9月12日(米国時間)のアップル発表会で登壇したCEOのティム・クック氏(筆者撮影)

米国時間の9月12日、アップルは新しいiPhone「iPhone X」「iPhone 8/Plus」、4K HDRに対応する「Apple TV 4K」、LTE通信に対応した「Apple Watch Series 3」の4製品を明らかにした。

本稿では現地のタッチ&トライコーナーで聞き取った情報や操作感、イベント基調講演では触れられなかった話をストレートにお届けしたい。

「iPhone X」「iPhone 8」を同時発表

まだ3Gネットワークも搭載していなかった初代iPhone。2007年6月29日、はじめてのiPhoneが発売されてから10年以上の時が経た。果たしてアップルは次の10年を象徴する製品を我々に見せてくれるのだろうか。

そんなノスタルジックな回想を巡らせてしまうのは、今年のiPhoneを発表する会場が、亡きスティーブ・ジョブズが“イノベーションを生み出すコミュニティを生み出す”ことをコンセプトとして描いたとされる、アップルの新社屋「Apple Park」で行われる初のメディア向けイベントだからだ。

まだ完成していない新社屋には2017年後半、順次引っ越しが進められるとのことだが、今回の新製品発表に合わせて、9月12日だけ特別に「Steve Jobs Theater」と「Visiter Center」の2施設を臨時にオープン。この2つの施設も13日からは再度閉鎖され、新社屋の落成式を待つことになる。なお、今後アップルが行う新製品発表は、すべてこの新設備で行われる予定だ。

さて、そんな記念すべき発表会の場で発表された新製品のひとつは、iPhoneの10周年に発売される「iPhone X」だった。

かつてのmacOSにならってXをギリシャ文字に見立て「テン」と読ませる。そしてiPhone 7の後継モデルとして機能性能を向上させたiPhone 8およびiPhone 8 Plusの2ラインだ。

iPhone Xとの主な違いはディスプレーのサイズ、形状と方式、それにFace IDと呼ばれる顔による個人認証システムの有無、Animojiと名付けられた使い手の顔の表情を読み取って作れるアニメーション文字の有無などだが、これらはiPhone X進化の極めて表面的な部分に過ぎない。

iPhone Xの本質は、最新技術で改善したOLED(有機EL)ディスプレーやベゼルレスデザインなどだけにとどまるものではなく、顔の形状を認識する最新のセンシング技術を盛り込み、それを第三者のアプリケーションにも解放したこと。それにニューラルネットワークエンジンをハードウェアとして組み込んだ点などにある。

これらは基本ソフトであるiOSに施されてきたアップデートとも密接に関連し、今後、iPhoneが進化する方向性を示していると言えそうだ。その点については詳報で別途お伝えしていくことにするとして、本稿では製品としての機能について紹介する。

3世代目となるApple Watchの特徴は?


Apple Watchの予約開始は9月15日、発売は9月22日。LTE搭載モデルは4万5800円〜(筆者撮影)

iPhone以外に発表された2つの製品についても触れておこう。

まずはApple Watch。LTEによる通信機能を搭載する3世代目となる「Apple Watch Series 3」だ。この新モデル発表と同時にApple PayやGPSを内包していたSeries 2は、Series 3のLTE非搭載版に置き換えられ、よりシンプルなオリジナルのSeries 1が低価格モデル(2万7800円〜)として継続されることも明らかにした。

単独で通信機能を持つため、スマートフォンを持っては行けないような場所……たとえばマリンスポーツなどでもあらゆる情報をやり取りできるほか、単体での動作性能を向上させるために内蔵プロセッサーやWiFi機能を強化している。またApple Musicを携帯電話回線経由で利用できるのもスポーツファンにはうれしいはずだ。

ペアリングするiPhoneの回線契約を共有するために、携帯電話事業者側の対応が必須となるが、日本では3つの携帯電話事業者がすべて対応する。ただしMVNOのいわゆる格安SIMでは当面利用できない。

もうひとつがApple TV。日本では放送での4K/8Kへの本格以降が控えているが、ご存知のようにネット配信サービスにおいては4Kの移行が先行して進んでいる。そうした中で、映像技術の最新トレンドであるHDR(高ダイナミックレンジ)も取り込む形でアップデートした新バージョン「Apple TV 4K」を発表した。

同時に4K/HDRに対応した映画の配信が始まるほか、米国では年内にスポーツのライブ中継配信をインターネット経由で行っていくなどの発表が行われた。もちろん、Amazon Prime VideoやNetflixなど、4K/HDRにすでに対応しているプラットフォームもApple TV 4Kで対応される。

iPhone 4シリーズに近い質感

Apple Watch、Apple TVにも注目するべきだが、やはり圧倒的に注目されているのはiPhoneシリーズである。

iPhone 8シリーズの外装はアルミニウム。ただしワイヤレス充電「Qi(チー)」に対応するため背面を強化ガラス(従来のカバーガラスに比べ50%強化している)で覆ったこともあり、その質感はスティーブ・ジョブズ氏が最後に関わったと言われるiPhone 4シリーズに近い。この変更でアンテナを隠すことができた。外形はiPhone 7シリーズよりわずかに大きい程度で“同じ”といっても差し支えない程度。全体のフォルムはよりシンプルになっている。ぱっと見た感じではiPhone 7のジェットブラックモデルに近いかもしれない。

ディスプレーも進化しており、Retina HDと名付けられたディスプレーには、iPad Proで培われた技術が持ち込まれている。正確な色再現性とデジタルシネマ規格に対応する広色域再現。環境に応じてホワイトバランスを調整するTrue Toneにも対応している。

25%音圧が高く低音の再現性も高くなったというステレオスピーカーは、騒がしいハンズオン会場では確認できなかったが、確かにディスプレーの品質は高く、iPad Proに近いか同等という印象を持った。

搭載されるプロセッサーはA11 Bionicと名付けられた独自開発のもので、従来は他社からライセンスしていたGPU部を含め独自開発。iPhone 7に搭載していたA10よりも25%高速なCPUは、電力効率が70%高まった。内蔵GPUはライセンスしたものではなく、はじめて独自開発。30%高速化したことも目玉だが、iOSに搭載しているグラフィクス機能やマシンラーニングに使う分析機能に最適化させている。

カメラに使うイメージプロセッサー(ISP、イメージシグナルプロセッサーという)もアップル独自設計だ。高速なオートフォーカスと帯域ごと個別にノイズ処理を最適化できるマルチバンドノイズリダクションをハードウェアで実装した。その結果、新型センサーや階調特性が良くなっているようだが、機能面ではデュアルカメラを搭載するiPhone 8 Plusにおいてさらに多くの恩恵をもたらす。

新たに「ライティング効果」を搭載


iPhone 8のポートレートモードで撮影(筆者撮影)

iPhone 7では「ベータ版」として搭載されていた主被写体を認識して背景をぼかす「ポートレートモード」は、顔の形状を認識することでスタジオライティングを模した、さまざまな特殊効果を利用できるようになっている。

記録された写真には、こうしたライティング処理を行うための追加情報が加えられているため、撮影後にライティングを変更することもできる。

こうした処理を行うための機能がA11 BionicのISPで実現している。同じデュアルカメラでも、iPhone 7Plusでは輪郭や顔の形を認識できないのはこのためだ。ISPはビデオ処理も担当するが、内蔵する動画圧縮エンジンも強化されたため、4K映像は毎秒60フレームを実現。あるいはフルHDで毎秒240フレームのスーパースロー撮影も行える。

iOS 11で追加されることが予定されていたAR(仮想現実)機能は旧モデルでも利用できるが、iPhone 8シリーズではジャイロセンサーや加速度センサーが新型になり、AR機能をより高精度に実現できるよう調整されている。

と、ひととおり紹介された機能をトレースするだけでも盛りだくさん。デザインなどはコンセプトをキープしながらも、より洗練されたものに仕上げ、性能を強化。さらに6月のWWDC(開発者会議)で発表していたiOS進化の方向性に合わせてハードウェアを刷新している。ハードウェアと基本ソフトを同時に開発するアップルらしい、手堅い進化と言えるのではないだろうか。

なお事前のうわさ通りに追加されたワイヤレス充電機能だが、業界標準のQiを採用するだけでなく、現在、使用策定を進めようとしているマルチデバイス充電機能の対応も予告した。


アップル純正ワイヤレス充電器「AirPower」を用いると最大3デバイスまで充電できる(筆者撮影)

来年発売予定のアップル純正ワイヤレス充電器「AirPower」を用いると最大3デバイスまでのQi対応機器を充電できるようだ。

このためにApple Watch series 3はQi対応に変更。ワイヤレスイヤホンのAirPodsもQi対応充電ケース提供され、3デバイスを同時充電できるようにするという。

ただしワイヤレス充電に対応するためか、iPhone 8、8Plusはそれぞれ前モデルから重量が20グラム/24グラム増加している。

iPhone Xは記念碑的な特別モデル

一方、名前が示すとおり10年目を象徴するiPhone Xは記念碑的な特別モデルとなる。

フレームは剛性が高くグロス仕上げのステンレスを用い、極めて細く仕上げたうえでOLEDを用いることで、前面のほとんどをディスプレーで埋め尽くすデザインを実現した。電極部を折り返しているため、上下左右とも極めて細いベゼルとなっている。

各部品の接合部はシームレスと言えるほど滑らかにつながる高精度の工芸品のように仕上げられているが、一方で高価な製品であることは否めない。256ギガバイトモデルは約13万円。拡張修理保証サービスのApple Careに同時加入すると15万円を越える。

採用するOLEDパネルは5.8インチ。2436×1125画素のディスプレーは、1インチあたり458画素と極めて高精細だ。OLEDには高コントラストや薄く折り曲げ可能などの特徴があるが、輝度や色再現性などに問題を抱えてきた。

今回のディスプレーはそうした点を解消しているとのことで、液晶のRetinaディスプレーと同等の色再現やTrue Toneなどの機能性も実現している。実際、625カンデラという最大輝度はiPhone 7/8シリーズとまったく同一である。

スペック上の画面サイズは大きいが、ベゼルが狭いためサイズ感はiPhone 7に対して若干大きめ程度の印象で、男性であれば手のひらにすっぽりと収まるはずだ。重さも174グラムとiPhone 7Plusよりは軽く、iPhone 8Plusの202グラムに対しては大幅に軽い。

このディスプレーを搭載するため、従来のホームボタンを廃止。Apple Payの呼び出しなどはサイドボタンへと役割を移し、レジュームからの復帰は画面タッチに。そしてホームボタンに相当する操作はタッチパネルを下端から上にフリックするジェスチャーに変更される。

ホームボタンの廃止に伴い指紋認証のTouch IDもなくなるが、その代わりに導入されるのがFace IDだ。Face IDは、赤外線で多数のドットを投影しそれを赤外線センサーで読み取ることで立体形状を読み取り、人の顔を識別する技術。形状を立体的に捉えるこの技術は、マイクロソフトがゲーム機でも活用している。

アップルはiPhone Xの上部にあるごく僅かな切り欠きに、3D形状を認識するセンサー群とフロントカメラ、環境高センサー、スピーカーなどを並べ、さらに100万回に1回という低いエラーレートで正確に個人識別を行う。しかも極めて識別速度は早い。これはA11 Bionicに内蔵されたニューラルエンジンを活用しているためだという。

アップルは、この顔の形状、表情を認識する機能を応用したアプリケーションをFace ID以外にも2種類用意した。


顔の表情を読み取って、あらかじめプログラムされている6種類のキャラクターに置き換えることができる「Animoji」(筆者撮影)

ひとつはフロントカメラへの応用で、従来はリアカメラでしか行えなかったポートレートモードがフロントカメラでも利用可能となり、ライティング効果も8 Plusのリアカメラ同様に利用可能だ。実際に試したところ、むしろ顔の形状を正確に把握しているフロントカメラのほうが、ポートレートライティング機能が上手に動くようだった。これにより自撮り画像をポートレートモードのライティング機能で加工することができる。

もうひとつはAnimojiと名付けたアニメーション版の絵文字を作れること。顔の表情を読み取って、笑ったり驚いたり、あるいは怒ったりといった表情を、あらかじめプログラムされている6種類のキャラクターの表情へと置きかえ、音声とともに記録。それをiMessageで送ることができる。

単なる「機能追加」ではない

もちろん、単なる機能追加のためであるならば、こうした複雑な仕組みを投入する意味はない。iPhone XとiPhone 8シリーズに搭載するA11 Bionicや新しい基本ソフトのiOS11に共通するキーワードである機械学習やニューラルネットワークといったキーワードも含め、新しいプラットフォームとして取り込むことで、アプリケーション開発者が新しい領域に踏み出すことをアップルは期待しているのだろう。

アップルCEOのティム・クック氏は、かつてスティーブ・ジョブズ氏が言っていたという言葉を引用しながら「我々はみんなが向かっている方向を追いかけるのではなく、向かうであろう場所に向かって、自ら動く」と話した。

10年前、現在にまで続くエレクトロニクス業界の基礎部分を作ったのは初代iPhoneだった。iPhone Xはこれからの10年を変えていく製品だとクック氏は言う。アップルは、iPhone Xを新しい起点として、未来につながる道を示していくに違いない。