カーリング女子の平昌五輪代表決定戦で、ロコ・ソラーレ北見(LS北見)が中部電力を3勝1敗で退け、創設8年目にして念願の五輪出場権を勝ち取った。

「麻里ちゃん!」

 コーチボックスから下りてくる本橋麻里の姿を認めると、セカンドの鈴木夕湖は氷上を駆けだした。本橋は両手を広げて鈴木を強いハグで迎え、続いて、リードの吉田夕梨花がその輪に入る。吉田知那美や藤沢五月が加わる頃には、本橋の目に大粒の涙が浮かんでいた。


平昌五輪の出場権を獲得したロコ・ソラーレ北見

 今季、主将を務める本橋はリザーブとしてチームを支える決断をした。昨季は、「吉田夕→吉田知→本橋→藤沢」、あるいは、「吉田夕→鈴木→本橋→藤沢」という布陣を組んでいたが、思うような結果が出なかった。そこで今季は、2016年の世界選手権で銀メダルを獲得した「吉田夕→鈴木→吉田知→藤沢」に戻し、本橋をリザーブに置いた。

 しかし、LS北見にとって、本橋はただの”補欠”や”5人目の選手”ではない。創部からチームの指導にあたってきた小野寺亮二コーチはこう語る。

「麻里が(他の)4人より劣っているなんてことは、一切ない。むしろ、すべてのポジションを高いレベルでこなすことができるという意味では最も優れています。麻里がコーチボックスに座っているからこそ、他の4人が思い切ったいいパフォーマンスができるんです」

 実際に、今季の国内開幕戦である7月のアドヴィックスカップでは、吉田夕がゲーム中に左肩の違和感を訴えたため、本橋がスクランブル出場。安定感のあるデリバリーと、正確なスウィープで好リリーフを果たすと、試合後には「いつ、どのポジションで出ることになっても、準備はできていますから」と涼しげな表情で語った。

「なんでこの人はこんなにストイックにやるんだろう、こんなにできるんだろうと不思議になります。彼女は”カーリングの変態”だと僕は思っています」

 そう笑うのは、夫の謙次さんだ。本橋はリザーブになってもトレーニング量を落とさず、家事も育児もきちんとこなしているという。そこに、「フィフスだから」「母だから」といった妥協はない。本橋がそうした姿勢を若い選手に見せることで、「麻里ちゃんをリザーブに置いているんだから、恥ずかしいゲームはできない」と鈴木が決意したように、氷上の選手に緊張感と自覚が芽生えるのだ。

 そして、今回の代表決定戦では、ゲーム外での本橋の”献身”が勝利を呼び込んだ。

 カーリングのビッグマッチでは、開幕前にストーンの調整をする。石底の接氷面をわずかに研磨し、微妙なエッジを作ることで石の曲がりを生む狙いだ。それによって曲がりやすくなる一方で、石ごとに僅かなクセが生じることになる。

 当然、中部電力もLS北見も、公式練習では全員で石を投げて状態をチェックする。しかし本橋は、試合後も毎日アイスに残り、ナイトプラクティスと呼ばれる二重のチェックを行なった。

 対する中部電力は、公式練習と初日のゲーム後に全員でチェックはしたものの、以後は休息を優先させてナイトプラクティスには参加しなかった。もちろん、その選択はチームの方針であり、チェックの有無と結果を直結させることは短絡的だ。

 それでも、「麻里ちゃんのチェックを100%信頼している」という吉田夕は、本橋から日々アップデートされてくるストーンのデータを元に、対策を練ることができたという。そして、五輪出場を決めた第4戦では、石のクセをものともせずに難易度の高いウィックショットを連発し、中部電力の反撃の糸口を潰した。本橋のストーンチェックが迷いを消し、メンタル面の大きなサポートになったことは間違いない。

 吉田夕と同様に、荒れ石処理班を担った鈴木は、五輪代表決定会見で「(チームに入った当初は)クソガキで迷惑かけたけど、やっと大人になれました」と、本橋への感謝を口にした。

 五輪出場が決定してすぐ、ふたりが本橋のところに駆け寄ったのは、そのあたりに理由があるのだろう。カーリングを取材していると「ストーンを4人で運ぶ」といった言葉がよく聞こえてくるが、LS北見に限っては間違いなく5人でショットを決めていた。このスタイルが成熟していけば、五輪での躍進も十分に期待できる。

 ただ、小野寺コーチが「足りないものはまだまだある」と語り、鈴木も「課題もたくさん見つかった」と自戒を口にしたように、今は世界への挑戦権を得ただけに過ぎない。最大の目標であった五輪への切符を手にし、チームはまた新たなスタートを切る。これから約3カ月に及ぶカナダ遠征に出発する前に、本橋は今後について語った。

「リザーブはベストメンバーを狙うものです。リザーブで満足しているならチームには必要ありません。コーチボックスで見た景色が、また私を成長させてくれると信じています」

 本橋とLS北見の、新たな、そして最大の挑戦が始まる。

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