ジャック・アタリ氏は「市場経済では利他主義が合理的になる」と予測しています(写真:Graphs / PIXTA)

フランスナンバーワンのエリート校、フランス国立行政学院(ENA)を卒業し、38歳にして故フランソワ・ミッテラン大統領の補佐官を務め、欧州復興開発銀行の初代総裁などを歴任したジャック・アタリ氏。米ドナルド・トランプ大統領の誕生を予言し、仏エマニュエル・マクロン大統領を政界に導いた人物でもある。
世界の情勢が混迷を深める中、私たちはテクノロジーの進化や政治、経済の変化に対して、どのように対応して生きていけばいいのか。
「『フランスの超天才』が予測する2030年の世界」(8月20日配信)、「『フランスの超天才』が予見する2030年の生活」(9月1日配信)に続いて、アタリ氏の近著『2030年ジャック・アタリの未来予測 ―不確実な世の中をサバイブせよ!』から、大胆かつ緻密に2030年の世界の姿を予測する。

生産される自動車の大半は、自動運転車に

自動車

今から2030年までに、キロワット時当たり150ドルのバッテリーが開発されるため、ハイブリッド車が急速に普及する。

リチウム・空気電池(この電池は2050年ごろまでに実用化が期待される。この電池のエネルギー密度は現在のリチウム電池の6倍)により、電気自動車の航続距離は従来の内燃機関車と同程度(一回の充電で600キロメートル以上)になるだろう。

一方、遺伝子を組み換えたウイルスを利用して陰極をより効率的に洗浄することで、バッテリーの駆動時間をさらに向上させることができる。

電気自動車の使用済みのバッテリーは、データセンターや一般家庭でのエネルギー供給のためにリサイクルされる。

最寄りの自動車ショールームでは、3D映像で確認しながらマイカーのモジュール生産が可能になる。

2030年に生産される自動車の大半は自動運転車だろう。自動運転車は、自動運転やIoT経由のインターネット接続のため、光電子工学のセンサーや人工知能が搭載される。

自動車のオンデマンド利用や共有、個人間でのレンタカーが当たり前になる。したがって、自動車の生産台数は減り、自動車の稼働率は急増する。

航空

近い将来、航空機はハイブリッド型エンジンを搭載するようになる。離陸時に電気を利用するのだ。

ノースロップ・グラマン社は2つの胴体をもつ航空機を設計した。これが実用化されると、輸送力は飛躍的に高まる。

エアバス社はハイブリッド型エンジンを搭載する100席くらいの旅客機の開発を目指すと同時に、交換部品を3Dプリンターで設計することを計画している。

地上からのリモコン操作で飛行する、パイロットなしの航空機が登場する。航空機の素材、構造、操縦は、新たなテクノロジーによって一変するため、推進システムはほぼ完全に機体に組み込まれる。つまり、機体の構造は一新されるのだ。

スポーツ観戦も仮想現実化する

娯楽

娯楽産業は仮想現実によって一変する。観客は、見る位置を変える、ズームインやズームアウト、さらにはカメラアングルから外に飛び出す、映画の場面をつくり変える、そしてストーリーを操作するようになる。

娯楽業界では、ビデオゲームの対戦や配信がますます盛んになる。娯楽はさらにパーソナライズされ、独創的になる。

スポーツ観戦も同様だ。スポーツ観戦も新たなテクノロジーの影響を受け、部分的に仮想現実化する。

芸術

テクノロジーは芸術にも新たな独創力の源を提供する。3Dプリンターによる仮想現実は、創造するための当たり前の道具になる。観客は作品の創造者であり、出演者になる。バレエ、オペラ、コンサートの区別がなくなる。

今から2030年までに、観客は作品と実際に対話できるようになる。すでに「リープモーション」を利用すれば、音と手のさまざまな動きを結び付けることができ、誰もが音楽家や振付師になれる。

テタ・ファントムという情報技術を用いれば、芸術家の脳波を介して音や視覚的要素を生み出すことができる。

ダリ美術館の入館者は、スペインの画家ダリの超現実主義の世界を仮想体験できる。

ジョイア・ストゥディオでは、ジョルジュ・デ・キリコの作品群の中に入り込める。

バンクシー、ネックフェイス、インベーダーなどの作品のように、現実を誇張したストリートアートが発展する。

テート・モダン(ロンドンにある近現代美術館)では、人工知能が芸術作品と現在の出来事を結び付けてくれる。

ロボット工学の威力を利用して創造力を発揮する芸術も登場する。たとえば、セルビアの芸術家ドラガン・イリッチは、巨大なロボットアームに支えられて、自分自身が筆になってカンバスの上を移動するパフォーマンスを演じた。

市場経済では利他主義が合理的になる

共有経済

2016年から2030年にかけて、共有経済の5つの主要分野(金融、求人情報のオンライン提供、宿泊、自動車の共有、音楽や動画のストリーミング)の市場規模は30倍になる。

大手コンサルティング会社のプライスウォーターハウスクーパースによると、そのなかでも、金融と求人情報のオンライン提供は、最も成長が期待されるという。今後、年平均成長率は、前者が63%、後者が37%と見込まれている。

このようにして需要の最も大きな分野の市場において、共有と利他主義が同盟関係を結ぶ。

リサイクル


今から2030年までに、分子あるいは原子レベルの新たな物質分離プロセスにより、物質の純度と本来の特性が維持できるようになる。

たとえば、オルレアン大学の研究チームは、温度が摂氏500℃で圧力が250気圧の「超臨界」状態の水を利用する。この臨界状態の水は酸化力、すなわち腐食力が極めて高い。あらゆる有機物は、この水に触れると破壊されて気体に変わる。この分解処理プロセスを用いれば、プリント基板上の重合体を処理できる。つまり、レアメタルを容易に回収できるのだ。

ゴミはリサイクル推進のためにこれまで以上に利用される。したがって、一次産品の生産量は減少する。

リサイクルも将来世代に資する活動であるため、市場経済では利他主義が合理的になるのだ。