほとんどが拾ったりもらったりしたものだ(筆者撮影)

家には古いオーディオが置かれた書斎のような部屋があり、オーディオは接続してみると使えたので、今度シアタールームなどに活用したいそうだ。

窓の外には、ウッドデッキを作った。そこにハンモックを吊るし、犬を抱きながら山を見て、お酒を飲んでいるときが至福の時だという。(写真)山の上にあるため、ペットボトル飲料などを運ぶのは一苦労。そこで、炭酸水やビールは運ばないで済むようにソーダメーカーを買い、ビールも自分用に作ろうと、目下勉強中だ。

気になるお値段は?というと、お小遣いでできる範囲だという。誰でも毎月趣味に使うおカネをリノベーションに使っていると思えばいいらしい。

立花さんが、こうしたリノベに目覚めたきっかけはなんだろうか。地方に生まれた立花さんは、小さい頃からDIYに興味があったらしい。「前からインテリアが好きで、中学時代に好きなように部屋を改装して親に怒られたこともあります(笑)」。

その趣味が花開いたのは、働き出してからだ。大学進学とともに横浜に出て、卒業後は空間デザインの会社で寝る間も惜しんで働いていた立花さん。土日もほとんど働くハードな毎日だったので、休暇は長く取って海外に旅行した。ローカルな人の暮らしを垣間見るような旅を楽しんでいたという。


ウッドデッキにハンモックを吊るして過ごすのが至福の時間だ(筆者撮影)

こうした海外経験で、ゲストハウスに目覚めた。日本にも同じようなものをつくりたいと思った。そこでまず南千住のゲストハウスに住んでみた。さらに、個人的な事業として新しいゲストハウスを浅草で企画、設計、運営することにした。

その際、南千住のゲストハウスを設計、施工、運営している会社の社長さんからは、運営面のアドバイスをもらったり、施工の仕方を教えてもらったり、自分で施工できない部分は会社として工事を請けてもらった。また、もともと所属していた会社でも見本市のブースなどを作る仕事があるから、そこで大工さんの仕事を見たり、施工を手伝っているうちに、見よう見まねである程度なら自分でも工事ができるようになった。

結局、そのゲストハウスがきっかけで社長さんの会社に誘ってもらい、転職した。そこで働くうちに、自分で理想の家を造りたいと思い立ち、会社に頼んで週6日勤務を3日に減らしてもらった。

家を「過ごすことを楽しむ場所」にしたい

立花さんは、「この家は、過ごすことを楽しむ場所にしたい。友人を呼んだり、料理や音楽などのイベントをしたり、みんなで楽しみたい」という。せっかく自分でった家なのだから、できるだけたくさんの楽しい時間をそこで過ごしたいと思うのは当然だ。


「この家は、過ごすことを楽しむ場所にしたい」と立花さん(編集部撮影)

だが、サラリーマンにとって家は寝るだけの場になりがちだ。だから会社の近くのマンションに高い家賃やローンを払って住む人が今は多い。

しかし、家を「過ごす場所」にしたいと思えば、もっと別のやり方もあるはずだ。100万円で買った古民家を自分の好きなようにリノベーションして、週3日勤務という暮らしを手に入れた立花さんのような家とのかかわり方はとってもすてきではないか。

次に紹介する畠山千春さんは、「狩猟女子」としてすでに有名だ。本も出している。秋冬になると、山に入り、イノシシを狩り、自分で解体して、肉を食べる。毛皮はバッグや靴にする。そういう暮らしをしている。鶏を飼って、それを絞めて食べることもある。モグラを食べたこともあるが、柔らかくてうまいという。

だが、狩猟女子としての側面だけが注目されるのは不本意だという。

「私は生活実験家なんです」という。

福岡県・糸島のシェアハウスで行う生活実験

畠山さんは、福岡県の西の端、5年前、糸島の山間部に古民家を借り、リノベーションしてシェアハウス(名称は「いとしまシェアハウス」)にし、夫と2人で管理人をし、シェアメート6人と共に暮らしている。庭には池があり、風流だ。

「結婚していない男女が一緒に暮らすなんて、田舎ではどう思われるかと不安でしたが、テレビドラマでシェアハウスを舞台にしたものがあったので、ああ、シェアハウスって、結婚してない男女が一緒に暮らして恋愛するんでしょ、テレビで見たよって、村の人たちもすぐわかってくれました(笑)」

春夏は、借りた田んぼで米を作る。田んぼの作業はみんなで午前中の空いた時間にする。野菜は農家から安く買う。あるいは以前シェアハウスに同居していた男性が、独立して農家になったので、そこからも買う。


借りた田んぼで、おコメも作る(筆者撮影)

野菜はほんとうに安い! ロードサイドの直売所にも行ってみたが、キュウリが10本で100円くらい。東京の5分の1か、10分の1だ。それから、農家から梅とビワの木を借りて収穫する。収穫したものはパックして友人、知人に通信販売する。もちろん自分たちでも梅酒にしたり、ビワの葉をお茶にしたりする。庭のドクダミもお茶にしたり、薬として使う。塩は海水を煮詰めて作ったもの。みそも自分で作る。体調が悪いときは病院に行かず、薬を飲まず、整体で治す。シェアハウスに整体師の男性が住んでいるのだ。

魚はまだ自分たちでは取っていないので、買って食べることもあまりない。今後は漁もできるようにしたいと夫のコウイチさんは言う。

コウイチさんは東京の世田谷でエスニックレストランのシェフをしていた。畠山さんと東京で知り合い、意気投合し、一緒に糸島に移住したのだ。今の仕事は、韓国の伝統的な床暖房であるオンドルを日本の住宅に広めること。受注し施工する。いとしまシェアハウスもすでにオンドルの工事済みだ。そのほかにも料理のケータリングをし、冬は酒蔵の蔵人もやっている。


軽々と梅の木に登り、実を収穫する(筆者撮影)

私も、取材で訪ねたときに梅とビワの収穫と、田植えを手伝った。畠山さんは、梅の木に登り、細い枝に立って、枝切りばさみを使って器用に梅の実を切る。私も枝切りばさみを使ってみたが、けっこう重い。これを木の上で使いこなすのは大変だ。ビワはすぐに傷むので、丁寧に収穫しなければならない。田植えも、やってみると意外に難しい。まっすぐに植えられない。「農業って大変だ」と思わず私はつぶやいた。

ふと気づくと、畠山さんは、田んぼの脇に生えている桑の実を取り、食べ始めた。私も一緒に食べた。子どもの頃はよく食べたものだ。小さなブドウのような形をしていて、食べると甘い。

月の食費1500円で半農半デジタル生活

いとしまシェアハウスにテレビはない。ステレオは近所の農家からもらった。家具も全部もらいもの。車がないと暮らせない地域なので、1人1台車を持っているが、大体もらいものか、非常に安く中古で買ったものだ。畠山さんの車はコウイチさんと一緒に6万円で友人から買った。

畠山さんのスマホも中古。イノシシの肉と交換して手に入れたこともあるという。お風呂はあるが、車でロードサイドの温泉に行くことも多い。海に夕陽が沈むのを見ながらお湯につかり、上がると、海で取れた魚を食べる。

こういう暮らし方なので「シェアハウスでの月の食費は1人当たり1500円から3000円。そのほか、ガス、電気、電話、インターネットなど含めて7000〜8000円。もちろん仕事で外に行ったときの外食費は別です。借りている古民家の家賃は5万円ですが、シェアメートが1人当たり2万〜3万円負担。余った分をシェアハウスの管理費、改修費、農機具の整備や修理費、将来の修繕積立金などに充てています」


1カ月の食費は1500〜3000円ほど(筆者撮影)

今後の目標はシェアハウスとしての収入を増やして、シェアメートの家賃負担を減らすこと。そのためにシェアハウスでイベントをしたり、2階を企業の研修のための宿泊所として貸したりする。今後も新しいビジネスを考えるのがシェアハウス管理人の仕事のひとつだという。

畠山さんは、埼玉県郊外のマンション育ち。大学は環境系、最初の仕事も環境系のメディアだった。

だが何と言っても、2011年の3.11の大震災で価値観が変わったという。「自分のわからないところで食べ物が作られることに疑問を持ったんです」。それがこういう、いわば自給自足の暮らしを始めたきっかけだ。

「別に無理してこういう暮らしをしているつもりは全然ないんです。自分が納得できて楽しい暮らしをどうやったら実現できるか、一種の生活実験をしているんです。どこまで自分でできるのか、試したい」

アップルのスティーブ・ジョブズの愛読書は『ホールアースカタログ』という雑誌だ。1960年代末から、ヒッピー文化のバイブルとなった本で、1年に1度出版された。ジョブズが言う「ステイ・ハングリー・ステイ・フーリッシュ」という言葉も『ホールアースカタログ』の裏表紙に書かれていた言葉である。

『ホールアースカタログ』のサブタイトルは「アクセス・トゥ・ツールズ」。自分の生活を自分でつくっていく道具、という意味である。家の造り方、工具の使い方、火のおこし方、家畜の飼い方、釣りの仕方、布の織り方などなど。

立花さんも畠山さんも、『ホールアースカタログ』の生活を実践しているようにも見える。この2人のように過激でなくても、冒頭述べたように、みそを造るワークショップなどがカフェで開催されることが増えてきた。ナチュラル志向、シンプルライフ志向、自分の体に入るものはできるだけ自分で作ろうという考え方が広まっている。

自分の生活を手作りするのは、当たり前だった

そもそも、自分の生活を自分でつくることは、昭和30年代以前の日本では当たり前のことだった。国民の過半数は農民であった。「百姓」とは100の仕事ができる、100の姓を持つ、という意味である。自分たちの生活に必要なものは自分たちで作り、必要なことは自分たちでする。

だから、昭和1ケタ世代の、特に農村漁村の人なら、生活実験なんて何をいまさらと思うかもしれない。そんなのは実験ではなく、昔の日常だと。

しかし高度な文明が実現された今はそうではない。文明と共存しつつ、文明のもたらした問題に気づきながら、生活の実験は行われ続ける。