奇妙礼太郎、楽曲制作の仕掛けは“瞬発力”にあり? 「歌ってて興奮する言葉をたぐり出す」

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 新人もベテランも中堅も、メジャーもカルトもその間も、ロックもアイドルも演歌もそれ以外も含めて「いい歌を歌える人」は数多存在するが、全ジャンル・全世代含めても「突出していい歌を歌える人」国内トップクラスのシンガー、それが奇妙礼太郎であることに疑問を呈する人はいないだろう。もしいたら、この人の歌をちゃんと聴いたことのない人だろう。

 今年は、Sundayカミデとテシマコージとの天才バンドでのリリースも6月にあったが、続いてソロ作品としてはメジャーからの1枚目となるアルバム『YOU ARE SEXY』が完成、9月13日にリリースされた。ソロアーティストとしての活動の傍ら、様々なアーティストのサポートやアレンジ等行っているgomesこと中込陽大(アーティストネーム、ずっとgomesだったのを最近本名に改名されました)とふたりで作り上げたこのソロについて、そのおふたりに話を訊いた。

 作品の名義としてはソロだが、インタビューはふたりで受けたい、というのは奇妙礼太郎側からのリクエストだったのだが、確かにそうした方がよかったし、そういう作品であることが、以下を読んで、そして作品を聴いていただければ、よく伝わると思う。(兵庫慎司)

■「何も持たずにふたりでスタジオ入ってしまえばいいんじゃない?って」(奇妙)

ーーこのおふたりで奇妙礼太郎ソロアルバムを作るというのは、当初から決まっていたんでしょうか。

奇妙礼太郎(以下、奇妙):いや、そもそも、ソロアルバムを1年ぐらい前に出すはずやったんですけど、なんか、できなくて。いよいよ出さないと契約上まずいってことになって、どうしようかな、gomesさんとふたりでなんかするのもいいかもなあ、と思って。それから、いろんなことをして曲を作ったんですけど、最終的にその曲は使わないで。ほとんどゼロの状態で、ふたりで3日間ぐらいスタジオに入って、その場でコミュニケーションしながら作って録りました。そこからこの方(中込)が、その大量の音源データと共に家で死にそうになりながら作るっていう(笑)。

中込陽大(以下、中込):もともと去年、キーボーディストとして、奇妙さんのソロのバンドに入って。で、去年の終わりぐらいに、このアルバムを一緒に作ることになりました。そこからいろいろ曲を作ってたんですけど、いったん全部やめることにして。

ーーじゃあそこまでで作ってた曲はボツ?

中込:そうです。

ーー何曲ぐらい?

中込:20曲ぐらいですかね。

奇妙:その20曲も、おもしろかったんですけどね。なんか僕、家に帰ってひとりで曲を作ったりするってことがなくて。なんともならないんですよね、家でひとりでやってても。そこに誰かいると、楽器持ったりしたくなるんですけど。みんなすごいなと思って、家で曲を作ったりとかするのって。

中込:メンバーの一員じゃなくて、もうちょっと深く関われるって話になってから、どういうふうに共同作業で曲を作ればいいのか、考えたんですよ。曲の外組を作って、メロディと詞だけ書いてもらうのがいいのか、メロまで自分が書いて詞を書いてもらうのがいいのかとか、いろいろ試してやったんですけど、どれもうまくいかないな、奇妙さんのいちばんいいところが出てないなと思って。それで、ライブのリハーサルとかでスタジオに入った時に、曲をやる前に遊びで音を出してる時がいちばん楽しいな、その感じで最後まで作れたらいいんじゃないかと考えて。何もない状態でふたりでレコーディングスタジオに入りました。奇妙さんはいろいろ楽器できるし、僕もいろいろやるんで……レコスタでこんな感じで遊んでていいのか、ってぐらいずっと遊んで、それを元に作っていくのが、いちばんいいのかなと。だから、基本的に全部1テイク目が音源になっていて。「今のいい感じの曲だからもう1回やってみようか」ってやると、変わっちゃうんですよね。だから、そういう意味でも、曲ができた瞬間のものをそのまま形にするのがいいんじゃないかと。奇妙さんがピアノを弾きながら歌って、自分がドラムを叩いていたり、奇妙さんがドラムを叩きながら歌って、自分はベースを弾いてたり、曲によっていろいろあるんですけど。で、あとから僕がコーラスを入れたり、ギターを重ねたりして作っていった感じです。

ーー全部その場の思いつきなんですよね。

中込:その場なんです。歌詞も。

奇妙:ただ、あれ持って行きました。『ビートルズ全詩集』と『ジョン・レノン全詩集』。「ああ、何しよかな」って思いつかない時に、ビートルズの曲をふたりでやってみたりとか。

ーーツアーメンバーのひとりだったgomesさんを、アルバム制作のパートナーとしてオファーしたのは、どこに惹かれて?

奇妙:それ、本人の横で言うのもアレなんですけど(笑)。まず、音とかタイミングとかがすばらしい、冴えてんなって思って。それから、自分ができることって……瞬発力というか、「その場でどうするか」みたいなことまではできるんですけど、それを編集したり構成したりとかすることに興味がないんで。そこを埋めてくれる人がいたらいいな、ってずっと思ってたんです。一緒にやるってなった時に、gomesさんが今まで出してるアルバムを4枚ぐらい聴いて、やっぱりいいなあと思って。「うわ、ひとりでやってるんや、こんなん」って。これをひとりで作れるってことは、全部作れるってことですから。それで、さっきgomesさんが言ってたように、スタジオで、準備できるまでフワーッてみんなが音出してる時に、「僕ひとりで弾き語りでビートルズとかやってるなあ、どんな曲やってたかな? この曲かな?」とか言うと、gomesさんそれをすぐ弾いてくれるんで。で、一緒に歌ったりして。それがすごいよくて……すごいよくて!

中込:(笑)。

奇妙:3〜4曲歌ったんですけど、「ああ、楽しいなあ」と思って。それで「あれ? これ、何も持たずにふたりでスタジオ入ってしまえばいいんじゃない?」って、その時に決まったような気がするなあ。「もう録りましょ! とりあえず、なんかを」って。

ーーgomesさんはそういう作り方に慣れてたんですか?

奇妙:そんなことはないよね?(笑)。

中込:そうですね、このアルバムだけですね。でも、自分はそういう……何かを表現したいんだけどうまくできない人を、まわりがなんとかして曲に仕上げていくっていうのはある種理想だな、そういうのができる人間でありたいな、とはずっと思ってたから。ただ、作ってる時は、自分と奇妙さんだけが楽しくて、まわりの人は超不安だったと思います(笑)。僕はもう、うまくいく感じしかしてなかったけど、僕の頭の中だけにしか完成形がないから。

■「かっこ悪いところを見せるのが恥ずかしくないっていうのは、すごい」(中込)

ーー一緒に作業をしてみて「奇妙礼太郎ってこうなのか!」って知ったことってありました?

中込:そうですねえ……。

奇妙:本人がおる時に言わせるのすごいよなあ。さっきの俺のもそうやけど。

ーー僕だってバラバラに訊けるもんならそうしたいですけど(笑)。

奇妙:じゃあちょっとどっかに行っときますよ(と、イスごと遠くに離れていって、アコースティックギターを弾き始める)。

中込:うーん……もっとかっこつけてる人なのかなと思ってました(笑)。天才バンドのライブを名古屋で観たことがあって。天才バンド、すごいかっこいいじゃないですか? だから、普段からパキッと決めてるのかと思ったら、全然そういうところがない人で。それで好きになったのを覚えてますね。かっこ悪いところを見せるのが恥ずかしくないっていうのは、すごいなあと思って。

ーー─シンガーとしては?

中込:シンガーとしては、だって、すっごいじゃないですか?

奇妙:(イスごとさらに遠くに行く)

中込:すばらしいんじゃないですか? それはそう思いますよ、誰でもそう思うように。

奇妙:もうヤだヤだヤだー!

ーー(笑)。でも、すごいがゆえに大変だっていうのもありません?

中込:どういうことですか?

ーーたとえば天才バンドだと、奇妙さん以外にもうひとり様子がおかしい人がいるじゃないですか(笑)。そのふたりのバトルで成立してると思うんですけど、中込さんはもっとプロデューサー的というか。

中込:(笑)。そうですかね? わかんないですけど──。

奇妙:(遠くから)小林武史感出てる?

中込:(笑)。ただ、奇妙さんのアドリブに、Sundayさんみたいにアドリブで応戦できない分、音楽で返してる感じはありますよね。だから、Sundayさんと違う形で同じ役割をやっている感じはします。

ーーなるほど。奇妙さん、もう戻ってきても大丈夫ですよ。

奇妙:(戻ってくる)

ーー奇妙礼太郎にとって、いろんなアウトプットを持つというのは大事なんでしょうか。ソロ、天才バンド、前はトラベルスイング楽団もあって。

奇妙:いや、それも、ほんまになんにも考えてないんですけど。流れでそうなってきた、っていう感じなんですけど。なんか……天才バンドは……なんでやってんねやろな?

中込:(笑)。

ーー天才バンドは、Sundayカミデの曲を奇妙礼太郎が歌う、というコンセプトがあるじゃないですか。たとえばトラベルスイング楽団ならトラベルスイング楽団だけでずっと続けるわけではない、そうやっていろいろやっていかないと自分はおもしろくなっていかない、みたいなのがあったりするのかなあと。

奇妙:いや、トラベルスイングやめた時とかは、ちょっと頭打ちやなあ、やることがなくなったなあ、という感じで……メンバーが結婚したり、仕事で偉くなって動きにくくなってきた、とかもあったんですけど、なんかやるにしても、ちょっともうええかな、お腹いっぱいやな、と思って。ほんで、ひとりでちゃんとやろうと思ったんですけど、これまでまわりの人にだいぶ頼ってたな、っていうのが、やり始めたらわかった。トラベルやってる時は、自分がすごいからみんなを連れて行ってるんやって勝手に思ってたんですけど、やめてみたら「ああ、全然逆やったんやな。ひとりやとなんもでけへんわあ」って思って。なんか、みんなに年賀状でも出そうかな、御歳暮とか贈ろうかな(笑)、「今までありがとう」って。とか思ってたりしたんですけど。それはやめたからわかったことで。すごいよかったですね、わかって。自分に何が足りてないかとか、自分にできないことはこれなんやな、とかいうのがはっきりして。でもやらなあかんな、と思ってやってたんですけど、やっぱりうまいこといかんくて。そこに現れし救世主が──。

中込:(笑)。いやいやいや。

奇妙:最初は全部自分でやろうと思ってたんですよ。で「ああ、こんなにもでけへんのか」と思って。今から全部できるようになるまでがんばるとか、やめようと思ったんですね。で、「俺は全然なんにもできません!」って、マネージャとかに言ってたと思う。「俺は何もできないから! さあどうする!」「はい、じゃあ人を探します」と(笑)。

■「ひとりで家で曲を作ってる時に、聴いてる人のことを想像できない」(奇妙)

ーーちょっと前に天才バンドでインタビューさせてもらった時に、ほんとにアドリブでその場で曲を作ってるというのを聞いて、そんなことできるのはこのメンバーだけだろうなと思ったら、こっちでもけっこう近いことをやってるという。

中込:(笑)。そうですね。

ーーしかも他の制作方法も試した上で、最終的にこの方法に行き着いたってことは、奇妙礼太郎のいちばんいいところをひっぱり出せるのはこれなんだ、ということなんでしょうか、プロデューサー。

中込:(笑)。プロデューサーはやめてください。でも……わかんないですけどね。ほかの方法もあるのかもしれないですけど、今のところはそういう感じがしますよね。

奇妙:うん。このやり方で、もうちょいゆっくり作ってみたりもしたいですね。引き続き。

中込:思ってもなかったような言葉とか、意外なところですごい正直になった言葉が出てきたのが……ちゃんと作ろうとすると、そういうの、どんどん削っていっちゃうと思うんですね、書き直したりして。それがちゃんと残ってるから、すごくいいものができたな、と思いますけどね。

奇妙:……いやあ、恥ずかしい(笑)。

中込:まあ本人は恥ずかしいと思いますけど。でもそういうのがあるのが、作品としていいじゃないですか?

奇妙:まあ、そういう、仕事です。

ーー聴き返したり歌詞を見直したりすると恥ずかしい?

奇妙:全然恥ずかしいですね。(歌詞カードをめくる)……いやあああ!

ーー(笑)。でも、自分からそういうものをひっぱり出すために、そういう作り方をしているところもあるんじゃないですかね。

奇妙:ああ、こうしないと出ないですね。ひとりで家で曲を作ってる時に、聴いてる人のことを想像できないんですよね。実際にそこにいないと。このアルバムを録った時も、gomesさんがいて、ブースの外にマネージャーとか、いろんな人おって。即興でピアノを弾いて、なんとなく歌い出して、で、「ああ、これノッてきたな」ってgomesさんわかってくれるんで。それで「はい、こっちですよー」ってレールを敷いてくれて、それに乗りながら「なんか出てこい、なんか出てこい」って歌ってて。そうやって動いてる時に……思考とか、自分とどんどん向き合うことが、進んでいく感覚があって。おもしろかったですね。それがなかったから、そういう言葉とか全然出てこないんで。歌ってて「うわっ!」って興奮するような言葉をたぐり出す感じで。

中込:でもほんと、その場であれだけの言葉が出てくるのってすごいなあと思いますけどね

奇妙:それはひとりでは無理なんですよね。ピアノあって、gomesさんおって、聴いてる人がおって……あとブースの外がね、男だけの時、あんまり出てこない。

中込:(笑)。わかる、でも。

奇妙:不思議なんですけど。なんかがんばるんですよね。たぶん、聴いてほしいことがあったりするんやろうな、女の人にね。

中込:女の人ばっかりでもよくないんですけど。そうすると媚を売り始めますからね。

奇妙:うわあ!(笑)。

(取材・文=兵庫慎司)