「根拠のない自信が現実に」――幅広い世代に支持されるGLIM SPANKYが描くロックの世界

20代ながら、1960〜70年代のロックとブルースを基調とした音楽的世界観で、若者だけでなく40代や50代のファンも多い。何よりハスキーでパンチのある松尾レミの声が、聴く者の心を捉えて離さない。そんなロックユニット、GLIM SPANKY(グリムスパンキー)の3rdアルバム『BIZARRE CARNIVAL』には、「もう自己紹介は終わり。これがGLIM SPANKYらしさ」と松尾も自信満々。彼らのロックとその背景を探る。

撮影/川野結李歌 取材・文/坂本ゆかり 制作/iD inc.

タイトルの“へんてこなカーニバル”が意味するところ

アルバムタイトルが『BIZARRE CARNIVAL』なので、リード曲(※アルバムの代表曲)も『BIZARRE CARNIVAL』と思いきや、違うんですね。
松尾(Vo/Gt) リード曲は『吹き抜く風のように』なんですけれど、アルバム全体の雰囲気を象徴する曲を2曲目の『BIZARRE CARNIVAL』にしたかったんです。まだ楽曲タイトルを決めていないタイミングに、アルバムタイトルを決めなきゃいけなくて。それでアルバムにも楽曲にも通じて、いろいろな意味づけができるタイトルを考えました。
“へんてこなカーニバル”という意味ですよね。
松尾 GLIM SPANKYのやりたいロックは激しいものも静かなものもあって、雑多でへんてこ。「へんてこなカーニバルがやってくるよ!」って感じにしたかったんです。
『BIZARRE CARNIVAL』はサイケデリック期のビートルズを彷彿させるミドルロックですが、楽曲的な思惑は?
松尾 思惑というより、完全に私の趣味(笑)。3枚目のアルバムになりますが、1枚目、2枚目のアルバムは、自己紹介だと思って作りました。そこでマニアックなものをやっても伝わらないじゃないですか。だから、GLIM SPANKYらしさを出せるのは、3枚目からだと思っていて。
▲松尾レミ(Vo/Gt)
3枚目だからこそ、できることがあると?
松尾 『BIZARRE CARNIVAL』や『The Trip』を入れることで、GLIM SPANKYのより深い部分を見せられるアルバムができあがりました。
GLIM SPANKYといえば、映画『ONE PIECE FILM GOLD』の主題歌『怒りをくれよ』のような、疾走感のあるロックのイメージが強いですものね。
松尾 みなさんに知っていただくきっかけになったタイアップ曲は、「テンポが速い曲」ってリクエストが多かったのですが、デビュー前のGLIM SPANKYってミドルテンポのロックばっかりだったんです。速い曲も作れるようになって、より原点に戻った曲が活かせるようになりました。
アルバムを作るためのインプット作業のようなものはしましたか?
松尾 私は去年の秋に、フランス、ドイツとアメリカに行きました。今まで友達とふたりで行くことが多かったのですが、今回はひとり旅になることも多くて。デザインの美術館に行ったり、わざと治安の悪い駅で降りたり、衣装探しに行ってみたり。自由に歩き回ったことが今回のアルバムの歌詞に反映されていると思います。旅に出てよかった。自分の中のものを思いっきり出したので、またインプットのためにどこかに行きたいな(笑)。
▲亀本寛貴(Gt)
次に行くなら?
松尾 チェコ。雑貨とか昔ながらの服とか、可愛いものがたくさんあるので憧れ。とにかく行きたい国がいっぱいある!
国を渡り歩いて、いろんなものを吸収できそうですね。亀本寛貴さんのインプットは?
亀本(Gt) 僕は、毎日がインプットだからなぁ(笑)。常に音楽を聴いています。新しいものを聴いたり、古いものを聴き直してみたり、気になった曲は調べたり。そういう意味では、24時間、365日がインプットです。

『吹き抜く風のように』は“うらやましさ”から生まれた

リード曲『吹き抜く風のように』は、現在のGLIM SPANKYの心境を歌ったのかな、と思ったのですが。
松尾 この曲を作るきっかけがあって。春に祖父が亡くなって、松尾家が無宗教だということを初めて知ったんです。
だから、「宗教や戦争も僕にはない」という歌詞が生まれたんですね。
松尾 はい。無宗教だからお葬式じゃなくて「お別れ会」をしたのですが、落ち着いて考えると、やっぱり手を合わせたくなるし、おじいちゃんはどこに行ったんだろうって思ってしまう。仏教だったら来世への修行に出たとか、キリスト教だったらイエス様のところに行ったって考えられるんですけど、何もないんですよね(笑)。
少し、寂しくなりますね。
松尾 はい。寂しくなったし、心の拠りどころである宗教がある家がうらやましいと思ったんです。自由だからこその不自由さや、寂しさを知って、自由であるには「芯がしっかりしていないといけない」って強く思ったんです。
『吹き抜く風のように』のMVは、ちょっと不思議な世界観です。
松尾 今回はカット割りをせずに、ワンカットで撮ったんです。歌詞も間違えられないし、すごく緊張したけど、ワンカットの奇跡みたいなものが映像にできたと思います。
亀本 1.5倍速で撮って、スローで再生してるんです。ワンカットだから失敗できないんだけど、ハプニングが起きまして。
ハプニング?
亀本 歩いている松尾さんのスカートの裾に、撮影で使ったバラの花が絡まっちゃったんですよ。監督がカメラを持って松尾さんを追って映しているんだけど、「引きのアングルになったら(絡まったバラが)見えちゃう!」ってハラハラしてたんです。そうしたら、カメラが引く瞬間に、監督がバラの花を踏んで外すという神業を見せました(笑)。スゴかったよね、監督、大活躍(笑)。
松尾 あったね(笑)。
それから『ビートニクス』は、10月21日公開の映画『DCスーパーヒーローズ vs 鷹の爪団』の主題歌ということですが、GLIM SPANKYは『鷹の爪団』への楽曲提供が多いですよね。
亀本 FROGMAN監督がすごく気に入ってくれていて、家族でライブにも来てくださるんです。
松尾 今回は、映画のエンドロールに流れるので、“掴み”にこだわって作りました。「疾走感がある感じ」ってリクエストだったので、滑走路を走る感じのイメージを共有しながら。
亀本 映画が終わって、流れる音の頭って大事じゃないですか。イントロでカッコよさを出さないとサビまで聴いてもらえない。エンディングのラフ(※完成前の大まかなもの)の映像を見せてもらいながら、そのカッコよさを想像して作ったので、“掴み”には自信アリです!
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