敏腕女性ロビイストを演じる、ジェシカ・チャステイン。銃規制法成立のために、手段を選ばず奔走する(東洋経済オンライン読者独占試写会への応募はこちら)© 2016 EUROPACORP - FRANCE 2 CINEMA

特定の団体や企業、国家などの活動に有利に働くよう根回しを行う「ロビイスト」。それをフォーカスした映画、『女神の見えざる手』が10月20日より全国公開される。銃規制法案という生々しいトピックを題材に、彼らの知られざる実態に迫る内容となっている。

銃規制法案をめぐるロビイストの活動を描く


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監督は、米国アカデミー賞で作品賞を含む7部門を受賞した『恋におちたシェイクスピア』のジョン・マッデン。そして主演には、『ゼロ・ダーク・サーティ』でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたジェシカ・チャステインを迎えた。

ロビイストのルーツは第18代アメリカ合衆国大統領ユリシーズ・S・グラント(任期は1869〜1877年)の時代にさかのぼる。

グラント大統領は愛煙家だったが、妻からはホワイトハウスでの喫煙を禁止されていた。そこで彼はホワイトハウスの近くにあるウィラード・インターコンチネンタル・ワシントンホテルのロビーでたばこを吸うことになったのだが、そこに大統領が出没することを知った関係者がホテルのロビーに集まり、陳情を行うようになったことから「ロビー活動」が始まったといわれている。

ロビイング開示法(LDA)という法律に基づいてアメリカで登録されているロビイストは約3万人といわれている。今では、「ロビイスト」は政権の決断に影響を与え、世論をも左右する存在としても注目されている。

本作に登場する、ジェシカ・チャステイン演じるエリザベス・スローンは、クライアントの要望をかなえるために最適な戦略を立て、かつ一切の妥協は許さない敏腕ロビイスト。自分の生活のすべてを仕事にささげてきた彼女は、各地のパーティに顔を出しては、戦略の根回しを張り巡らせ、そこから裏情報をつかみとる。眠る時間すらも惜しむ彼女は、眠気止めの強い薬を常用。男性への欲求はエスコートサービスで満たしている。

そんな彼女が、銃規制法案に賛成の立場をとるロビイスト会社に移籍する。一方、古巣の会社は銃規制法案を廃案に持ち込もうとする側のロビイストとして活動、議員の支持を取り付けるために、双方が熾烈な戦いを繰り広げる。

時にはチームの仲間を欺き、そして時には仲間を傷つけることになっても、勝利をつかむためには手段を選ばない。そんなエリザベスのタフな姿は、悪役を主人公にしたピカレスクロマンや、ハードボイルド作品を見ているようにも思えてくる。

シェイクスピア劇のようなせりふの攻防戦


まるでシェイクスピアの悲劇作品のような重厚な演技合戦が繰り広げられていく © 2016 EUROPACORP - FRANCE 2 CINEMA

そんなエリザベスを演じるのはジェシカ・チャステイン。人種差別意識が根強く残る1960年代のアメリカ南部を舞台に白人女性と黒人メードとの友情を描き出す『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』では、地元の慣習にとらわれない白人マダムを演じ、アカデミー賞助演女優賞にノミネート、国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンの暗殺作戦を描いた『ゼロ・ダーク・サーティ』では、主演のCIA分析官を演じ、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされている。そんな彼女の重厚な演技が、今回は見ることができる。

高校時代のチャステインは、かつて学校をサボってはシェイクスピアの本を読みふけるような少女で、後に名門ジュリアード音楽院に進学することになる才女。「ハリウッドで女優が演じる役は、男性目線から描かれたステレオタイプなものが多い。もっと女性のクリエーターが進出すべき」と語るなど、女性の権利を訴える論客としても知られる。

そんな彼女だけに「エリザベスは信じられないほどに頭脳明晰(めいせき)で野心家。勝つことに執着するが、実は心がもろい。演じがいのあるキャラクターだと感じた。ストーリーの全編にひねりがちりばめられ、先が読めると思ったら驚かされる。わたしはこのタイプの映画が大好きなの」と語るなど、この役を演じることに喜びを感じていたという。

本作劇中のロビイストたちは言葉を駆使して火花を散らしており、それゆえにせりふが重要となる。そこでキャスティングでは、舞台出身の俳優たちが集められ、まるでシェイクスピアの悲劇作品のような重厚な演技合戦が繰り広げられていく。

ちなみに監督のジョン・マッデンは、オックスフォード&ケンブリッジ・シェイクスピア・カンパニーに在籍した経験があるほか、マーク・ストロング、サム・ウォーターストン、ジョン・リスゴーといった、シェイクスピア劇を経験したことのある実力派たちがしっかりと脇を固めている。

本作の脚本を担当したジョナサン・ペレラは、もともとイギリスの弁護士出身。クリエーティブな仕事に夢を求めた彼は、弁護士を辞職。韓国の小学校で英語を教えながら、独学で脚本を学んでいたという経歴を持つ。そんな彼にとって初の映画作品となる脚本は、まるでスパイ活動のように策略をめぐらせ続け、巧妙なわなで相手を陥れる。そして観客の予想のつかない方向へと転がり続け、最後まで目が離せないものとなっている。

ペレラが書いた脚本は、フィルムネーション・エンターテインメント社に送られ、映画スタジオの重役をはじめとした映画業界人たちが未発表の脚本に投票して選ぶ「ザ・ブラックリスト」に入る。ちなみにこの「ザ・ブラックリスト」に入った脚本の中からは、『英国王のスピーチ』『アルゴ』『スラムドッグ$ミリオネア』といったアカデミー賞作品賞受賞作品が生まれている。

観客も予想がつかない、巧妙な策略の数々

本作にアドバイスを行ったロビイスト会社「グローバー・パーク・グループ」のアダム・ブリックスタインも「連邦議会や企業の取締役会の中でひそかに起こっていることをうまくとらえている」と本作のリアリティに太鼓判を押している。

日本人にとってなじみの薄い「ロビー活動」であるが、2020年の東京オリンピック誘致成功の影には、招致委員会が地道なロビー活動を繰り広げ、それが実を結んだものとして評価された。

日本でもロビー活動の重要性が少しずつ増しているが、表立って行われるものではないため、その実態は、わかりづらい。そんなロビイストの実態を知るきっかけとして、本作はうってつけである。とはいえ、勝つためには手段を選ばず、倫理や常識を大きく踏み外した行動に打って出るエリザベスのまねができるかは、別問題かもしれない。